とある女子高生の自殺とタピオカ
薄氷 氷菓
意味なんてないよ
高校生の不読率は五割以上だそうだ。
どうして本を読まずにいられるのか不思議でしょうがないが、彼らからしたら本を読まないと死んでしまう私の方が宇宙人なのかもしれない。私は酸素と文字を吸いながら今日も生きている。
教室の隅で本を読んでいる私と、真ん中できらきら笑っている可愛い女の子。人間っていうカテゴリーはおんなじなのに、まるで違う。可愛い、不細工、明るい、暗い、真面目、不真面目、リア充、オタク。誰が決めたわけでもないのに、気づいたら私達はカテゴライズされて、何の疑問もなく小さな水槽の中で泳いでいる。
スマホを取り出してネット小説のページを開く。異世界転生、ラブコメ、ミステリーエトセトラエトセトラ。カテゴライズされた文字の宇宙を掻き分ける。星屑みたいに無数にある小説。ふと私が書いた小説を開いた。ジャンル:その他。分類分けは苦手だ。ジャンルという枠で区切られてしまうのがこの教室みたいで嫌。
閲覧数:5。全部私だ。私の綴った物語はネットの宇宙に埋もれて誰の目にも触れない。5という数字がお前の存在に意味なんてないよと嘲笑っているみたいで、ただただ虚しい。中傷されていたりした方がまだマシ。何くそって腹立たしくなってもっと書こうと思えるかもしれないし。
モニタに並ぶ文字達。前はあんなに輝いてたのにね。今はゴミクズにしか見えない。きっと教室の片隅に捨てられてても気づかない。私はえいっと削除した。誰にも知られずに私の小説は広い宇宙からひっそりと消えた。ちょっと勿体無いかなって思ったけど、別にいいや。誰も読まないならあってもなくても同じことだ。
教室を出る。帰宅部の私はそのまま家に帰る。そうだ、駅前のクレープ屋さん寄って帰ろう。苺と生クリームがたっぷり入ったクレープを食べよう。
一個380円。この量でこの値段は安い。クレープ屋さんのおじさんからクレープを受け取ってベンチで食べる。苺と生クリームは相変わらず甘くて美味しいのに、何だか妙に心のあたりに風が吹く。穴でも空いてるみたい。心なんて物体として存在してないのに、風が吹いたり穴が空いたり痛むのって変だね。
「あ、まーちゃん」
ん、と顔を上げた。あ、みーちゃん。
「久しぶりだね、まーちゃん」
そうだね。いつ以来かな? 一年ぶりくらい?
「多分それくらい。懐かしいね。まーちゃんに会えたし、部活ないっていうのも悪くないかも」
今日部活お休みなの?
「うん。あ、ねえ、小説は最近どう? 中学ん時色々見せてくれたよね」
あー、消したよ。
「え?」
だってなんかもう意味ないし。書くのもやめる。
「あんなに好きだったのに、あっさりしてるね」
そんなもんだよ。
「そんなもんかな?」
うん。別に書かなくたって死にやしないし。今日もクレープは美味しいし。穴でも空いていたとしても、クレープが埋めてくれるよきっと。
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