#017 新たなる村長"アルフ"②

「次はそっちのブロックを運んでおいてくれ」

「積み上げちゃいますか?」

「あぁ~、そうだな。……とりあえず1面だけ積み上げておいてくれ」

「うぃ~っす」

「…………」


 ドルイドの村・新区、作業開始3日目。相変わらず人付き合いは出来ないながらも、そこにはこの仕事が気に入ってしまった自分がいた。


「並べ終わりました~」

「はぁ~ぃ。今行きま~す」

「ナタリーさん、自分、手伝います!」

「おいコラ、抜け駆けしてんじゃねぇぞ!!」


 水車小屋で作られたブロックを色ごとに分けて運び、積み上げていく。作業自体は簡単で、色分けされているので(間違えようは無いが)間違えても直ぐに分かる。積み上げたら魔力に余裕のある人が魔道具で接着してくれるので、終わったら次の段へ移る。その繰り返しで、なんと小規模な家なら1日で外装が完成してしまうのだ。実際に家として使うには、細かな内装の作業が残っているが、そのあたりは作業内容に含まれていないのも非常に有り難い。


「おぉ~ぃ、足場を運ぶから手伝ってくれ」

「「…………」」

「あの、私も手伝うので……」

「ティアナちゃんは無理しないで、俺たちがやっとくから」

「え? あ、ありがとうございます」

「お前ら、ホント女性相手だと態度が変わるよな」

「何当たり前の事言ってんだ? 俺は男だぞ??」

「お、おう」


 あと、作業員を鞭打って酷使するのではなく、あの手この手で上手く煽て、自発的に作業に参加するよう促す仕組みも面白い。


 現場作業には、あえて女性を混ぜ、下心のある男を上手く使う。他にも、基本給に加えて特別報酬があり、追加で頑張った人には何かしらのご褒美がある。逆に、俺の様に黙々と働きたい人にも人権があり、サボってさえいなければ、基本報酬やプライベートな時間が補償される。


「あぁ、そこのキミ、たしか"グラム"さんだっけ? ちょっといいかな??」

「あ、はい」


 そんな事を考えながら黙々と作業をしていると"シェフ"に呼び止められた。


 シェフは、役職がそのまま呼び名になってしまった村の人だ。本当の名前は知らないけど、わざわざ聞く意味もないので、完全にシェフの呼び名が定着してしまっている。


「変なことを聞くようで悪いけど、例えば、一滴一滴、滴る雫を毎日監視する仕事があったとして、何年も続ける自信、ある?」

「え? まぁ、普通に出来ると思いますよ??」


 いや、むしろ実際にそんな仕事があるのなら喜んでやらせてもらう。例え、給料が驚くほど安くても、それで生活できるなら、それは理想以外の何ものでもないだろう。


「なるほどなるほど。じゃあ、ちょっと来てくれる? 頼みたい仕事があるんだ」

「え? 別に、いいですけど……」


 どうでもいいが、この料理人。現場総監督の村長を差し置いて、勝手に配置変更の指示を出す。まぁ、その指示は的確なので文句は無いが……。





 それはさて置き、やって来たのは現場を流れる川の上流に設置された謎の倉庫。


「雫を監視する仕事は"今は無い"けど、代わりにこんなのはどうかな? と思って」

「うっ!?」


 二重のドアを抜け倉庫の中に入ると、突然押し寄せる熱気に思わず顔が逃げてしまう。


「あぁ、そんなに暑くは無いと思うけど、大丈夫だった?」

「え? あ、あぁ、はい。大丈夫です」


 そう、突然の事で驚いたが、言われてみれば確かに大したことは無い。


 それより、改めて倉庫内を見ると、その温かい理由に驚かされる。倉庫内の屋根はガラス張りになっており、屋外と変わらないほど明るく、そして何より温かかった。


「ここは作物の"苗"を育てるための温室なんだ。ここでの仕事を教えるから、良ければやってみないか?」

「え?」

「大丈夫。苗床を用意して、種を植えるだけ。あとは定期的に水をやって、一定まで育った苗を引き渡すだけ。簡単だろ?」

「は? え??」


 突然、農家のような仕事を任されてしまった。正直に言って、現場での単純作業は気に入っていたので、断ろうと思ったのだが……この苗作りの仕事、単純作業ではあるが、室温や水分量など気を使う事が多く、頭を使う。しかし、作業中は一人で、人目が全く無い。




 結局俺は、直ぐにこの仕事が気に入り、一日の半分を温室で過ごすことになった。

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