13.秘密五

 脱衣場から浴室へと足を運んでみると、部屋の隅には四角く枠を区切ったような巨大な湯船があった。高さは丁度人の膝ほど、横は五、六人は悠に入れる幅があって、その中に少し濁っているが、湯がなみなみと張られていた。


 手桶で浴槽の中の湯を掬うと、ふでは自分の体へと流しかける。


 周囲にむわりと大きな湯気が立ち上った。

 温かいお湯特有の、湿気った柔い匂いが漂ってくる。


「良いお湯ですよ。ほら桔梗ききょうさんもどうぞ。」

「あ、はい。……でも、私は先に服を洗いますので。」


 桔梗ききょうも手桶で湯を掬うと、その中へ脱いだ服を入れた。

 ふでが体を洗っていく横で、桔梗ききょうは服の小水で濡らしてしまった所を擦って洗った。


 こう小水に濡れた所を洗っていると、子供の時以来で、改めて粗相をしてしまったことが恥ずかしく情けなくなってしまう。


 特に股間の部分の、思い切りに濡れてしまった所をしっかり洗おうと力を籠めようとする。

 不意に、するりとお腹に何かが触れた感覚に襲われる。


「ひぅっ!?」

 ぎょっとして桔梗ききょうが体へと視線を向けると、お腹に自分のではない腕が触れていることに気が付く。

 それは体の後ろから伸びて、お腹のおへそ辺りに掌を触れさせていた。


 慌てて桔梗ききょうが顔を振り向けると、そこにはふでが迫ってきていた。

 蠱惑的な笑みを浮かべたふでが、背筋に弧を描かせて上半身だけ桔梗ききょうの体躯へと身を寄せる。そうしてふでは胸の膨らみをゆっくりと桔梗ききょうの背中へと押し付けた。


 柔くぬるりとした気持ちの良い感触が肌へと触れて、桔梗ききょうは思わず喉を鳴らしてしまう。


「ふ、筆殿ふでどの?一体何を……。」

 慌てる桔梗ききょうに対して、ふでは落ち着いた様子で口を開き、体を擦らせる。


「いえ、なに。私は体を洗い終えてしまいました故に、ついでですから、貴女あなた様の体を洗って差し上げようかと考えましてねえ。」


「け、結構です!」

 慌てて桔梗ききょうは首を振るが、そんなこともふでは全く気にも止めず、触れさせていた掌でお腹の肌をするりと撫でた。


「ひゃうっ!?」

 お腹を触られたのにも関わらず、背筋の方に、ぞくぞくっとした快感が走ってくるのを感じ、困惑して桔梗ききょうは奇妙な声を上げてしまっていた。


「そう、無下になさらないでくださいまし……。」

 耳元に口寄せると、緩く甘い調子でふでは囁いた。


 有無を言わさずにふでは右手に持っていた米糠こめぬかの袋を桔梗ききょうの肌へと当てると緩く擦っていく。

 白く濁った液体をにじませながら米糠の袋は桔梗ききょうの肌を滑らかに伝う。


 米糠を水に浸らせると、微かながらに肌を溶かす性質があり、服を洗ったり体を洗うことに使われてきた。肌を溶かすなどと言うことを知っている人間は殆どいなかったが、経験則的に使えば垢や汚れを良く落とせることを知っており、風呂屋では米糠が常備されている所が多かった。


