19.道行六 - 対峙一
「と、言いますか、もしかすれば、今すぐにでも襲ってくるかもしれないんですよね。」
周りを見渡して
道脇に立ち並ぶ針葉樹の木陰は酷く暗く、生えているだろうはずの草木の外形すらも見分けられない。そこに誰かが居るのか、何が存在するのかすらも判然とせず、耳を
しかし、間違いなく自分を追ってくる男達が近くに居るのだろう、
そんな
「そうかもしれませんがね。そう
と、言って軽くぽんっと背中を叩いた。
「わわっ……。」
唐突に体を押されてしまい、慌てふためきながら小さな声を上げると、
多少転びそうになりながら足を進めてしまった
「
「少なくとも、今襲ってくるわけではないようですからね。そう言う気配が見受けられません。それなら、ここでじっとしているより歩いた方が得と言うものではありませんか?」
どうにも軽い調子で言ってのけると、
それを嫌そうにして
「分かりましたから、そう叩かないでください。」
渋々といった足取りで
嫌そうに言いはしたが、
そう思ってぐっと手を握る
* * *
八
ただ、そうやって上空に見える景色はそれなりに明るくとも、木々に囲まれた二人の通る道には枝葉の作る影が鬱蒼として多く、ともすれば数寸先の地面の形もあやふやなほどであった。
緩い傾斜となった坂道を、一歩一歩確かめるようにして
周囲の林の中はひっそりと音の凍り付いたかの如くに静まり返っていて、
木々の間で物音がするたびに
本当にこんな静かな闇の中を、誰かが付いて回ってきているのか、幾度となく
不意に
「ひぅっ!?」
突然のことに大仰なほど
その声が可笑しかったのか、
「慌てすぎです。そう気を張り詰めていては、体が持ちやしませんよ。」
ついっと顎を上げて、被っていた笠越しに空へと視線を向けながら、
空の西方には月が大きく浮かび、残る一面にはびっしりと星屑が
「ほら空を見てごらんなさいな。月がくっきりとしていて、眺め頃でございますよ。」
「命が狙われているというのに、そうも大胆にはなれませんよ……。」
肩をかっくりと落としながら、
ふむっと上げた顎を一つ撫でて
「なに、ずっと
それは余りにもつっけんどんな言われようで、歯に衣着せぬ物言いに、ぐうっと唸って
「あ……いや……そんな酷かったですか?これでも体術には自信があったのですけれど。」
ははっと
「御冗談がお上手で。」
「冗談ではないんですが……。」
下げていた肩を一層に落として、悲しそうに
言ったことが面白いというよりは、
「そうですね。体術と言いますか、身のこなし等は別に置いておくとしても、
「いや、そんな覚悟そうそうできませんって……。」
「そうですか?そうですか。まあ、覚悟せずに死ぬのも
「あの……私としてはなるべく死なないように努力する方向でお願いしたいのですが……。」
「善処いたしましょう。」
空を眺めながら
「いい加減、
「見上げたら、急に空から人が降ってくるとかありませんよね?」
軽い冗談のつもりであったが、存外に
「さて、どうでしょうか……。隠密にはそう言う道具でもあるのですか?」
「聞いたことはないですね。」
言いながら
死ぬことを考えるのは
死んだ後どうなるのか、そのことを考えると
ただ、
「
軽く声を掛けると
「はて?なんでしょうか?」
「えっと……そうですね、
「そんなことが気になりますか?」
「まあ、多少は。」
気分を変えるつもりで口にしていたが、気になっていたことと言えば気になっていたことであった。
厄介事の好きそうな性分も含めて、この
少なくとも通り一遍の退屈な人生ではなかろうという気がした。
「そうですねえ。」
一つ頭を掻いて、どう言ったものかと思案するように
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