理工の大音

和歌山亮

第1話

「あの、理工学部のオオネさんですか?」

 大学構内で掛けられた声に振り返ると、見知らぬ女性がこちらを向いて立っていた。黒い髪を肩までストレートに伸ばしていて、眼鏡をかけている。まあ普通の女子大学生だ。

 先ほどの言葉は、今、僕を凝視しているその女性が、僕に対して放ったものであることは間違いないだろう。

 問いはYes/Noで回答できる単純なものであり、いかにも、僕は理工学部物理学科所属の大学二年生、大音拓真おおねたくまである。

 問いの解答も、答える相手も分かっていた。

 しかし、僕はその問いにすぐさま答えることができなかった。

確かに自分は理工学部に所属しており大音という苗字を持っている。

 だが、それだけだ。

 それだけの、他に何の話題性も意外性も持ち合わせていない、授業終わりの一般男子大学生である僕が、見知らぬ人間から個人を特定され声をかけられる理由が、皆目見当つかなかったのだ。

「そうですが…」

 とりあえず肯定の意は示したものの、その先が続かない。

 『人違いかつ言い間違いじゃないですか』、『理工学部に他にオオネさんっているんですか』、『もしかして適当に声を掛けたら偶然名前が当たっちゃいましたか』、など様々な言葉が頭の中を駆け回り、中々口にまで出てこない。

「あの。これ」

 困惑するこちらをよそに、その女性は両手で持っていた封筒をこちらに差し出してきた。声が震えているように聞こえるのは気のせいだろうか。

差し出された封筒を僕が条件反射的に受け取ると、女性は

「待ってます」

 とだけ言い残して足早に去っていってしまった。

 混乱が解けぬ中、最後に頭に残った言葉は、『これポストに出しておけばいいんですか』であった。が、これは混乱が解けていたとしても言えなかったであろう。



 翌日の昼時、僕は学食で昼食をとりながら、昨日あった出来事を友人の佐藤に話していた。

 同じ学部学科所属で同学年の佐藤は大学入学当初からの付き合いであり、ほぼ唯一と言っていい大学の友人である。断っておく必要もないかもしれないが、男だ。

 このキャンパスには、理工学部のほかにも文学部・経済学部・教育学部など様々な学部の施設が存在しており、その分、学生の数も多い。それに比例するようにこの学食も高校にあった食堂の比ではないほどに巨大なのだが、それでも昼時の今はいつものように学生で溢れかえっていた。

