#004 失われた栄光・鉱山都市ルード③

「うお、結構いい宿を借りてるんだな!?」

「街長が用意してくれたものだ。まぁ、見栄も大きいだろうがな」

「えっと、すいません。出張料まで、払ってもらって」

「実際に仕事時間に出向いて貰っているので、気になさらないでください」

「その、今お茶をお淹れしますね」


 日も暮れ、俺は街長が用意してくれた宿に2人を招く。この場にはナタリー姉さんも同席しているが、合流してから必要最低限しか言葉を発しない。まぁ、相手はスリと娼婦だ。警戒していると言うか、思うところは少なからずあるものの、俺の秘書として割り切った対応をするつもりのようだ。


 因みに姉さんには(街長と対談した後)別行動で各工房を廻ってもらっていた。目的は、見習いや隠居した職人の勧誘。不景気な街なので、仕事不足で暇を持て余している職人は少なからずおり、そんな人たちを村に勧誘する計画だ。


「それでは改めてご説明させてもらいます。ティアナさんには、ルーク君と同じく、私の直属の部下としてドルイドの村に移住してもらいたいのです。現在、ドルイドの村は……」

「えっと、すいません。その前に聞きたいのですが、いいですか?」

「どうぞ」

「あの、どうして私やルーク君なのですか? 正直に言って、もっと優秀な方は他にいくらでもいるかと」

「あ、それは俺も聞きたい!!」


 もっともな質問だ。できれば順を追って説明したかったが、先に俺の"敵"と"ギフト"を説明しておくのもいいかもしれない。


「そうですね。理由は複雑なのですが、大きな点は2つあります。それは……」


①、身寄りが無い事。領主は明確な敵意をもってコチラを潰そうとしている。もし身寄りのある人物を雇い入れた場合、家族を人質にとられたり、帰省の際に買収されたりする危険がある。


②、人柄が信用できる。盲目的な正義感では無く、仲間のために自分を犠牲に出来る献身性。加えて犯罪や売春行為に手を染めながらも、心は堕ちていない点。正義でも悪でもなく、ニュートラルな感性で物事を判断し、実行できる人材が今の俺には必要なのだ。


 正直なところ、信用だけで言えばナタリーなど、村内に何人かかアテはある。しかし、ナタリー姉さんに娼館の管理を頼めるのか? "アドバーグ"叔父さんに領主が送り込んできた賊を容赦なく殺す指示がだせるのか? 仮に出来たとしても、その精神的なストレスは計り知れないものになるだろう。


「なるほど、領主様に村を乗っ取られようとしているのは理解できました。家族と呼べる相手が居ない私たちを選ぶ理由も。ですが、私たちはハッキリ言って"学"がありません。文字もロクに読み書きできない私たちに、そのような大役が務まるとは……到底思えないのです」

「ぐっ。確かに、俺も読み書きや算術は、無理かも」


 端的に言って2人は馬鹿だ。義務教育の無い世界なので仕方ない部分もあるが、社会的地位の格差は、知識方面に顕著に出てしまう。もちろん、今からでも勉強すれば最低限は何とかなるだろう。しかし、そこから先や、即戦力の観点で見れば他者に大きく劣るのは紛れもない事実となる。


「なるほど。2人の懸念は理解しました。しかし、私が第一に考えるのは"人柄"であり、それさえクリアできるのなら能力の問題は二の次だと考えています。出来ないなら出来る人を雇い、監督すればいい。そういう考えです」

「ですが、その、それでも限度が……」

「そうですね。その、お恥ずかしながら、村長、いや、個人は人間不信なのです。ハッキリ言って他人は全く信用出来ません」

「「はぁ……」」

「それには理由があって、これは秘密なのですが……実は私、ギフト持ちなのです。相手の魂が発する波長、便宜上"オーラ"と呼んでいますが、そのオーラを知覚する能力を持っています」


 ギフトとは、先天的に得た特殊技能だ。しかし、転生チートとは少し違う。この世界には魔力の影響か、稀に第六感が発達した者が生まれる。これは種族特性から来る六感とは別で、突然変異に近い形で得られる"追加の感覚神経"をさす。例えば『嘘を見抜ける』とか『明日の天気が分かる』などの感覚を追加・拡張する類のものとなる。


 そして俺のギフト名は妖精眼フェアリーアイ。魂を持つものの本質的な在り方を見抜く能力で、嘘や考えを読むなどの直近の変動や詳しい内容は分からないものの、その人の人柄や、その変化を読み解くことが出来る。つまり、相手が『お金で動くタイプ』とか『挫折を繰り返して自分を失っている』などの情報が、見ただけで分かってしまうのだ。


 『相手の考えている事が分かる能力』ほど酷くは無いが、それでも相手が自分を裏切る可能性があることを知覚できる能力は、俺を人間不信に陥れるには充分だった。もちろん、相手によりけりな部分もあるので、ナタリーのように『他人はともかくアルフは裏切らない』と言った例外はある。つまり、それが特定の相手を最優先にできる性格であり、それを決めるのが"絆"だ。


 ゲスい考えに自分でも嫌気がさすが、その絆を結ぶのに1番手っ取り早い方法が『どん底に居る自分を救う恩人』になる事だ。それには奴隷やスラムの住人を助けるのが最適であり、その中でも若い者の方が魂に刻み付ける影響が大きくなる傾向にある。


「なるほど、事情は理解できました。ですが、すいません。この話は、やはりお断りしたいと思います」


 予想通り、申し出を早々に断るティアナ。彼女は子供好きであり、なけなしの稼ぎを孤児に費やす聖人のような女性だ。まぁ俺の目から見ると、少し違った印象になるのだが……それはともかく、やはりルードの孤児を見捨ててドルイドに移住する事は出来ないのだろう。


「飲める条件は可能な限り譲歩するつもりです。どうかもう少し、話を聞いて貰えないでしょうか?」

「いえ、お気持ちは有り難いのですが……私だけ移住するわけには。確かに血のつながりはありません。でも、ルードに住む孤児子供たちを……」

「全員です」

「はい?」

「こちらはルードに住まう孤児全員を受け入れる用意があります」

「えっ?」

「それだけでなく、今後は他の街や村から、お二人と同様に信用のおける人材を集めるつもりです」

「えぇぇーー!!?」


 子供だけの王国を作るなんて絵空事を言うつもりは無いが、元より側近は子供いちから育てた者で固めるつもりだった。加えて、村の経営には多彩な人材が必要となる。2人程度では到底足りない。最低でも各分野に専門家を1人ずつ。そしてその補佐が出来る者を一定数揃える必要がある。ぶっちゃけ、人材はいくらあっても足りないのが現状だ。




 この後は、言うまでも無く話がトントン拍子で進み、無事、2人を俺の側近として雇い入れる運びとなった。

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