第27話 削って削って削りきる!
『全力で行くぞ』
『目眩しにしかならんぞ』
目眩しになるなら上等だ。
「これでも食らっとけ!!」
右手からそれまでにない程の巨大な黒炎がリッチを呑み込む。
「走れ!!」
リッチの視界が完全に黒炎に包まれたのを確認し、すぐに二人に向かって叫ぶ。
ステラが素直に逃げてくれるから少しだけ心配だったが、背後の二人が同時に駆け出す気配を感じ、少しだけ安心する。
後は二人が逃げ切る時間さえ稼げれば——
「言うたろう? そう上手く行くかと『シャドウステッチ』」
黒炎の中から響いてくる声に驚くしかなかった。
「ッ!」
「ヒュウガさん! あ、足が!」
二人の声に慌てて振り返ると森に入る一歩手前で二人は完全にその動きを止めていた。
慌てて二人に駆け寄ろうとする俺にクロが制止の声を上げた。
「落ち着け! ただの拘束魔法だ! それよりヤツに集中しろ!」
「くっ!」
「カカカ! 逃がさんよ、折角珍しい研究対象が見つかったんじゃからな」
未だ轟々と燃え盛る黒炎の中から愉快そうな笑い声が聞こえてくる。
「光に適正を持ちながら闇の黒炎を操るのが不思議じゃったが、なるほどなるほど食ろうてみて得心がいった。 勇者に敗れたとは聞いておったが、黒炎の魔王とはのぉ」
「「!!」」
「魔王の魂を宿すひよっこ勇者に先祖返りの獣人か、僥倖じゃのぉ、調べがいがありそうじゃ」
こいつ、今なんつった?
黒炎の魔王——
まさかマジでクロって魔王なのか?
正直、絶対嘘だとは言えなくなってはきている。
アイテムボックスを簡単に使えるようにしたり、黒炎だって実際凄まじい威力だ。
ギルドで変なガラス玉を割ったり、なんだかんだ知識だってある。
コイツの存在にいち早く気がついたのもクロだ。
普通じゃないのは間違いない。
まぁ、いい意味でも悪い意味でも……
「しかも小僧お主迷い人じゃな? 何故お主に魔王の魂が封じられておる?」
「……知るか、こっちが聞きたいくらいだ」
「カカカ! 良かろう、ならば儂がお主を余す事なく調べ上げてやるわい。 おおそうじゃ!」
顔がドクロだから表情は殆ど変わらない。
だが、明らか喜んでいるのが声色から伝わってくる。
「儂を知るものは皆、儂の事をタナトスと呼ぶ。 誰かに会うなど久しぶり過ぎて名乗るのを忘れておったわい」
「
クロに名前をつけた時に言っていた事を思い出す。
名前をつけるから強くなるのではなく、強いから名前があるものだと。
(こんな事ならもっとミナトに実戦経験を積ませるべきだったか……せめて多少でも光魔法が使えれば可能性はあったが……いや、此奴に付け焼き刃の光魔法など通用するとは思えん。 とにかく今はこの場を切り抜ける方法を考えるしかあるまい)
「さて、おしゃべりはこのぐらいにしておくかのぉ……まずは小手調じゃ、簡単に倒れんでくれよ?」
「ッ! くるぞ! 良いか、奴に物理攻撃は効かん! 魔法もほぼ防がれるぞ」
「なんだそれ! 反則だろ!」
殴ってもダメ、使えないけど魔法も効かない奴とどう戦えってんだ! だからオバケは嫌なんだ!
とにかく今は攻撃を受けない事、回避に集中するっきゃない!
