ぼくはクジラに乗って旅に出た
rurinoi
第1話
ある日、ぼくはクジラに乗って旅に出た。
それは予定外のことだったけれど、でもミーファの背中に乗ったら最初の迷いも不安もすぐになくなって、ぼくはまるで本で見た海の冒険者になったような、とっても勇敢な気分になっていた。
クジラはみんな大きいけれどミーファはその中でもとりわけ大きなクジラで、だから海に暮らす生き物たちの間で彼女は海の女王と呼ばれているんだって。
海の女王は南の海に行く途中だった。その暖かい海で彼女は子供を育てるって言った。彼女のお腹には子供がいた。もうすぐお母さんになるのと言ったその顔は本当に嬉しそうで、ぼくまで何だか嬉しくなってしまった。
ぼくはその日、一人で舟に乗っていた。すぐに返すつもりで内緒で借りた、おじいちゃんの、小さな小さな舟。
そんなぼくを見つけて、ミーファは声をかけてくれた。もし、海を旅したいのなら私の背中にお乗りなさい。あなたみたいな子どもの一人旅は危ないわ。それに、私も一緒に旅をする人がいると楽しいし、きっとこの子もそう思っているわって自分のお腹を見て。それでぼくたちは一緒に旅をすることになったんだ。
海の女王との旅は彼女が言ったように本当に楽しくって忘れられない思い出になった。だって、途中で予定よりも早く彼女に赤ちゃんが生まれたから。小さな海の王女の誕生だ。名前は、マーファになった。
南の海に着くまでの間、ぼくたちはいろんな話をした。けれど海にはもっと多くの生き物や渡り鳥がいて、彼らはぼくたちのところに来てはたくさんの話を聞かせてくれた。そればかりか、ぼくが何も持っていないと知ると渡り鳥たちは一旦離れていって、そしてどこからともなく木の実などを運んできてくれた。
海の仲間たちはぼくたちと別れる時がくると必ずミーファに─海の女王に─礼儀正しくお別れの挨拶をしてぼくたちの旅の幸運を祈ってくれた。ぼくたちも彼らの旅の幸運を願ってその後ろ姿を見送った。
だけど楽しい時間はあっという間で、ぼくたちは出会ってから何日も一緒に旅をしていたのに、いざ南の海に着くとまるで二、三日でそこに来てしまったような、そんな気がした。
ぼくはミーファたちともっと一緒にいたいと思ったけれど、それ以上そこにいられないことも判っていた。彼女たちはぼくを、ぼくが泳いで陸地にたどり着けるくらいのところまで送ってくれて、そこで別れた。別れ際、ぼくはまた会えるかなって何気なく尋ねてしまったけれど、ミーファは寂しげな笑顔を見せてそれは誰にも判らないと言った。
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