36.剣と華と四
「まさか絡みにでも行くつもりですか!?」
「そりゃあ、そのつもりですよ。当たり前じゃないですか。あんな強そうな方が、わざわざ自分からかかってこいなんて仰るんですから。ここで絡みにいかなければ損ですよ。」
素知らぬ顔で、いけしゃあしゃあと言い放つや、袖を握りしめている
それを慌てて
「ちょ、ちょっっっと、待ってください。そんなの損で良いじゃないですか。わざわざ危ないところ向かっていく人がどこに居ますか。」
「ここにですよ。」
自分の顔を指さして、さらりと
「
指摘されて
「ええっと……えっと……警護を引き受けたんでしたら、警護を優先してください。私をほっとくんですか?」
これならどうだと
「
ぐうっと唸りながら、それでも
「だってその……目的地についたらお礼をするって約束しましたから。それまでは無事で一緒にいてください。」
「なんとも生真面目なことですねえ。ですが、あちら様はこちらの方に気が付いたようですよ。」
嬉しそうにそう言った
余りにも
相手に目をつけられてしまえば、もうこの先、
むしろ歩きづらいだろうに、そんな足の進め方で近寄ってくると、背を大きく後ろにそらし、
「おうおうおう?なにやってんだ、てめえら。てめえらも喧嘩か?」
「いえっ……喧嘩とか全然そんなんじゃ……。」
素早く首をぶんぶんと振って
「うっ……。」
と、思わず
その瞬間すっと手の力が緩まってしまい、握っていた
自由になった途端、
「いえ、なにね。折角楽しく喧嘩を眺めておりましたのに、妙な格好をした頓痴気な輩がわざわざ止めに来て、なんともまあ無粋なことをしてくれるものだと、二人でそう言いあってたところなんですよ。」
途端と、一言一句も詰まらずにつらつらと言い立てる
その口元は僅かに笑っても見えたが、完全にひくついて、紛うことなき苛立ちが露わになっていた。
「ああん……なんだぁてめえ。俺らのやることに文句があるって、そういうことかぁ!?」
「そう言ってるのございますよ。耳が詰まって聞こえませんでしたか?それとも頭が御悪いので?何でしたら頭を叩いて直して差し上げましょうか?」
どすを利かせた声で周囲の建物がびりびりと響くほどに怒鳴った
浮かんでいた血管が今にもはち切れんばかりに引く付くと、片方の眉を異様に持ち上げて
その顔は「こいつは殺す」と「今殺す」の二つの意思が見事に滲み出ていて、「だからもう何も言うことはない」と決意した表情でもあった。
「分かった。後悔すんなよ……。」
さっきまでの響き渡る声とは打って変わって、妙に大人しくなった声を低く響かせながら、
それを眺めて
「やはり、こういう手合いは話が早くて助かりますねえ。」
言いながら
「なんで道歩いてただけで、こうなるんですか……。」
頭が痛くなる思いと、
じりっと地面を踏みしめる音を鳴らして、二人が足を近づけていく。
酷く静かだった。
ほんの先程まで、
家屋の中に逃げ込んだ者やら、道端へと身を引いた人々が、遠巻きに二人を眺めながら
男には自らの腕の自信があった。
ましてや今回の様に、
故に、目の前の女に対して幾分かの侮りを持って、
対面に向かう
――奇妙なことに
剣士と言うものは刀を構え対峙すれば、それで互いの力量を測れることがある。
その佇まいや、刀の位置、足の運び方等を見るだけで、経験則から相手の大凡の強さと言うものが悟れる時があった。
しかし一方で、全くそれが分からぬ時もある。
技術体系の全く違う流派や、強さの思想が異質な武術同士が出会った時、その強さの本質に気が付けぬためにそれは起きる。
古くから伝わる武術の達人とも有ろうものが、別の格闘技法と戦って、無防備な一撃を食らうのも、そこに原因があった。
不運と言うべきか奇運と言うべきか。
そして二人にとっては、正に、それが今回のことであり。
刀の届く距離となった。
その瞬間。
途端、二人は全身にぶわりと汗を湧き出させていた。
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