「インターネットが発達したこのご時世に恋文とはね。中々粋じゃないか」

 向かい側に座る佐藤が日替わり定食を食いながらニヤニヤと笑っている。昨日受け取った封筒の中には、予想に違わず手紙が入っていた。

「まだ恋愛事と決まったわけじゃないだろう」

 おそらく牛丼を食う僕の表情は佐藤とは反対になっているのだろう。いや決して牛丼のせいではない。

「いやいや何言ってんだよ。この内容で他の話だったらそっちの方が驚きだね」

 佐藤が、先ほど渡した手紙を紙面が見えるようにこちらに突き返してくる。手紙には、以下のようなことが書かれていた。

『理工の大音様

 一年くらい前からファンでした。是非あなたとお話しをしたいです。

 明日、大学近くの喫茶店ルーズナインで16時に待っています。』

 その下に名前や連絡先等の個人情報。そこから、かの女性は僕たちと同じ大学の文学部に通う大学三年生ということが分かった。名は新川美奈子というらしい。

 改めて見返すと気になる点が目白押しである。

「やっぱり全然決まってないだろ。『一年くらい前』ってほとんど入学当時じゃないか」

 今は6月中旬であり、もし一年前に大学内で僕を知ったのであれば、入学したての大学一年生の頃から目を付けていたことになる。

「別に一年生に思いを寄せるようになる理由くらいいくらでもあるでしょ。あ、もしかしたら大学一年生のファンになって応援するサークルに所属しているのかもしれない」

「なんだその青田買いサークル。自分で言うのもなんだが、僕にはファンになってもらえる要素なんて何一つないぞ」

 入学当初の僕は人をファンにさせるような活躍など一切していない。というか、その前にも後にもした覚えはない。

「悲しいこと言うなよ… その女性は地味キャラ推しなのかもしれないじゃないか。特徴が無ければ無いほど『自分が応援しなければ!』と思っちゃうとか」

 他人から言われた方がよっぽど悲しいし、この一年応援された記憶もなかった。

 青田買いサークル所属という馬鹿げた説は行き過ぎとしても、やはり手紙の文面と僕自身があまり一致しているように思えない。

 僕は昨晩考えたことを佐藤に話した。

「昨日も考えたんだが、やっぱり僕を誰かと間違えてると思うんだ」

「誰かって例えばどんな奴だよ」

「そうだな…。例えば、ファンクラブがあるような、大学の有名人、とか」

 やはり、『ファン』というのは独特の言い回しだ。一人というよりかは複数人という印象があるし、恋愛というよりかはもっと普遍的に、応援というイメージが強い。つまり、複数人に応援されるような、一芸に秀でた人物だ。僕ではなさそうである。

「例えば、安田結花みたいな?」

「例えばな」

 安田結花は全国的にも有名なアイドルグループの最年長メンバーであり、弊大学所属の大学生でもある。他人に自分の大学のことを紹介する際、『安田結花がいる大学』という決まり文句が頻繁に使われることからも分かるように、弊大学所属の現役大学生の中で恐らく最も有名な人物であろう。

「さすがに、お前と安田結花は間違えないだろ」

「お前が言ったんだろ」

 僕の指摘を無視し、佐藤は続ける。

「というか、安田結花じゃなくても間違えないよ。相手方は大音の顔と名前を確認してから、これを渡してきたんだから」

 うっ、と言葉に詰まった。

 昨日の僕もそこで考えが行き詰まり、この路線で考えるのをやめた。しかし、他人から否定されると反論したくなるのが人というものだ。もし人というのが一般化しすぎだというなら、少なくとも大音拓真はそうである。

 僕は半ばやけくそ気味に言葉を返した。

「顔と名前が分からない有名人なら間違えるだろう」

 佐藤の顔がゆがむ。文脈からして呆れられているのだろうと感じた。きっと次の瞬間には、名前と顔が分からないのにどうやって有名になるのだ、と言われるのだ。

「それは、あるかもしれないなあ…」

「え?」

「え? いや、ネットで顔を隠して動画を配信してる人とかなら本名も顔も分からないし、確かにあり得ると思ったんだけど、そういうことじゃないの?」

「いや、その通り」

 佐藤の前で胸を張ってみせる。なんでも言ってみるものだ。そして、先ほどの顔は呆れ顔ではなかったらしい。代わりに今、目の前に見える顔は『感心して損した』と言わんばかりの、まごうことなき呆れ顔だが。

「それでも、なんでその顔も本名も分からない正体不明の有名人と大音拓真を結びつけたのか、という問題は全く解決してないけどね」

「お前、この大学にいそうな正体不明な有名人、知らないか?」

 今度は僕が無視して話を進める。佐藤は僕と違って結構顔が広く情報もよく拾ってくるのだ。

「そうだなあ。実際何人かはいてもおかしくないと思うけど、明言してる人はいないかな」

 まあ、わざわざ素性を隠しているのだ。当たり前と言えば当たり前だ。

「噂レベルでもいいんだが」

 目の前で佐藤が苦笑する。

「素直に自分宛だと思って会いに行きゃいいのに。いや今に始まったことじゃないんだけど、そこまで自分に自信を持たないのは中々できることじゃない」

「ほっとけ」

 それこそ、僕の中ではお前以上に今に始まったことではないのだ。

 すでに日替わり定食を完食した佐藤は、腕を組み、うんうん唸り始めた。どうやら記憶を探っているようだ。僕は牛丼の最後の一口をほおばりながら、佐藤から情報が出てくるのを待つ。

