20.対峙二
首をひねって片目で空を見上げながら、
「私の生まれ育った村は酷く高い山の近くでしてね。」
「高い山ですか?富士のような?」
「ええ、高い山です。とは言え流石に富士ほどではありませぬがね、山頂まで登って二刻ほどはかかるでしょうか。兎も角も、そんな山が近くに
それがどう剣の腕前に繋がるのだろうと思いながら、
「その山の中の一番背の高い木の上に、一人の天狗が住んでおったのですよ。」
「天狗……ですか?」
あまりにも唐突な言葉に、思わずも顔を上げて問い返してしまうと、
「天狗でございます。それがまた何とも顔が赤くて鼻が高くて、一目に見てすぐに笑いだしてしまいそうな顔をなされていたのですがねえ、滅法に強くて、そこでその天狗に毎日押しかけていっては、剣を扱う術を教えてもらっていたのですよ。それで幾年か経ったうちにこうなっておりました。」
「はあ……天狗に剣を教えてもらったと……。」
「まあ、そう言うことでございますよ。」
「なるほど。」
「ほう?」
酷く腑に落ちたようにすっきりとした顔をして、
「天狗直伝ですか。なるほど、それならば
そう言って、うんうんと
その表情は余りにも呆れかえって、本気で言っているのかと多少頭を疑うような眼差しを浮かべている。
「……今のは、冗談と言うか、嘘なのでございますが。そういう所が
「ええっ?」
驚いたように
「今の……嘘、なんですか?」
「そりゃあ嘘ですよ。嘘です。あからさまに嘘でございましょう?天狗などと……居るはずないじゃないですか。」
ひらひらと手などを舞わせて、いけしゃあしゃあとした態度で
「いや、しかし。天狗などとも信じたくなるほどですよ。
多少ムキになったのか、
「まあまあ、そうムキにならずとも。嘘をついた私が悪うございましたから。」
「何を。ムキになどなっておりませんっ。」
「そうですか。いや、そう突っかかってくる
「なっ……。また冗談ばかりを。嘘はもうお充分です。」
今度は違う意味で顔赤くして、慌てて
そういう所がまた可愛らしいと、
「逆に、
不意に
「どういう意味ですか?」
「いえ。
一瞬口を開くが、眉を
「私は……。私は。そうですね。私はみなしごだったらしいのです。」
「らしい、ですか。」
「育ててくれた方から、そう聞かされて育ちましたから、そうらしいとしか言えません。」
「それは、本当の親に育てられたってそう言うものではありませんかねえ?」
「そりゃ、そうなんでしょうけどね。」
伝聞でしかないという事で言えば、自分の生まれた時を覚えている人など居ない。今育てられている親から生まれてきたのだなどと確信をもって言える人間など居ないだろうと、聞きながら
「それで、どこかに捨てられていたのですか?」
「ええ、里にある一軒の家の近くに捨てられていたらしいです。」
ふっと、一つ息を吐き切って、
「布に包まれて地面に仰向けに置かれてて。笑えるのが、何か捨てた人は後ろめたかったのか、家の陰にある見えないような隠れたところに置かれていたらしくて、偶然そこの家の人が気付かなかったら、そのまま凍え死んでいたらしいんです。」
そう語った所で、途端、ははっ、とわざとらしく
その笑いがどんな意味なのか一瞬
「笑えるのがとは言いましたが、本当に笑わなくても良いんですよ?」
「おや、そうですか。それは申し訳ない。」
何一つ申し訳なさそうな口調で言うものだから、
「それで見つけられたその後に、
「それでもなにも、
「隠密に育てられたからと言って、そうならねばならぬものなのですか?」
「ならぬのですよ。他に生き様も知りませんし、職に就けるような技術もありません、仮に辞めようと思っても、里の者に追い回されて結局は殺されてしまいます。だから、こんなことをやっているんですよ。」
「ほう……それはまた、随分としょぼくれた話ですねえ。」
妙な言い方をするものだと
こういう話をすると、大抵は可哀想と言われるか、もしくは似たような境遇の人間に達観したようなことを言われる。
しょぼくれた等と言われるのは初めてだった。
「それで、
事実そうなのだが、そう明け透けに言われては、
「ええ、そう言うわけです。死ぬのは詰まりませんから。」
「それはそうですねえ。」
投げ捨てるような言いようをしながらも、
「死ぬのは詰まりません。」
そうして顔を上げると、ずうっと続いていた林が途切れ、急に草むらの続く原っぱへと飛び出た。
どうやら林の途切れらしく、山火事でもあってここいらだけ木々がなくなってしまったのだろう、丁度近くにあった木の一本は黒く煤けていて、更に視線を草むらの向こうへと向けると、遠くに木々の蒸れて生えているのが見える。
歩いてきた道からそのまま一筋の境目が連なって草むらが左右に分かれていたが、その周囲には胸ほどにも背が高く、細長い草が所狭しと生えしきっていた。
木陰がないために月影を妨げるものは何もなく、ぽっかりと開いた空からが煌々と明るい光が照らされていて、日中とまではいかなくても、随分と明るく感じられた。
その明るさに
樹木がないために山からの吹きおろしが通って、風が巻く場所なのか、常に葉先が揺れてさわさわと小さな音が絶えず聞こえてくる。
音を連れた風に乗って、長草特有の青臭さも周囲に漂っていた。
草むらに数歩ほど踏み出した後、
それに気が付いて、傍らを歩いていた
ここに何かあるのだろうかと
そうして、すんっと一つ鼻を鳴らしたかと思うと、途端に
「ここら辺、でしょうか。」
「え?何がですか?」
言葉の意味が分からずに
尋ねた言葉に
この辺りに一体何があると言うのか、見渡すに
それでも
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