40.剣と華と八
一瞬、突然と表れた少女に気を取られていた
だが、顔を差し向けてみると、彼らは何故だか、どこか気まずそうな表情を浮かべていた。
それは
何も言えずにそわそわとしている二人の様子を見て取って、往来に表れた長髪の少女はむすっとした表情で口を開く。
「
甲高いながらも、どこか落ち着いていて、周囲に通る聞きやすい声であった。
そうして、どこか怒ったような表情を浮かべながら、長髪の少女は小さな歩幅で二人へと向かってちょこちょこと歩み寄っていく。
「い、いや、これは……その……
酷く
それは先ほどまで
局長と呼ばれた長髪の少女は、
びくりとして
「お、俺は、ただ
厳つい顔をした大の大人が、表情を曇らせて、少女へ向かって通じそうもないを言い連ねていた。
長髪の少女は、はあっと溜息を漏らすと、
「とりあえず、お二人は武器をしまってください。話はそれからです。」
「は、はいっ!」
慌てて
そんな光景を、
今の今まで真剣を剥いて、命からがらに斬り合っていた二人が、未だにこちらが刀を抜いていることにも構わずに、そそくさと武器をしまっていくことに対して、毒気が抜かれた気分となってしまっていた。
三人が一体どういう間柄なのかと、
局長と呼ばれていることや、男二人が畏まって言うことを聞いているあたりからして、恐らくはあの小さな少女が
男達に向けていた厳しい表情とは打って変わって、少女は途端にちょっと様子を窺ってくるような、どこか
少女は恐る恐ると言った態度で
とは言え、その仕草は全くの無防備で、もし今手に持っている刀を振ればすぐにでも少女の首が地面に転がるだろうと感じさせたが、流石に
二三歩ほど離れた位置で立ち止まり、長髪の少女はくりくりとした丸い目を上目づかいに
少女の顔は流石に幼いこともあって鼻筋こそ通っていないものの愛嬌のある顔立ちをしていて、ぱっつんと横に斬られた前髪に大きな瞳と小さな口が可愛らしさを感じさせるがために、
「えっと……あの……そこのお方。お怪我はないでしょうか?」
言葉に詰まりながら言った少女の言葉は、先ほどまでとは打って変わり、もじもじとして、年相応の可愛らしさが感じられるような物言いであった。
どこか物怖じする様子の少女に問われ、
「ええ、私は大丈夫ですよ。いや、怪我自体はありますがね。ほんの薄皮一枚が斬れたぐらいのものでございます。」
言いながら、
もう殆ど乾いてはいたが、それでも傷口からは血が滲み出てきて、頬を汗の様に伝うと、親指の先へ纏わりついた。
少女はその血の流れるのを見るや、目を丸くしてわたわたと頭を下げた。
「すみませんっ。うちの隊員が……。」
深々と頭を下げる少女の様子に、どうにも悪い気がして顎を撫でながら
「いや、どちらかと言えば私の方から仕掛けたんですけれどねえ……。」
「そ、そうっすよ!局長。俺はこの女に吹っ掛けられったから喧嘩を買っただけで――」
「だからって、ほいほいと喧嘩を買わないでくださいっ!!」
ぴしゃりと少女が怒鳴ると、すぐに
「す、すんません……。」
余りにも恐縮して謝っている
「はぁ……なんとも興が削がれましたねえ……。」
こんな状況から斬り合いに持っていくという気持ちになれずに、
ぎいいっと刀身と鞘とがうまくかみ合わずに擦れあって鈍い音を響かせる。
その酷い音に顔を顰めて
途端に
自分達を中心にして円を描くように立ち並ぶ大勢の野次馬たちの顔を眺めていくと、僅かに飛び出た所に
はたと視線が合って
「
そう声を掛けてみるが、それでも
足元まで近づいてきたところで、
「あの?大丈夫ですか?」
「大丈夫ですよ。あちらも刀をしまわれておりますし。もう襲ってきますまい。」
「そうではなくって。
「おや心配してくれるのですか?」
冗談めかして言いながら、そっと手を伸ばして
「心配しますよ。あの男の人に突っかかっていった時から、今までずっと心配し通しです。」
「そんな心配してたら、身が持ちませんでしょうに。」
軽く言うと、
「なにを……それもこれも
非難めいた口調で言った
そうして
少女は未だに
「それでは行ってしまいしょうか。」
「え?えっと……そんな勝手行って良いんでしょうか?」
「あちら側は、こっちなど放っているのですから良いでしょうよ。それにここに残っていたって面倒になるだけですよ。」
「それは面倒事を引き起こしたお方が言うことですか……?」
「それはそれ、これはこれ、でございますよ。では行きましょう。」
そう言って歩き出した
ただ、ふと思い出したように
急に立ち止まったことを不思議に思って
「どうしました?」
「いえね。ちょっと。」
そう言うと、
「もし、
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