「そういえば、Clever Radish って知ってる?」

 唐突に挙げられたその名前には聞き覚えがあった。

「この頃、謎解き系バラエティ番組で問題を作って提供してる奴か?」

 直訳すれば、賢い大根。考える葦のようなことだろうか? 番組の中での紹介では確か、『SNSに自作の謎解き問題をあげていたら、その質の高さから口コミが広まり、最近では複数のテレビ番組から声がかかって番組の謎解き要素の監修をやるようになった』とか。もちろん顔も本名も表には出ていない。

「そうそう。意外に謎解き系の番組とか見るんだね」

「まあ、夜浅い時間のやつだったらたまにな」

 何が意外かはよくわからないが。

「その人が実はこの大学の学生なんじゃないかってこの前ネット上で噂されてたよ」

 ふうむ。だがファンがたくさんつくような活動とも思えない。すると、心が読まれたかのようにすぐさまフォローが入った。

「熱狂的なファンも結構いるみたいだね。この噂、割と盛り上がってるみたい」

 佐藤がスマートフォンでネットの海を流し読みしながら答える。

「なるほど」

 だが、もし考えの方向性が合っていたとしても、そいつだと決めつけるほどではないな。

「他には心当たりないか?」

「うーん。その話聞く前に時間見た方がいいんじゃない?」

 指摘されてスマートフォンで時間を確認すると、午後の授業開始まで5分を切っていた。



 午後の授業がすべて終わったとき、時刻は15時半を過ぎていた。

 調べたところによると、ルーズナインという喫茶店は大学から徒歩で20分近くかかるところにあるらしく、すぐに出なければ約束の時間に間に合わない。大学近くと評すには少しばかり遠いのではないだろうか。

 佐藤とは教室で別れた。『ついていくのも面白そうだけど、今日はトレーニングジムに行く日だから』などと言われたが、もちろん『ついていきたい』と言われたら全力で拒否するつもりであった。

 正門と反対側の、勝手口のような小さな門から大学を出て、約束の喫茶店を目指す。

 歩きがてらに頭の中を整理してみよう。

 結局あの後、授業を行う教室に向かって走りながら聞いた佐藤の話では、Clever Radish とやら以外に該当する人物のめぼしい噂はなさそうだ、とのことだった。

 ではそもそも、Clever Radish のような有名人と間違われている可能性がどれほどあるのだろうか、と考えると、僕は『低くはないんじゃないか』と感じるようになっていた。

 未だに僕自身と手紙の内容の不一致は僕の中に大きな違和感を感じさせているし、さっき佐藤と話している最中にも実は気づいたことがある。

 それは、『一年前くらいから』というところだ。

 一年前から認知しているのに声をかけたのは最近であるというのは、そこに何がしかのきっかけがあったと考えるのが自然であろう。

 そのきっかけとして、今まで素性も分からず応援していたが最近になって素性が分かった、というのはいかにも当てはまりそうである。

 しかし、いかに僕が可能性を感じていたとしても、なぜ僕とそのような人物が結びつけられたか、については今のところ全く見当がついておらず、今まで考えてきたことが全くの無駄であることも十分あり得る。

 その後、しばらくは自分が有名人と間違われる理由について考えながら歩いていたが、次第に頭ではなく足の方が疲れてきた。

 遠い。遠すぎる。そもそも大学から徒歩20分の場所は待ち合わせ場所として不適切じゃないのか。大学は別に僻地に建てられているわけではなく、むしろ駅から徒歩5分という好立地である。そのため、駅側の正門から出て10分も歩けば待ち合わせに使えそうなカフェや喫茶店など山ほどあるのだ。そもそも歩き始めてから今までに何軒かカフェの前を通過した。