 ふでは白濁液の伝った後を指先で撫でつける。

 ぞわぞわっとした快感が走って、桔梗ききょうは思わず背筋を逸らしてしまう。


「あぅ……、あの……結構ですから。」

 首を振るって桔梗ききょうは提案を拒否するが、当のふではその言葉を全く聞かずに、触れさせていた腕を肌に滑らせる。


「ひぅっ……。」

 喉の奥から桔梗ききょうが微かな声を漏らしてしまう。


「そう、仰らずに洗われてくださいな。」

 緩く甘い声を響かせてふでは微笑む。

 有無を言わさぬ手つきで、ふでの右手は米糠の袋を桔梗ききょうの肌へと滑らかに擦らせていく。


 へその窪みの上を米糠の袋が擦り、そうしてふでの細長い指が撫ぜる。

 するすると、厭らしくもたおやかに撫でられていく感触が肌を走っていって、思わず桔梗ききょうは目を瞑ってしまう。


「~~~っ……。」

 肌が震え喉が妙な声を上げた。


 意外なことに、桔梗ききょうにとって、彼女に触られて嫌だという気持ちは、あまりしなかった。

 むしろ妙に肌を走る快感に、桔梗ききょうは困惑してしまっていた。


 米糠の滑らかな袋が胸元を伝い、膨らみに合わせて肌をなぞっていく。

 続いてふでの掌が双丘の下端から触れると、ついっと指先で持ち上げるように曲線を撫でていった。

 指先が柔く乳房の肉が埋まり、中の乳腺を刺激して上へ上へと伝っていく。


 不意につっと、ふでは僅かに固い部分へと触れたのを感じた。


 乳房の先端の突起であった。


 白い肌の中で、唯一桜色をして浮いたように見えるその突起は、ふでが触れるだけで、むずむずと幼けなく大きくなっていく。



「あ、だめですっ……。」

「何がですか?」


 ふでは指を開いて乳房の下から掬うようにして掌を沿わせると、撫でるように、絞る様に、ゆっくりと膨らみの先端へと向かって撫でていく。

 乳房の一番先端まで伝うと、人差し指と親指の先で、くっと、その突起を摘まむ。

 まるで柔肉の中から押し出されたようにして、桜色の突起が一層に膨らんだ。


「ふぁう……そんな……。」

 びくんと桔梗ききょうの足先が跳ねそうになった。


 喉の奥には、とろりと粘り気のある唾液が溢れてきて、僅かばかり甘味すらも感じる気がしてしまう。

 体全体が切なく震えて何度も桔梗ききょうは首を振るう。


「大げさに反応なさって、体を洗っているだけですよ。」

「そんなぁ……これが?」

 喉の奥から嬌かしい声を漏らして、桔梗ききょうは僅かに目端に涙をためていた。


「ええ。ほら体の力を抜いてください。」

 言いながらふでの掌は、桔梗ききょうの体全体を撫でていった。


 胸元から肩筋、首元、細い鎖骨を通って肩へと至ると、そのまま腕をすうっと撫でて指先まで至った。

 そうして愛おしそうに桔梗ききょうの指へと、ふでは指先を絡めていく。


「指の間も洗いませんとね。」

 掌を手の甲へと重ね合わせると、指先を桔梗ききょうの指の間へと挟みこませ、ぎゅっと握る。


 桔梗ききょうは掌に伝わる温かさに何故だかほうっと体が緩まっていくのを感じて、思わず背中へと触れるふでの胸元へと体を寄りかからせてしまう。


「ああ……これは、心地好いです……。」

「そうですか?そうですごうざいます……。ではこの片手はずっと握っておきましょう。」


 左手を握ったままにすると、右手はするりと指の狭間から抜けていく。

 僅かに名残惜しくて桔梗ききょうは「あっ……」と小さな声を漏らした。


 指の狭間から抜けたふでの指先は米糠の袋を握り、再び桔梗ききょうのお腹へと触れると、そのまま下腹部へと伝っていく。


 鼠蹊部を伝って足の内側へと触れた。


「あ、そこは……。」

 咄嗟に桔梗ききょうの右手が股間へと伸びた。


 足の内側へと触れさせないようにと意図していたが、その前にふでの指先が桔梗ききょうの股間の肌へと触れていた。


 ついっと、その表面を撫ぜて、ふでは僅かに首を傾げた。

 そこにあるはずの感触がないことに、思わず指先の動きを止めて驚いていた。


「おや。貴女あなた様は毛がありませんね。剃っておられるのですか?」


 彼女の言う通り、桔梗ききょうの陰部には毛がなかった。

 産毛と呼べる細く小さな毛は勿論生えていたが、普通の大人ならば誰もが生えている陰毛がそこには無かった。


 耳の先まで一瞬で顔を赤くして、桔梗ききょうは顔を俯かせた。



「ま……まだ生えておらぬだけです。」

 言い訳するように言った桔梗ききょうの言葉に、ふではおかしそうにして僅かに笑う。



「ここまで体が育ってて生えておらぬのですから、もう生えませぬでしょう。そうですか。そうですか。生えておらぬのですか。」



「あう……もう勘弁してくださいまし……。」

 恥ずかしさで顔から火を噴きだしそうな思いで桔梗ききょうは首を振るった。


 多少ふでは名残惜しく感じながらも、さすがにこれ以上はできないだろうと、すっと股間から手を離した。



「そうですか、失礼いたしました。」

「え……。」


 本当に止められるとは思って居なかったのか、桔梗ききょうは僅かに戸惑った顔をする。



桔梗ききょうさん、手を出してください。」


 言われるがままに桔梗ききょうが手を出すと、その掌の上に、ふでは手に持っていた米糠の袋を乗せた。



「これは、あの……?」


「では、湯船で待っておりますので。早く体を洗ってきてください。」


 すっとふでは体を離すと、手桶に汲んでおいたお湯を流しかける。


 そうして、本当にふでは湯船へと向かって行ってしまった。


 少しほっとしてしまいながらも、桔梗ききょうはどこか火照り体の奥深くに残って、疼く感じがしてしまう。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る