目が覚めたらすべての人間が美少女に見える病気になっていた件
浅見朝志
第1話 お医者さんが『めちゃかわ』なロリっ娘だった
「急性美少女誤認病ですね、レベル3です」
目の前の白衣を着た美幼女は、その裾に埋もれる両手でカルテを持ちながらそう言った。あぁ、可愛い。
「何をジロジロと見て……って、そりゃそうですよね。今あなたには私がどのように見えていますか?」
「お医者さんコスプレをした可愛いロリっ娘に見えてます……!」
僕がそう言うと、その白衣のロリっ娘は疲れたように目元を押さえた。
「そうですか、やはりレベル4の末期症状に近いですね。ちなみに実際の私は男で今年で50歳、それにメタボでハゲてます。あなたが認識している私は、あなたが『そのようにあってほしい』と妄想した結果が投影された偽物に過ぎません」
「そ、そんな……! ばかな……!」
「『ばかな……!』じゃありませんよ。普通に考えて大学病院の診察室で幼い少女が患者を診るわけないじゃありませんか」
「いや、お医者さんごっこか何かかと」
「あなたが地元の精神外科から紹介状を貰ってまでやってきた先でお医者さんごっこするわけないでしょう!」
「そ、そうですよね……」
白衣のロリっ娘に叱られて、僕は少し首を竦めた。
ロリっ娘はひとつため息を吐くと、「いいですか?」と念を押すように言う。
「この病気はこの世界の全ての人々が美少女に見えてしまうという症状が出るものです。相手の性別に関わらず、あなたがその目に映る人間は全て『美少女』となってしまいます」
「い、いやいや……まさか、冗談でしょう? 僕、そんな病気は聞いたことないですよ……?」
「昨年に学会で発表されたばかりの日本特有の新種の精神病なので、当然ですね。先進国きってのストレス社会と萌え文化が原因だと結論付けられています」
「な、なんてことだ! 原因に心当たりが多過ぎる!」
「先ほどのあなたの問診票を見ても……月平均の残業200時間、1日平均の美少女コンテンツ摂取量5時間、と確かにこの病気を誘発する条件は揃っていますね」
がっくりと落ちた僕の肩に、ロリっ娘が手を置いた。
僕のことを見上げるその眼差しは優しげだ。
「そう気を落とさないでください。これから一緒にがんばって、病気を克服していきましょう」
「……ありがとうございます、ロリ先生」
「誰がロリ先生だ。私は渡辺です」
「ありがとうございます、渡辺先生。でも……考えてみればちょっといいですよね、こういうのも」
「いい? 何がいいんですか?」
「ホラ、こう、何というか……ロリっ娘にお説教されたり、慰めたりしてもらっていると思うと実に尊いというかなんというか……ハァハァ……」
「…………」
ロリ先生がドン引きしたように、しかめた顔で僕を見る。軽蔑の表情だ。しかしロリっ娘にされているとそれもまた尊い。
ロリ先生が疲れたように眉間を指で摘まんだ。
「……はぁ。こりゃダメだな。あのね、お薬は出しておきますから、朝昼晩と欠かさずに飲んでくださいね。わかりました? わかりましたね? 経過を診るので1週間後にまた来てください。お薬は窓口で渡しますんで1階ロビーで待っていてください。はい、それじゃあお大事に」
ロリ先生は一方的にそうまくし立ててカルテに走り書きをすると、手の甲をこちらに向けてシッシ! と僕を追いやった。
その仕草もまた愛おしく感じてしまうあたり、確かに僕は末期なのかもしれないと思った。
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