ゲームは少年が好かれるためにあるものです

楓原 こうた【書籍6シリーズ発売中】

プロローグ

「私、頭がいい人が好きなの!」


 中学二年のある日。少年は幼馴染の少女にそんなことを言われた。家が隣同士、幼少期からの付き合い。


 昔からずっと一緒だった。遊ぶ時も、出かける時も、寝る時も、ずっと一緒。

 その少女に惹かれるのは明白、時間の問題だった。


 少年が恋心に気付いたのは中学一年の時。幼馴染の少女が他の男子と話している瞬間を目撃し、嫉妬したことで意識し始めた。

 それからの少年は頑張った。運動、勉強、貯蓄————ありとあらゆることを頑張った。モテる————彼女に好意を寄せられるように頑張った。


 そんな時に言われた一言。


 その言葉の定義はどこにあるのか? 

 学年で一番の成績をとればいいのか? 頭を使ってひと財産稼げばいいのか? 人の上に立てばいいのか?

 答えは、中学最後の定期テストを一番の成績を納めた時まで分からなかった。

 そして、彼女が好意を寄せてくれることはなかった。


 そんなある日。彼女は卒業進路を決めないといけない時期の帰り道に、また別のことを言い始めた。


「私、都市学園に入学する!」


 少年は、その言葉を聞いて耳を疑った。

 都市学園————都心中央区に堂々と存在するその場所は、日本随一の進学校。この学園に入学出来れば将来安泰。有望株となり、超大手企業や政治の中心でごった返している者達から注目視されるという。


 故に別の意味での進学校。毎年、何千人もの学生が受験しているという。

偏差値が高いわけでもない。学力は、最低限のものさえ身につけておけば大丈夫なんだとか。


 では、どうしてそんな学園が進学校と言われてしまうのか? 

 最低限の学力だけが必要なら、今時の進路を決める学生はここに入学している。


 曰く。この学園では学力では測れない『頭の良さ』を重要視するのだとか。


 その言葉は何を指す言葉なのか分からない。

 しかし、毎年何千もの生徒が受験し、約百人しか入学できないという話を聞くと、想像以上の『頭の良さ』が必要となるのは理解できた。故にこそ、その学園のことは知っていても、少年は入学する気にはなれなかった。


 だって、一度しかない進路に入れるかも分からない学園に入学するのはおかしい。滑り止め? ふざけんな。それなら偏差値落としてでも、別のところに入学する。


 ギャンブルとは、実力のない者が高みを目指す為に行う愚行である。

 物事に『運』なんて酔狂なものはない。必然的な行動未来と指数によって確立されるのだ。


「むふふー! 楽しみだね~」


 しかし、幼馴染の少女はそれでも入学するという。

 合格基準も求められるものの不明確。この学園に入学するものはギャンブルに走る愚者か、自分が高みだと疑わない白眉だけ。


 その少女は果たしてどちらの部類に当てはまるのか? 決して頭がいいと言う訳ではないことは、今まで一緒に過ごしてきて分かっている。

 

だからこそ、少年は驚いた。彼女が受験することに。

しかし、それ以上に歓喜に震えた。


(あぁ……彼女の『頭がいい』は、このことか……)


 昔、少女が言っていた『頭がいい』の意味が分からなかった。

 しかし、これではっきりした。

 この学園で上————頭がいいと証明できる者こそ、彼女の好きな人なのだと。

 

 故に、少年は決意する。


「俺も、その学園に入学しよう」



 この学園に入って、彼女に頭がいいとアピールしてみせる。その為に、この学園で上に登り詰めてやろうじゃないか。






 これが、都市学園最強と呼ばれる少年が誕生したきっかけである。

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