と思ったのだが——
『シャドウステッチ』
「げ!!」
ヤバいと思った時には既に手遅れだった。
脚はおろか指一本動かない。
「カカカ! そら、お主らの魂を見せて貰おうかのぉ」
タナトスが巨大な鎌を振り上げこちらに接近してくる。
「いかん! ミナト
「んな事いきなり言われて出来るか! せめてどうやるかぐらい教えてくれ!!」
ゲームじゃないんだ、言われて出来れば苦労しない。
「気合いでなんとかしろ! 出来ねば死ぬぞ!」
「教えが雑過ぎる!!」
「ふむ、拍子抜けじゃのぉ、あっけなかったがまぁ良かろう」
眼前に迫ったタナトスの鎌が月明かりを受けてギラリと光る。
漫画やゲームじゃよくある表現だが、現実でしかも自分に向けられてるとあってはシャレじゃ済まない。
「だあああああ!! おおおおお!!!!」
もう雑とか言ってる場合ではない。
俺はとにかく全身全霊で身体を動かそうとする。
だがそれがよかった。
全神経を身体を動かす事に集中した事で自分を縛るなにかを感じる。
それがなんで、どこにあるのか分からない。
だが、確かにそれはある。
そしてそれが分かれば話は変わる。
そいつを無理矢理でも引きちぎればいいだけの話だ!!
「おらああああ!」
タナトスの鎌が振り下ろされるのと同時に『バチン!』と何かが弾けると全身に自由が戻る。
眼前に迫る鎌を躱すべく、無理矢理身体を捻る。
耳元を風切り音が掠めつつもギリギリで躱す事に成功した。
「やれば出来るではないか! 正直肝が冷えたがな」
「ざけんな……はぁ……はぁ……死んだと思ったわ」
「カカカ! やるではないか、だがそう何度も上手くいくかの? 『マリオネット!』」
自分でも理由は分からないが、さっきとは違いタナトスの魔法が自分に向けられてる事をはっきりと認識出来る!
「ッ! うざったい!!」
そう何度も何度も自由を奪われてはたまったもんじゃない。
自分に向けられたなにかを気合いで吹き飛ばす。
「なんと! 今度は
(ふむ……ミナトめ、薄々思っておったが驚くべきセンスだ……勘だけで既に奴の魔法に対抗している)
「小手先の魔法がダメならこんなのはどうかの?」
その言葉が終わるやいなや今度はタナトスの周囲にこれまた巨大な氷柱が現れた。
当然のように鋭い先端はこちらを向いている。
「ははは……すげぇ嫌な予感しかしないんだけど? ちょっとは休け——」
「来るぞ!」
いい終わるのくらい待ってくれてもいいんじゃない?!
巨大な氷柱がこちらに向かって空気を切り裂きながら次々と飛んでくる。
だが、目に見えて真っ直ぐ飛んでくるものなら避けられる!
「よっ、ほっ、はっ!」
数は多いが全部が全部俺を狙っている訳ではないので避けるのは容易い。
が——
「カカカ! 大した身体能力じゃ! だがどこまで避け切れるかのぉ?」
タナトスは明らかに手を抜いている。
その証拠に徐々に氷柱の数が増え、速度も速くなる。
クソ、完全に遊ばれている。
この状態であるか分からないチャンスを待つのは多分無理だ。
ならいっそ奴が手を抜いてる間に反撃するしかない。
俺は小声でクロに声をかけた。
「おい、さっき魔法はアイツに防がれるって言ったよな? 黒炎も効かないのか?」
「効かぬ訳ではないが、さっきのを見たであろう? ほぼ間違いなく防がれる。 仮に直撃させても一発では倒しきれん、先に貴様の魔力が切れるのがオチだ」
魔力切れか……多分意識を失ってぶっ倒れるか良くて動けなくなるんだろうな。
そうなったらどうなるか考えるまでもない。
ん?
待てよ?
ようは魔力が切れなきゃいい訳だ。
「……よし、なら削って削って削り切るぞ」
とは言え、普通に黒炎を放ったところで防がれるのは間違いない。
確実に当てるには奴に近づく必要がある。
それも氷柱を避けつつ、一足飛びで間合いを詰められる距離まで近づくしかない。
「おい! 話を聞いていたのか? 仮に上手くいっても一撃では倒しきれんぞ!」
「だから倒し切るまで当て続けるんだよ!!」
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