第6話
人間は大なり小なりこだわりがある生きものだ。
ゲームクラブの面々にしても例外でなく、ことPCに関してはみな一家言を持っている。PCを作るたびに似たり寄ったりな名前を付けたり、職業を統一したり、修飾しまくったり――その形はまさしく十人十色だといえよう。
ただ、PCにこだわるあまり設定をあらかじめ練ってくる部員は、これが意外にも少数派だったりする。
ひとえに以須野先生のスタイル――最初に能力値を決め、その数値からPCがどういった人物なのかを考察するという作り方が、僕たちの間ですっかり定着したからだろう。
PCを作成するに当たって守るべきルールなど限られる。なにより遊びの範疇にあるので、結局のところは和を乱さない方法で好きに作ればいいのさ。
――余談だけど、国内で遊ぶCoCではPCを探索者とも呼ぶ。CoCベースのシステムだからか、ToTでも一部の部員がこの名称を使っている。かくいう僕もそのひとりだよ。
「能力値の設定はこれで終わりだよ」
「思いのほか簡単、でした……」
(ダイスが勝手に決めてくれるからね)
「というわけで、次は探索者の設定をみんなで考えよー!」
自分で使うPCじゃないというのに、キーパーの知子ちゃんが一番張り切っているように見える。役作りに通じるところがあるから楽しくなっちゃうのかな。
「設定を考える、といいますと……?」
「僕たちのやり方だと能力値から人物像をイメージするんだ。《筋力》と《体力》が高いならスポーツやってるのかなー? とか」
「そーそー、今回のPCはアタシたちと同じゲームクラブに所属してるってことでお願いしまーす」
「シナリオの都合かい?」
僕の問いかけに知子ちゃんは「うい」と応じる。
「つまり職業は学生か」
「いっそ小学生にしちゃいましょう。同年代ならイメージしやすいですしおすし」
「了解」
CoCだと年齢や職業は能力値の計算などにかかわる大事な要素である。年齢だけならまだしも、職業までこう場当たり的に決めてしまうのはTRPG界における型破りな
もっとも、こうした奥深くも複雑な諸要素をToTでは大胆にもオミットしている。よってPCが――そもCoCのPCは15歳未満にできないが――小学生だろうと能力値にマイナスの補正がかかる心配はない。
ToTの生みの親いわく『人間の能力は年齢に比例しないもの』なんだとか。
「さてと」僕はキャラシに目を落とす。「《筋力・6》、《敏捷・4》、《知性・4》……強いな、うん」
(とはいったものの、いまいちしっくりこないな)
「先輩の探索者はぶんぶりょーどー? の優等生になりそうですねー」
「……やっぱりそう見えるよね」
「えっうそ、もしかして気に入らないんですか? 優等生なのに?」
「なんというか、悪い意味で癖がないと思ってさ」
たとえ生まれがよくても、育ちがよくても、どう転んでも人間は万能にはなれない。
万能だなんて自負するやつは机上でしか戦えない空論の士。しょせんは無味乾燥な井の中の蛙に決まってる。
しっくりきてないのはきっと、そういう手合いになりたくないと思うがゆえなんだろう。
こんな無意識的な願望もまたこだわり……なのかな? よくわからないや。
「……す、すみません」
「やあ桑原ちゃん。悩みどころでもあったかい?」
「そのぉ……終わり、ました」
「マジ?」
僕は慌てて顔を上げ、囁ちゃんのキャラシに視線を移す。
マジだった。
「《筋力》が『2』で、《体力》と《体格》が『1』、《教養》が『6』だったのですぐに思いついたんです。この子はどこかのお嬢様なのかなあって……」
お嬢様、か。
まあそれだけ《教養》があれば育ちはいいよね。《筋力》や《体力》の低さも家政婦あたりがあれこれしてくれる環境に身を置いてるなら不思議はない。
この短時間でよく能力値に見合った人物像を連想したものだ。
「いいね桑原ちゃん、ナイスだと思うよ」
「えへへぇ……」
「むーん、それだけ?」
感心する僕をよそに知子ちゃんが横やりを入れる。
「見た目とか、性格とか、特徴とかはどったの? 決めてないの?」
「名前と見た目は考えたけれど、ほかはまだ……」
「よーっし、ならアタシと考えよっか! これ使う?」
「それは……?」
「ランダム表だね。キャラ作成を補助してくれるテンプレート集みたいなものさ」
僕は知子ちゃんが持っているものと同じプリント用紙をリュックから取り出し、トランプの手札を握るような形で囁ちゃんへと呈示する。ゲームクラブに入部するとCoCのスタートガイドブックと一緒にもらえるアイテムであり、部員であれば誰でも持っているのだ。
ページごとに容姿、信念、特徴などと区分されたこの表だが、容姿であれば『かわいい』『平凡』『だらしない』など、それっぽいことが羅列されている。
それらにはもれなく番号が割り振られており、ランダム表というだけあって「ダイスでこの目が出たからこの見た目にしよう」といった感じで、無作為に設定を決めていく際にとても役に立つ。
「この手の設定は深く考えるものじゃないし、軽い気持ちで使うといいよ」
「で、ではお言葉に甘えますぅ……」
「つーちゃんにはアタシのを見せたげる。一緒に考えるなら1枚で充分でしょ」
(一緒に考える、か)
そういえばさっき言ってたな。なら僕が手取り足取り説明せずともよさそうだ。
「じゃあ桑原ちゃんのこと任せてもいいかい?」
「もちっ!」
「ありがとう知子ちゃん」
僕の副部長スマイルに知子ちゃんは右手でぴしっと敬礼してみせる。
大げさな反応にはどうか目をつむってほしい。この子、いつもこんな感じなんだ。
「ひとまず3時までキャラシの作成としよう。あと10分もないけど、おおまかに決めるなら充分だし、きりもいいからね」
「うい」
「わ、わかりました……!」
こうして僕たちはこれから物語を織りなすこととなるふたりの探索者を仕立てるべく、キャラシとの長いようで短いにらめっこに没頭するのだった。
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