インクベーティスト

吉岡真実

第1話「運命は突然やってくる」

2025年


超大国ちょうたいこくコメリカがあらゆる放射性物質ほうしゃせいぶっしつ放散ほうさんさせる装置「通称:エイレーネー」を開発し、地球上から核の脅威が無くなった。


その後、世界各国で核に変わる兵器の開発競争が行われ、ジャホンが開発したのは「インクベーティスト(孵化うかした者)」と呼ばれる人間兵器だった。


これはインクベーティストとして育てられた「一世いちせ しん」という少年の物語 


◆◆◆


2070年 開能かいのう中学校 1年A組


鈴村すずむら先生「ジャホン人は生まれると同時に体内に卵型たまごがたのマイクロチップが注射され、強制的に進化させられます。例えば「うなぎ」が効率良く獲物を捕らえようと「電気うなぎ」へと進化したり、「猿」が色々な道具を使えるようになり「人間」へと進化したように、その進化は多種多様たしゅたようです。」


「ただし、進化できるのは人口の約0.01%だけです。進化の適正ありと判断された人はここ開能中学・高校へ入学します。」


「ちなみに進化して得られた能力を「特殊能力エボリティ」といいます。みなさんの中にはすでに特殊能力エボリティを使える人が何人かいるようですね!」


「では今日の授業はこここまで」


そういうと若いOL風の鈴村すずむら先生は教室を後にした。


適正ありと判断されてこの全寮制ぜんりょうせいの学校に入学させられたが、いまだ俺にこれといった特殊能力エボリティはない。同じクラスの清十郎は手から炎を出せるびっくり人間だ。


◆◆◆


2070年6月15日 放課後 教室


いつもの仲の良いメンバーでの雑談


しん「お前ら将来何なんの?」


清十郎せいじゅうろう「俺は政治家になってこの国をかつての経済大国に戻したい!」

この少年アイドルグループにいそうな少年はぜん 清十郎せいじゅうろう、政治家の息子で頭脳明晰ずのうめいせき、スポーツ万能の優等生。「火炎かえん」の特殊能力エボリティを持っている。


慶子けいこ「私はみんなの生活を豊かにするロボットを作るようなエンジニアになりたいな」

この黒髪ロングの女の子は一条いちじょう 慶子けいこ、全国模試1位に輝いた事もある才色兼備さいしょくけんびである。


清十郎「そういうお前は何になるんだよ」


新「俺かぁ…俺は…コケシ職人でもなろうかな(笑)」


一同静まり返る


善 清十郎「お前なぁ…もう俺ら中学生なんだから少しはまじめに考えろよ…」


そういうと清十郎は帰宅の準備を始めた。


俺には今まで将来の夢ができた事がない。 

一応インクベーティストやっているが、その辺の人らと対して変わらないし、取り柄も思いつかない。

このまま普通のサラリーマンになるとその時は思っていた……


◆◆◆


〜15年後〜


2085年6月14日

あれから15年の月日は流れた。


結局なんの特殊能力エボリティも現れず、俺は大学を出てそこそこの大企業に入社できた。毎日時間に追われながらもそれなりのサラリーマンライフを送っていた。


清十郎は23歳の時、特例で最年少国会議員さいねんしょうこっかいぎいんとなって一時期メディアで取り上げられていた。結婚して最近子供も出来た事をMikipediaで知った。

※ Mikipedia:世界最大級のネット辞典


慶子は高校卒業以来どうなったのか詳しく知らない。


新「今日もビール飲んで寝るかぁ」


一人暮らしの俺は寂しくビールとつまみのスルメイカを食べた後、ベッドに横になり眠りに就いた。


2085年6月15日AM1時


「ドッガーーーーーン」


突然爆発音で俺は目が覚めた。


窓の外を見ると燃える家、響き渡る銃声音、横たわる人、逃げ回る人々、それを追う軍隊が見えた。


一瞬夢なのかどうか戸惑ったが体が危険を察知し、無意識に外へ飛び出した。


子供「助けてぇーーー、わぁーーん」


軍人「イルボンサラムエウル、セオミョルハラ!!」


女性「誰かーー!助けて下さいっ!足がっ!!」


そこは正に地獄絵図だった。


人が瞬く間に武装した軍人達に殺されていく。


そして異様な熱気と匂い…新は気が狂いそうになりながらも懸命に走った。


新「ちくしょぉ、なんなんだよこれはぁーー!」


新の心の声が溢れた。


感覚が麻痺まひし、周りの異臭も感じ取れなくなったその時、新は1人のインクベーティストが老人に詰めより、今にも殺そうとしている瞬間を見た。


新「やめろーーーっ!!」


新は立ち止まり、そう叫ぶとインクベーティストの動きはピタリと止まり震える老人を置いてこちらに歩いてきた。


新「なんなんだよお前ら、なんなんだよこの状況はっ!!」


新は怒り、恐怖、悲しみ、戸惑い等、色々な感情から逃げる事を忘れていた。


インクベーティスト「久しぶりだな…新」


新「おっ、お前はっ!」


無表情で新に喋りかけたそのインクベーティストはぜん 清十郎せいじゅうろうだった。


新はさらに複雑な感情が入り乱れパニック状態になった。


新「なんなんだ、この事態は!なんだこの外国の軍隊みたいな奴らは!そして何をしているんだお前はっ!!」


清十郎「、、、、」


新「何か言えよ!!なぜお前がこんな事をっ!!誰よりも日本の事を思って政治家になったんじゃねぇーかよっ!」


清十郎は下を向いてしばらく沈黙した後、こう言った。


清十郎「ああ、誰よりも国の事を想ってきた。その為にあらゆる時間と労力を惜しまず生きてた…」


新「そんなお前がなぜこんな事を!」


清十郎「俺はなぁ…新…、もう…こうする事しかできないんだよーーー!!」


無表情とは一変して突如とつじょ感情的かんじょうてきになった。


清十郎「お前に何がわかる…、俺の苦痛と苦悩の日々が…」


清十郎はてのひらを新にかざした。


清十郎「苦しまないように最大火力さいだいかりょくかせてやる、消えろっ!!!」


清十郎がエボリティを使った後、目の前が真っ暗になった。

意識が遠のいていく…俺は僅かな意識の中で暗闇の空間に1人取り残さているのを感じた。


◆◆◆


新「…俺は死んだのか?」


暗闇の中、目の前に丸い光が現れた


光「おっ、イレギュラーな所から湧いてきたね君!」


光から誰かの声がする


新「…ここは…どこなんですか?あと…あなたは誰なんですか?」


光「教えられないなぁ、守秘義務しゅひぎむってやつ?おいらは運命の番人とか言われるかな〜」


新「…教えて下さい!これは何なんですか?うっ…!」

新は目の前の光に包まれた。


◆◆◆


目を覚ますとどこか見覚えるのあるベッドで寝ていた。


新は困惑した。突然とつぜん勃発ぼっぱつした地獄のような出来事から一転して、今度は中学の時に住んでいた寮で目を覚ました。


新「夢だったのか…?なぜこんなところに運ばれたんだっけ?」


新はまた異変に気付いた、なぜかいつもより体が軽い。


新「なんか調子いいのかな?ってかスマホが見つからないなぁ」


新はふと部屋にあるカレンダーを見ると207015年前の物だった。よく見ると昔懐かしのグッズ《漫画やTVゲーム》が部屋に転がっていた。


そして部屋にあった鏡を見て新は直感した。


新「間違いない…俺は…未来から来たんだ!そしてこれが…」




新「──俺の特殊能力エボリティ!!」

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