#013 密かな始まり・ドルイド移住地区③

「錬金術は数ある魔術の中で、最もシンプルでありながら最も奥が深い魔術、だと言われている」


 昼過ぎ、建設作業を再開する前に、皆を集めてちょっとした"お勉強会"を開く事にした。


「「…………」」


 皆が食い入るように、俺の手に視線を集める。


 手に乗せた鉄屑に魔力を込め、ゆっくりねていく。すると、常温にもかかわらず、鉄屑は徐々に形を変え、柔らかい粘土のような状態になる。


「「おぉ~、すげぇ!!」」

「触ってみるか?」

「えっ! いいの!?」


 柔らかくなった金属に大興奮の子供たち。しかし……。


「あれ? 硬くなっちゃった!?」

「あ、ほんとだ、カチカチ」

「魔力の供給を断ったからな。錬金術に限らず、魔法で作りだしたものは、魔力供給を断つと元の状態に戻ろうとする。だから魔法で生成した水は直ぐに消えてしまうし、飲んでも喉は潤わない」

「「へぇ~~」」


 この世界の魔法は、すなわち"幻想"であり、一時的な概念の具現化にすぎない。よって、状態を継続するのにも魔力を消費してしまう。


「だから魔力からエネルギーを取り出すのは難しいんだ」


 改めて鉄屑を捏ね、形を整えていく。


「エネルギー??」

「例えば、物を動かす力や、熱、あと、少し違うが水などを生成する事だな」


 横目で確認すると、ルークやブランはすでに興味を失いかけている。やはり難しい話は、魔法適性のあるティアナや、勉強熱心な子(クロエやネロ)以外には退屈なようだ。


「ちょっと! 皆、アルフ様のお話、ちゃんと聞かなきゃダメよ!!」


 すると、俺の視線を察したのか、すかさずクロエが注意を促す。


「クロエはイイ子だな。よし、特別に膝の上特等席で見せてやろう」

「えっ、それは、その……」

「クロエは要らないって。代わりにボクが……」

「ちょっ! 待ちなさいネロ!!」


 やはり子供たち、特に下の2人はまだまだ人肌が恋しいようだ。


 昔何処かで聞いた話だが『基本的に教育は、怒って強制するよりも、飴をチラつかせて自発的な行動を促す方が効果的』なんだとか……。


「俺が、なんで魔法を覚えたか、教えてやろうか?」

「「え?」」

「嬉しいからだよ。出来ない事が出来るようになるのが嬉しい。知らなかった事が知れたから嬉しい」

「「…………」」


 クロエとネロが、俺の膝の上で、俺の横顔を覗き込む。


「自分の知識や技能が誰かの役に立てば嬉しいし、全部は無理でも、助けられる命が助かれば、やっぱり嬉しい。俺は今、皆と一緒に暮らせる事を、幸せ、だと思っている」

「「う、うぅ……」」


 2人の体が微かに振るえる。


 俺には、親に捨てられる気持ちは理解してやれないし、人権さえ保障されない環境で生活する気持ちも理解してやれない。それでも俺は、人として世界が平和であることを望んでいるし、良い子が救われない世の中に憤りを覚える。


 もちろん、俺は聖人では無いので、虫や草花、あるいは悪人にまで同情するつもりは無い。だから俺は、孤児院を建てるし、あの領主には、然るべき酬いを受けさせるつもりでいる。


「よし! できた」

「何ですか、これ?」

「これは、こうして……」


 手にしているのは、太めの金属の棒で、その先には抽象的な木が描かれている。これを、あらかじめ用意しておいた鋼鉄の板に押し当てる。


「おぉ! 印鑑だ!!」

「惜しい! ハズレだ」

「えっと、これは……」

「あぁ、こんど村で流通させる"新通貨"の型だよ。つまり、ここからお金が出来るわけだ」

「「えぇぇぇ!!?」」




 そんなわけで、今度村に流通させる予定の新通貨(の原板)が、ふわっとしたノリで完成した。

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