魔王の義眼 prequel
鉄化タカツ
PROLOGUE
1 勇者と聖女
この世界が全てが知られていない時代。東の大陸の一国アルドア王国のとある農村で一人の男の子が生まれようとしていた。父の名はバン、母の名はスズ。姓がない
陣痛が始まったその夜はよく晴れた日で夜空が
「くそ! 俺にできることはねぇか?」
足りない頭を回転させて考えるが、いい案が思いつかない。初老を迎えた母に「何もするな」と言われてはいるが、やはり妻の出産には立ち会うべきだと思いドアノブに手を掛ける。しかし、今一歩決断できないバンであった。
そんなモヤモヤした感情に振り回れるバンの耳にふと小さい声が聞こえてくる。それはこの家の玄関方面からだった。
「
それはここを訪ねてきた声だった。同時にドアを叩く音も聞こえてくる。
「誰だ? こんな夜中で大事な時に……」
バンは渋々玄関に向かい、文句の一つを言ってやろうと思いながらドアを開けた。すると、そこには自分と同じぐらいの若い男と女がいた。二人はマントを羽織っており、身なりからして旅人だとバンは悟る。
「――すみません。お願いがあるのですが」
「何だこんな夜中に失礼だろ? 今、大事な時なんだ」
男は申し訳なさそうに頭を下げる。
「お願いします! どうか泊めてください!」
無理な願いだ。たった今、出産を迎えている妻がいる中、他人の世話などできるはずがない。バンはため息をついて言った。
「無理だ。だって今、俺の妻が」
「あっあああ!」
突然、女がその場に苦しそうにしゃがみこんだ。女に対し男は女の体を支えようとする。
「ロッテ!」
「どうしたよあんた?」
驚くバンに男は恐る恐る言った。
「……私の妻は身籠っているのです。しかも、もう生まれそうなのです」
「何!? あんたなぁ! 身持ちの妻を連れ回すってどういう神経してるんだ?」
臨月を迎えた妻を夜中連れ回しているなど非常識だ。同じ身持ちの妻を持つ夫として説教してやりたい気持ちにバンはなるが、今はそんな時ではない。
「――しょうがなねぇな! 家は駄目だから馬小屋使わせてやらぁ! お湯と布を用意してやっからあの馬小屋に行きな」
バンは馬小屋を指差した。我ながらお人好しだとバンは思う。
「ありがとうございます! 本当にありがとうございます!」
男は何度も礼を言いながら、妻を支えてながら馬小屋へと向かう。バンは家の台所で木のタライに沸かしたお湯を注ぎ、妻の為に用意した布を持って外へと出た。そして馬小屋の中で倒れこんだ二人にそれらを渡す。そして男に聞いた。
「――あんたらも初産か?」
「えっ? はっはい。そうですが」
「お互い元気な子が生まれるといいな」
「もしかしてあなたも?」
「そうだ。たった今、あの家で生まれそうなんだ」
「そっそんな大事な日に私達は……本当に申し訳ない!」
「いいって事よ! じゃあ、俺は行くぜ」
バンはそう言って家屋へと戻り、妻がいる部屋へと戻る。その部屋の前に戻った時、待ちに待った声が聞こえてきた。
「――――オギャーオギャーオギャー」
バンはドアを突き破るの如く部屋へと入った。
「やったなスズ!! 生まれたか!!」
万遍の笑みでベットに横渡るスズの手をバンは
「おっ! おおっ!!」
生まれたばかりの子が優しく抱かれている。腑抜けた笑顔で我が子と対面したバンは緊張から解かれ全ての力が解けた気がするのであった。
「男の子よバン。あなたにそっくり」
スズが幸せそうな笑顔で告げる。
「全く――あんた今どんな顔しているか分かってんのかい?」
息子のだらしない笑顔に少し
「抱かせれくれよお袋!」
「駄目だ。最初は母親に決まっているだろ」
そう言って祖母はスズの懐に生まれたばかりの男の子を持っていく。それに少し不服であるバンの耳にまた産声が小さく聞こえてきた。
「オギャーオギャー」
「何だい!? この近くでまた子供が生まれたのかい!?」
「そうか! あいつ等か!」
バンはすっかり忘れていた。そんな息子に対しバンの母は険しい顔を見せる。
「あいつ等とはなんだいバン!?」
「いやぁ、ついさっき若い夫婦が来てよ。家に入れられないから馬小屋に案内した。偶然なんだけどよ。その奥さんも妊婦で生まれそうだったわ!」
そう万遍の笑みで報告した息子に母は拳を強く握り、眉間に皺を寄せて怒りの大声を上げた。
「たわけ!!!! 今すぐ家に入れろこのバカ息子がぁぁぁぁぁ!!!!」
その怒鳴り声に不思議と生まれたばかりの子は泣きはしなかった。その代わりかその父親が泣きそうな目でその部屋から出ていくのであった。
「ひいい! 分かったよお袋!」
バンは急いで部屋を出て、走って家を出た。するとありえない光景がバンの視界に入った。
「なっ? なんでこんなに明るいんだ!?」
家を出たバンに視界に入ったのは明るい外であった。時間は夜のはず、それなのに外は明るかった。その原因はすぐに分かった。あの夫婦がいる馬小屋から光は指しているのだ。バンは驚きつつも、馬小屋に向かう。すると産声を上げながら右手から光を出す赤子に驚くあの夫婦がいた。
「なっ何があった? これは一体――?」
唖然としつつもバンは近づきながら問う。右手から光を指す赤子など聞いたことがない。
「わっわかりません――ただ、この子は特別な様です。この光からして――」
父となった男は息を呑みこんで間をおいて告げる。人の前例はないが、言い伝えで聞いた光の魔法の事を。
「この子は……光の魔力を宿しているのかもしれません……!」
人類初の光の魔力を宿した子。その子は女の子であった――
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