ドジっ子たちの生徒会室 1

 色々あった日曜日が過ぎて、誰もが嫌な気分になる月曜日がやってくる。

 とはいえ、僕はそこまで嫌な気分にはなっていなかった。なぜなら、この日はようやく生徒会室の工事が終わる日だからだ!

 今までは「生徒会室が使えないから代わりの場所に」って名目で、毎日のように僕の家が溜まり場になっていたけど、これで生徒会活動をきちんと学校ですることができるようになる。

 そしてなにより、新しくなった生徒会室はどんな雰囲気なんだろうと思うと、とてもワクワクしてくる! 今はほとんど権限のない僕たちだけど、ユーコ姉さんの目論見が上手くいけば、新しくなった生徒会室とともに、充実した生徒会活動が送れるかもしれないね!


「んー、放課後が楽しみだなぁ」


 四校時のチャイムが鳴って、月曜日の午前中の授業がすべて終わると、僕はうんと背を伸ばして、一日の授業の半分が終わった喜びをかみしめた。

 放課後になったら、リンネを誘って生徒会室に一番乗りしようか――――なんてことを考えていると


「あーきほっ! 今から新しい生徒会室に行かない?」

「い、今から!?」

「そう、今からっ! 工事はもう終わってるみたいだし、今日はそこで、その……お昼にしましょっ」


 いきなりリンネに両肩を鷲掴みにされ、逆に生徒会室に行かないかと誘われてしまった!

 まさか昼休みのうち生徒会室に行くなんて…………どうやらリンネは僕以上に気が早いらしい。

 でも、またユーコ会長から昼休みの招集が入ったらどうしよう? スマホを見ると……幸いメッセージはまだ何も来ていない。


「アキホ、もしかしてまた会長から来なさいいて言われてんの?」

「い、いや、今日はまだ…………」

「だったら都合がいいわね! ユーコ会長からのメールが来ても、今日は無視しましょっ! 今日はあたしたちの独立記念日よっ!」

「うーん、大丈夫かな? ああっとまったリンネ、行くのはいいけど、僕はお弁当持って行かなきゃ」

「お弁当……そうだ!! あたしも今日はお弁当持ってきたんだった! 忘れるところだったわ、ありがとうアキホっ!」


 リンネがはやる気持ちはわかるんだけど、危うく二人でお弁当を持たずに教室を出るところだった。これじゃあ生徒会室に何しに行ったか分かった物じゃない。

 やっぱりリンネも、僕ほどじゃないけど昔からどっか抜けてるところがある気がする…………。


 僕はいそいそとロッカーからお弁当を取り出すと、リンネはなぜかちょっとした大きさの手提げかばん丸ごと一袋出してきた。

 とても重そうだけど、ひょっとしてそれがお弁当なんだろうか? 明らかに僕のより量が多いよ?


「さ、行きましょアキホっ!」

「とっとっと、あまり引っ張らないでリンネ。また転んでメガネが壊れたら、今度はユーコ会長に買ってもらえないよ……」


 リンネに袖を引っ張られながら、僕たちは教室を後にする。

 いつもなら幼馴染に袖を引っ張られるなんてドキドキするシチュエーションなんだろうけど、珍しくクラス中の生ぬるい視線に囲まれているのが気恥ずかしいのと、いつユーコ会長のメールがあるかわからない恐怖で、そんなことを思っている暇はみじんもなかった………。



 僕たちは一階にある職員室で鍵を借りると、学園長室を挟んだ先にある生徒会室の前までやってきた。

 先週来たときは「工事中」の張り紙とブルーシートが張ってあって一歩も入ることができなかった生徒会室――――僕とリンネはお互いに目を合わせて頷くと、リンネが鍵を差し込んで回し、ゆっくりと引き戸を開けた。


「ここが姫木学園の生徒会室……」

「なんだか、ちょっと狭くない?」


 工事したばかりだからだろうか。壁はきれいに真っ白に塗られていて、比較的新しい空のラックがいくつか置かれている。

 けれども…………リンネがいう通り、心なしか部屋が狭い気がする。

 奥行きは普通の教室と全く同じなのだけど、部屋の真ん中にドンとおかれている長机と、メンバープラス顧問用なのか、パイプ椅子が六つ置かれているほか、可動式のゴロ脚がついたホワイトボードが一枚ある。

 たったそれだけなのに――――すでに部屋の中がいっぱいになっているように感じるくらい、部屋が狭い。


「見た目はピカピカだし、ものを置く場所がたくさんありそうだから悪くはないんだけど…………なんかちょっとテンション下がっちゃうわ。あたしの住んでるアパートの部屋よりも狭いんじゃないかしら?」

「というか、不自然に長方形っていうのかな…………奥行きが長い分、幅が狭く見えるね」

「エアコンもついてないから、夏になると部屋にいられないんじゃないかしら。あーあ、これならやっぱり『第二生徒会室』の方がいいわね。……とりあえず、お弁当食べましょ。もしかしたらもう少し過ごせば、少しは愛着がわくかもしれないし。それこそ、あの秘密基地みたいにね」

「僕は今のうちに席をとっておこうかな。一番下っ端だからここでいいか」

「じゃあたしはアキホのとなりーっ♪ あ、でもここユーコ会長の隣じゃん。いやでも……まあいいや」


 思いのほか「さほどでもない」生徒会室の間取りに、僕とリンネは少し不満だったけれど、とりあえず今は受け入れることにした。

 今は少しでも前向きに楽しむために、僕とリンネは早い者勝ちと自分の座る場所を勝手に確保する。どうせ後でユーコ会長に割り振りしなおされることは目に見えてるけど、新鮮な気分でちょっとは楽しくなった気がする。


 あと、リンネが僕の隣を選んでくれたのも、とてもうれしかった。

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