親の顔が見てみたい

蛙鳴未明

親の顔が見てみたい

 路上、背後からぶつかられてよろめいた。


「おい危ないだろ!」


 怒声を上げて振り返ると、ハッとした顔の若者が頭を下げた。


「すいません」


 いかにも最近の若者らしい適当な謝罪だ。むくむくと怒りが頭をもたげる。


「すいませんじゃないよすいませんじゃあ!なんだその気持ちの入ってない謝罪は!」


「え、えと……あの……」


 若者は目を泳がせてしどろもどろ。いい気味だ。


「ほら申し訳ございませんでしたって頭下げて謝んだよ!常識だろう?そんなこともできないのか!」


 若者は身をすくめて辺りを見回した。ひそひそ声が聞こえる。皆口々になんて非常識な若者だと言っているのだろう。悦に入って若者を見下ろす。彼はちらりと私の顔を見て、深く頭を下げた。


「申し訳ございませんでした……」


「最初っからそうしてりゃあ良いんだよ。……ったく最近の若者は……親の顔が見てみたいわ」


 寛大に若者を許してやると、私は彼に背を向けて歩き出す。ああ良い気分だ。いい事をした。




 中年男がその場を去ってしばらくした後、若者はようやっと頭を上げた。溜息をつき、ぶるりと首を振る。そうして物陰へと歩いていく。そこには一人の女性が立っていて、悲しそうな目で若者を見あげた。若者は再び首を振る。


「あんな奴が父さんだったなんて……失望だよ。……そもそもあいつがぼーっと歩いてたのが悪いんだ。こっち悪くないのに謝ってやったんだからすぐ許してくれたっていいじゃんかよ!なんなんだよあいつあーむかつく!」



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