 頭の中が愚痴で満たされた始めた頃、道の端に小さな立て看板が出ているのが見えた。

『喫茶ルーズナインこちら』

 看板に書かれている矢印の方に目を向けると、一見すると普通の一軒家のような建物の扉に『ルーズナイン』と彫られた木の板が吊るされている。時刻を確認すると16時の5分前であり、某検索サイトの地図情報はおおむね正しかったようだ。

 到着したことによる安堵感を感じた直後、その安堵感でここまで歩かされた苛立ちを忘れかけた自分の単純さに対する八つ当たりとして、また不満が湧いてくる。そもそも、ルーズナインってなんなんだ。喫茶店の名前だったらブレイクタイムとかタイムを待夢と書いたりするやつとかだろう。

 もはや不満というよりかは、いちゃもんのようなことを考えつつ、そのルーズナインの扉を開けようとした瞬間、あることに気がついた。



 扉を開けると、カランコロンとお決まりの鐘の音が鳴った。

 外観とは異なり、ルーズナインの店内はいかにも喫茶店といったシックで落ち着いた雰囲気であった。奥に広い構造になっており、左手前から奥にかけて伸びるカウンターの中から、恐らくこの喫茶店のマスターであろう、白いひげを蓄えた初老の男性が笑顔でこちらに会釈をした。

「待ち合わせなんですが」

 マスターと思しき男性に声をかけると、彼は笑顔を崩すことなく奥の方を手のひらで示した。奥のテーブル席に、こちらに背を向けて、黒髪を肩まで伸ばした女性が座っているのが見える。というか、その人以外客がいない。

 少しこの喫茶店の経営を心配しつつ、その女性に声をかける。直前に、ちらとスマートフォンで時間を見ると、16時ちょうどであった。

「あの、アラカワさんですか?」

「あ、はい。新川にいかわです」

 振り返った顔が、僕の記憶の中の封筒を手渡してきた女性と一致する。手にはスマートフォンを持っており、ゲームでもやっていたのか、声をかける直前まで何やら操作していたようだった。

「あ、すみません」

「いえいえ」

 新川さんはあまり名前の間違いを気にしていない様子であった。それどころか平静を装っているようだが、口元が緩んでおり隠しきれない喜びが感じられる。それを無下にするのは若干心が痛む。

 僕はそのまま新川さんの正面の席に座り、注文を取りに来たマスターに一番安い、もとい一番オーソドックスであろうアイスコーヒーを注文した。その間、新川さんは何も言わず、スマートフォンを鞄にしまった後、こちらをちらちら見ながらコーヒーを飲んでいた。

 マスターがカウンターに下がってすぐ、新川さんが口を開く前に、僕は言うべきことを単刀直入に口にした。なるべく不快に感じさせないよう注意して。

「あの、もしかしてなんですが、僕をClever Radish さんと勘違いなさってませんか?」

 瞬間、新川さんの表情が固まった。少しの沈黙の後、新川さんが口を開く。

「えっと、それは、あなたは Clever Radish じゃないってことですか?」

 この返答で、どうやら本当に僕とClever Radish を勘違いしていたことが分かる。しかし、新川さんの顔に引きつりながらも笑みが残っているのは、僕の態度を冗談か誤魔化しだとでも思っているからだろうか。

「そうです。僕はClever Radish さんとは無関係なんです」

 今度ははっきりと言い切る。その次の返答は予想できた。『ではなぜ』だ。

「では、なんであなたは自分がClever Radish に間違われたと分かったんですか? それこそあなたがClever Radish だという根拠じゃないんですか」

 新川さんの顔から完全に笑みが消えた。僕の配慮は無駄に終わったようだ。

 こういう展開になるのでは、という予想もある程度はあった。端的に答えれば『自分が思いついたことを他人が思いつけないと思わないことですね』だが、ここでさらに人の神経を逆なでするようなことは言えない。とりあえず素直に答えよう。

