空洞人形

 人形の、空っぽなところが好きだ。

 友達の人形はどうやら空っぽではないらしかった。友達の人形は友達の脳を介して会話をしているのだという。その会話を会うたびに私に話してくれる。

 メリーちゃんがレイくんが好きだからデートに誘ったんだけど、レイくんってば断っちゃったの。

 ナナちゃんとメイナちゃんはこの間喧嘩しちゃったみたいなんだけど仲直りしたんだ。

 私は人形の空っぽなところが好きだが、友人は空っぽではない人形のことを楽しそうに話してくれていた。

 家に帰った。空っぽの人形は変わらず空っぽのままそこにいた。私は人形の間に膝を抱えて座る。空っぽと空っぽの間に空っぽの私。

 人形の空っぽなところが好きなのは、私が空っぽだからだ。空っぽの私にとって空っぽではない人々と話すのは苦痛でしかなかった。空っぽではない人々は日々の幸福を中身の詰まった言葉で紡ぐ。何一つとしてそれらの言葉が理解できない。

 でも人形は。人形は空っぽだ。ただ空っぽのままあるがまま、そこにいる。中身の詰まった言葉も紡がない。それがただ心地良い。

 その時、ねえ。と声がした。ここには空っぽしかいないののどうして。私は辺りを見渡した。ここだよ。と声。私は隣を見た。人形の一つがガラスの目でじっと私を見ていた。

 驚かせてごめんね。どうして喋るのかって顔してるね。私は君がいつも大切にしてくれているから、喋れるようになったんだ。

 床に叩きつけた。私は人形を床に叩きつけた。粘土でできている人形はあっけなく壊れた。どうしてなんだよ、どうして空っぽではない人間みたいに喋るんだ。ずっと空っぽだと信じて疑わなかった私は裏切られた気分だった。

 次の日、全部の人形をゴミに出した。帰るとほとんど何もない部屋で泣いた。

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とある女子高生の自殺とタピオカ 薄氷 氷菓 @emptyword

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