埋蔵金の噂 7

 僕たちが休日に行く予定の「葦古野あしこの古墳公園こふんこうえん」は、その名の通り公園内に古墳があることに由来していて、敷地の中心には高さ5メートルほどの古墳が鎮座している。

 そしてその周囲には古墳にまつわるものを展示する資料館があるほか、大きな遊具がいくつも置かれていたり、快適なサイクリングロードや釣り堀があったりして、休日はいつも大勢の家族連れでにぎわっていた。

 そして、僕たち家族とユーコ姉さん、リンネも、数えきれないくらい遊びに行ったものだ。


「それじゃあ、もう一度この地図を詳しく見てみましょうか。この絵が仮に宝のありかを示しているとするなら、鍵穴の中に鍵、それと三つの木みたいな何かの真ん中に宝箱ってところかしらね」

「文字が全く書いてないと、どれが何を示してるのかさっぱりだね」

「っつーか、せめて方角くらい書いとけっての……」


 僕たちは改めて地図を広げてみるけど、やっぱりこれを見ただけじゃ何が何だかわからないな。

 鍵や宝箱のほかにも、建物のような絵や、丸がいくつも連なった線がくねくね曲がってるとか…………これを書いた人は、やっぱり地図という概念に喧嘩売ってんじゃないのかな。宝物見つけてほしくないんだろうか?


「というか、この鍵穴のマークって、何かしら」

「地図を手に入れるための鍵とその穴……ではないようですし」


 地図をじっくり見ていたユーコ姉さんとササナ先輩が、地図に描かれている絵のそもそもの意味について悩み始めた。


 一方僕は「鍵穴」の単語で、一つひらめいたことがあった。

 そう、たしかある漫画でも鍵穴扱いされていた…………


「わかった! これはたぶん古墳を現してるんだと思うんだ! ほら、ここって古墳公園でしょ! だから、その目印としてこの絵が…………」

「甘いわねアキ。葦古野古墳は「方墳」よ。前方後円墳じゃないわ」

「あ、そうだった!」


 が、その考えはユーコ姉さんに一瞬にして否定された。

 そう、公園にある古墳は教科書でよく見る鍵穴みたいな形をした「前方後円墳」じゃなくて、上半分が切り取られたピラミッドみたいな形をしている「方墳」という種類の古墳だ。


「ふふっ、アキってばやっぱりドジっ子よね」


 がっくし……

 確かに思考がちょっと短絡的過ぎたか。


「あ、そういえば一つ思い出したのですが」


 そういって、今度はササナ先輩がポンと手をたたく。


「かなり昔、葦古野山はそれ自体が古墳じゃないかって噂されたことがあったとか」

「なにそれ? 私は聞いたことないわ」

「私もかなり前に、お祖母様からたまたま聞いたのですが、ここの山自体がちょうど鍵穴型…………つまり、前方後円墳の形状をしていたので、戦前に考古学調査が行われたとか」

「それはまたすごい話ですね。もし本当だったら、大阪にある大仙陵古墳なんかよりずっと大きいってことになりませんか?」

「で、結局噂どまりだったってことは、古墳じゃないって結論が出たってところかしら」

「はい、優古さんのおっしゃる通り、どこを探しても葦古野古墳のような埋葬品が出土せず、棺桶を安置する場所の入り口もなかったみたいです」

「う~ん、だとすると、この鍵穴のマークは葦古野山自体を現してるってことでいいのかな? アキホはどう思う?」

「地図をここで見つけたことも併せて考えると、やっぱり秘密基地があった山のどこかにまだ鍵が隠されてるのかな」


 とはいっても、さすがに山全体を探す気にはならないな。

 本格的な調査をするなら、それこそどこかの好事家に地図を渡して代わりにやってもらうしかない。

 僕たちはあくまで、親睦ハイキングのついでに秘密基地を見に行くだけだからね。


 しかしそうか……秘密基地があった山にそんな歴史があったなんて。

 なら、この古い地図もひょっとして…………


「ねぇ、ユーコ姉さん。ひょっとしたらこの古地図って、その時調査した人たちが落としたものなのかな? ササナ先輩の話してたことが戦前だったら、時代的にもつじ辻褄が合うんじゃない?」

「む、その考えは確かに否定できないわね」

「でも仮にその時の人たちが作ったとしたら、ますます意味わかんないよ。それとも、昔の人たちって、こういう地図しか作れなかったとか?」

「流石に昔の人を馬鹿にしすぎだと思うよリンネ。伊能忠敬なめるなって話だよ」


 そのあとも、僕たち5人は色々な可能性について話し合ったものの、結局今の段階ではわからないことが多すぎて、どれもこれも憶測にしかならなかった。


「だあぁっ! もうこれ以上グダグダ考えてもラチあかねぇっ! どうせ日曜日に行けば色々わかるんだろうから、考えるのはそのあとでいいだろ! それより『アバニン』やろうぜ!」


 いつまでもあーでもないこーでもないと言い合うのが不毛に感じたのか、アーモン先輩が話を切り上げてゲームをしようと言い出した。

 あ、そうだ。『アバニン』は、4人対戦ゲーム『あばれ! ニンジャ・ウォー!』のことで、色々な忍者を操って、手裏剣投げ合ったり、刀で斬りあったり、ミサイルを撃ったりする、オードソックスなFPS対戦をするゲームだ。


「それもそうね。小人の考え休むに似たり、ともいうし。息抜きも大事よね」

「誰が小人じゃぁっ!! 決戦のバトルフィールドでめった刺しにしてやっから覚悟しろよコンニャロウ!」

「アーモン先輩落ち着いて……あとユーコ姉さん、それを言うなら「下手の考え休むに似たり」だと思うんだ!」

「あはは……やっぱ結局こうなっちゃうのね」


 こうして、この日も生徒会活動という名の話し合いは終わり「交流の時間」という名のゲーム大会に移行したのだった。

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