永遠無双 2
「はい!」
龍子が呼子笛を鳴らすと、すぐに応答があった。
「応答ありましたね。三番隊の増援はかないそうで助かります。では進みましょう」
一同は進み始めたが、どの廊下、階段も死体の山と争いばかりで切りがない状況だった。永遠は途中から投げ矢を節約するため、縄鏢を使い始めた。縄の両端にナイフのついた武器だ。短く持ち、手元で回し、そのまま相手に投げつけたり、足で蹴飛ばして相手に向かって飛ばす。
龍子と三番隊が先に飛び出して攻撃を仕掛けると、永遠は後方で縄鏢を回し出す。相手がこちらに気づいて攻撃しようとしたタイミングで後ろからナイフを飛ばす。縄鏢と龍子と三番隊の攻撃を受けることになった相手は、まず縄鏢を避けようとして隙を見せ、そこを龍子と三番隊が倒していった。
「実用性のない演舞用の武器と思っていましたが、意外と使えますね」
永遠は余裕の表情で笑った。
しかし、それもすぐに沈鬱な顔に変わった。
「これは切りがないですね。増援はまだでしょうか?」
永遠に言われて、龍子は再び笛を鳴らした。すぐに返事があった。
「また騒動が起きており、思うように進めないとのことです」
「もう一度、二番隊を呼んでみましょうか?」
「いえ、騒動で道が通れないなら同じことでしょう。ここは退くしかありません。それにまた騒動が起きているのも気になります」
永遠はそう言うと、戻る道を確認するよう指示する。三番隊数名が走ってゆき、すぐに戻ってきた。
「さきほどよりも死体が増えています。一階とそこにつながる階段が死体で埋まって足の踏み場がりません」
「かまわない。死体を踏んでゆけ。だが、十分注意せよ。死んだふりをして襲ってくる者がいるやもしれん」
そう言うと永遠は先に立って走り出した。龍子たちも後を追う。二階まではさきほどと変わりなかったが、一階への階段から死体が落ち重なっていた。
永遠は走り寄ると無造作に両手を振った。縄鏢が数体の死体を切り裂くと、死体だったはずのものが立ち上がった。それが合図だったかのように十数名の死体が立ち上がり、永遠に向かって押し寄せた。永遠はいったん引き、代わりに三番隊と龍子が死体に斬りかかる。
だが、いくら倒しても次々と一階から上がって来る。このままでは埒があかない。永遠は懐をまさぐって次の攻撃の準備をする。その時、深追いした隊員が足をつかまれて階段から突き落とされた。悲鳴が上がると龍子が走り出した。
「おのれ! 狂人どもめ」
龍子が隊員を助けるために階段に突っ込んだ。続けざまに蹴りを繰り出し、瞬く間に隊員を抑えていた者を弾き飛ばす。階段に倒れていた隊員を抱き上げて、二階に戻ろうとしたところで新手の敵に脚をつかまれた。
「これはいけません」
永遠は投げ矢で敵を攻撃したが、その間にもさらに何人もが龍子の身体につかみかかる。たちまち龍子は人に覆われて動けなくなる。永遠はため息をついた。
「誰か爆薬を持っている者はいますか?」
全員が首を横に振る。
「では、最後の手段です」
「なにをなさるんですか?」
「毒霞を使います。私は完全ではありませんが、いささか耐性がありますが、耐性のないみなさんは吸えば死にます。ここから地下通路まで息をしないでいられる自信のある者は一緒に来ていただいても結構です。自信のない方は窓から外に出ることを試みるか、どこかに隠れて助けを待ってください」
永遠はそう言うと六個の金属製の缶を取り出し、両手で持った。
「行きます! ここにいても死を待つだけです」
「わかりました。私がこうやって指を立てたら息を止めるのです。そして地下への入り口に入って扉を閉めるまで息をしてはなりません」
そう言うと永遠は金属製の缶を数個階下に放る。落ちた缶から紫色の煙が立ち上る。その煙を吸った者が床に倒れて、もがき苦しみだした。やがて階下が紫煙に包まれると永遠は人差し指を立てた。全員が息を止めたのを確認して、永遠は走り出した。
全員が永遠の後を追う。紫煙が濃いため、前が見えにくい上、目にしみて涙が止まらない。とにかく地下への入り口を目指して走る。本の罠にかかった者たちの中にはまだ動ける者もいて襲いかかってくる。息をせずに攻撃を避けて逃げるのは至難の技だ。永遠は地下への入り口にたどり着くまで何度か団員のものらしい悲鳴を耳にした。だが、振り返る余裕はない。
地下への扉にたどりつき、振り返ると五名が着いてきているのが見えた。十数名いたのに、残ったのはたったこれだけか。永遠は扉を開くと団員たちを入れる。唇に指を当て、まだ息をするなと伝える。五名全員が入った後もしばらく永遠は紫煙の向こうを見ていたが、なにも動くものはなかった。
永遠は地下への階段へ入ると扉を閉める。それから指を下に向けると、階段を少し駆け下りて、そこで始めて息をついた。
他の者も同じように少し降りて息を吸う。全員が涙でぼろぼろの顔をしていた。
「事態は想像以上に悪いようだ」
永遠は階段を降りながらつぶやく。五人はなにも言わない。おそらく絶望的な気持ちになっているか、予想外の出来事に頭が追いついていないかのどちらかだろう。
「ゲヒルンに入ると逃げ場がなくなります」
誰かがつぶやいた。
「ゲヒルンから外に電話してなにが起きているか情報を集め、可能ならば助けを呼びます。本屋がこれほどあからさまに事を仕掛けてくるということは、外ではもっと大変なことが起きているのでしょう」
永遠の言葉に全員が黙った。内務省が全滅する以上の大変なことなど想像できない。
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