第3話 君との思い出は、2回だけ
ある夏の日、僕がチャイっていう外国のスパイシーなお茶のことを知らなくて笑い物になった時、君は他の女の子達に混じって、離れた席からこっちを見てクスクス笑っていた。
その時は驚いたよ。僕が君の視界に入ってるってことに。
嬉しさと恥ずかしさで、僕は教室から逃げ出しそうになったんだ。教授が入って来なければ、本当に駆け出していたと思う。
僕がチャイを知っていれば、皆の前でさらりとチャイの知識を披露できるような男であれば、どんなに良かっただろうね。
チャイ(英語: Chai / ヒンディー語: चाय / ウルドゥー語: چاۓ cāy チャーイ)は茶を意味する言葉さ。狭義には、インド式に甘く煮出したミルクティーを指すんだ。世界的には、茶葉に香辛料を加えたマサーラー・チャイを指すよ。中国語の「茶 chá」に由来しており、ロシア語、ペルシア語、トルコ語でも茶を「チャイ」というんだ。知ってた?
なんてね。みんなはいつ、どこでこんなものを飲んでいるんだろう。僕はベッドに寝転んでwikipediaを読みながら、不思議に思った。
その夜、僕は夢の中で、華麗なロングシュートを決めた。
グラウンドの真ん中に設置されたコートの中、僕は背の高い男たちとボールを奪い合う。
セーラー服姿の君は、教室の窓から退屈そうに試合を眺めている。
誰かが僕の名前を呼んだ。
頼む、お前しかいない、決めてくれ、そう言われて受け取ったボール。
コートの中央に居た僕は、ひとつ頷き、覚悟を決める。
そしてそれはまるでそういう運命だったように、リングネットに吸い込まれた。
君は立ち上がり、目を大きく見開く。
君の目はとても大きくてキラキラしているから、グラウンドからもわかったんだ。
歓声。僕に駆け寄るチームメイト。もみくちゃになりながら、僕は君に向けて、白い歯を出してニコリと笑ってみせる。そしたら君は笑顔になって、僕に手を振ってくれた。
目が覚めるともう昼で、僕は授業に遅刻した。
あと、うーん、これは秋の頃かな。君が突然話しかけてきたことがあった。
僕のシャツの柄を見て、それフラミンゴ?って聞いたんだ。
ドキドキした。初めて君の方から話しかけてくれたんだもの。君にとっては何でもないことだったかもしれないけれど、僕にとっては大事件だ。
僕は「トリケラトプス」ってどうにか答えた。
ぶっきらぼうに見えたかもしれない。冷たい返答で君を傷つけていないかと心配でたまらなかった。けれど、フォローしようと思った時にはもう、君は居なくなっていた。
もしかして、これも夢だったのかな。それにしても、トリケラトプスがフラミンゴに見えるなんて、君は少し変わってる。でも、そういう所が好きなんだ。
君とのコミュニケーションは以上。その2回。ああ、2回。2回だけだったんだ。
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