「そもそもは、あなたの手紙の『ファン』っていう表現に違和感がありまして、それで、人違いじゃないかと思ったんです。でも、顔や本名を確認してから封筒を渡してきたので、人違いだとしても、相手は顔や本名を出していない有名人じゃないかと。そこで、Clever Radish さんの名前が挙がりました」

 新川さんが拍子抜けした様子を見せる。

「それだけですか?」

 確かに、これだけだとClever Radish は一候補に過ぎないし、予想というか妄想に近い。しかし、それだけではなかった。

「いえ、極め付きは、あなたが指定したこの喫茶店の名前でした」

 一転、新川さんが目を見開いた。そのリアクションに僕は少し満足げな顔をしてしまっていることに気づく。見下していると思われては困るので、咳ばらいを挟み、真面目な顔に戻して話を続けた。

「”ルーズナイン”というのは変わった店名ですが、店名には意味があるものです。他の喫茶店でも、“待つ夢”を”タイム”と当て字で読ませるように、店名の意味が何らかしらのひねりによって分かることがありますよね。

 そこで、“ルーズ”を”無礼”、”ナイン”を”きゅう”、と日本語に変換すると、”ブレイ”と”ク”、つまり”ブレイク”になることに気づいたんです。

 “Clever Radish”を同様の方法で変換すると、”Clever”は”利口の”、”Radish”は”大根”で、”利口の大根”、読み方を変えると、”リコウのオオネ” になる」

 つまり、彼女がこの喫茶店を待ち合わせの場所に指定したのは嫌がらせではなく、むしろ『自分分かってます!』というアピールだったわけだ。

「そ、それが、分かったってことはやっぱりあなたClever Radish でしょ!?」

 『なんで分かったのか』という質問に対して素直かつ丁寧に説明したら、なおさら本人だと疑われたのは、全く納得がいかない。よほど自分の発見に自信を持っていたようだ。

「違います」

と再度否定しても、「嘘!」と聞く耳を持たない。ああ、もうめんどくさくなってきた。

「新川さん、あなたは『一年前からファン』と書いていましたが、僕は二年生です。」

「それが何?」

 以前、新川さんは強気である。

「“Clever” が “理工”を指しているとしたら、おかしいですよね」

「なにもおかしくないでしょ。一年前にはすでにあなたは大学生なんだから」

 はあ、とため息がこぼれそうになる。

「いえ、Clever Radish さんは三年ほど前から活動しています。」

「え?」

 新川さんの顔が凍りついた。すぐに鞄からスマートフォンを取り出して何やら操作している。程なく目当ての情報が見つかったのか、画面を凝視したまま顔が赤くなっていく。

 Clever Radish がテレビ番組にも関わるくらい注目され始めたのはここ半年くらいの間であるし、一年前ともなると注目している人も今と比べると少なかったであろう。

 しかし、僕が先ほど喫茶店に入る前の5分足らずで調べた限りでさえ、Clever Radish が Clever Radish としてネット上で活動している様子は少なくとも三年前まで確認できた。高校生が自身のハンドルネームを未来の所属に関連してつけるなんてことは、考えづらい。

 そして、『ファン』を自称する人間が、こんな初歩的なことを指摘されるのは、恐らくとても恥ずかしい。

「あの」

「ごめんなさい帰ります」

「えっ?」

 突然、そして小さく発せられた声を聞き返そうとしたときには、新川さんはすでに立ち上がり、出口に向けて走っていた。

 喫茶店の出口が閉まったとき、僕の視界からは、四分の一ほどコーヒーが残ったグラスと、出口に向かって一礼するマスターが見えていた。


 マスターが持ってきたアイスコーヒーを飲みながら、僕はこんなのんきなことを考えていた。

『他に聞きたいこともあったし、コーヒーも一杯分多めに払うことにもなったが、まあこの件はこれで一件落着だろう』と。

 つまり、自分が先ほど新川さんに対して思っていたことを完全に忘れていたのである。

 曰く、『自分が思いついたことを他人が思いつけないと思わないことですね』

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