Attribute of Liberty(修)

コノハ椿

プロローグ Longing

 自由になりたい。

 そう思い始めたのは、いつのことだったか、もう思い出せない。でも、自由へ疑問をいだいた時の記憶と、《自由の象徴》を見つけた時の記憶は、確かに今もわたしの中に存在している。特に《自由の象徴》を見つけた時の記憶は、この旅を終えるまで……いや、この旅を終えた後も、絶対に忘れないだろう。





 自由って、どういうことなんだろう? 私が自由に対して持つ、一番の疑問だった。

 自由になるためには、自由について知らなくてはいけなかった。私はすぐに、自分の国語辞書で自由という言葉の意味を調べた。そして、知った。自由とは、「他のものから束縛・支配を受けないで、自己自身の本性に従うこと」を言うのだと。

 その時は……なんだか壮大だとは感じられて、壮大だからこそよく分からなかった。

 よく分からないことは、二つあった。

 一つ目。「他のもの」は具体的に何のことを言うのか? 物体? 人間? もしかして世界や宇宙も? もしそうだとしたら自由になるだなんて無理だ。

 二つ目。「自己自身の本性」とは何なのか? 自己自身の本性、つまり私の本性。私の本性って、実は性格が悪いとか? 実は性格が悪いという私の本性に従えば、私の大切な人達を傷付けてしまうだろうから、私の本性に従うのはあまりしたくない。……待て。そもそも私が「これが私の本性だ」と信じているものは、実は私の本性じゃない可能性もあるのでは? じゃあどうすれば私の本性が分かる? どこかに行けば「こちらがあなたの本性です」って証明書が発行されたりするの? ある訳が無い、そんなの。自分でも自分の本性が分からないなら、従うべき対象が無くなってしまう。

 暫く考えた結果、導き出されたのは「自由について考えるのはもう止めよう」という結論だった。



 国語辞書で自由の意味を調べてから、数日後。考えるのを止めた私に再び自由について考えさせたのは、とある子供向けのアニメだった。『英雄少女ペルセウス』。日曜日の朝に放送している、当時まだ十二歳の私と同じくらいの歳の女の子たちが変身して敵と戦うアニメだ。

 私はピアノのお稽古が終わった後、次のお稽古の時間まで暇だったため自室にあるテレビを点けた。すると、偶然にもそのアニメが放送されていたのだ。こういうアニメを見るのは初めてだったのでどんなお話なのか気になって、私はそのアニメを見てみようと思った。

 丁度戦闘が始まるらしく、女の子たちは片手に収まるくらいの小さな道具を使い、様々な姿に変身していく。それぞれ変身と名乗りを終え、最後に、変身した女の子たちは横一列に並んで決めポーズ。女の子は四人で全員。女の子たちは横一列に並んだまま、翼を広げて高く浮かんでいる、敵であろうちょっと化粧が濃いキャラを見上げた。

「そこまでだー!!!」

 赤色の衣装を着たリーダーっぽい女の子、ペルセウスが大きな声で言った。

「またお前たちか」

 敵はもう慣れているのか動じずに、静かに女の子たちを睨む。敵の近くには、正直少し気持ち悪い見た目の巨大な姿があった。多分、敵の仲間だ。

「またお前たちだよ~えへへ~」

「えと、その……こ、こんにちはっ」

「なんでみんな、友達みたいに挨拶してるんだい……?」

 黄色の衣装を着た女の子、ヘラクレス。緑色の衣装を着た女の子、イアソン。水色の衣装を着た女の子、テセウス。と、順番に話し始める。とても和やかな雰囲気で、本当にこれからこの女の子たちと敵が戦うのかと疑いそうになる。

「とにかーくっ! 悪さをするのは、わたしたちが許さない! 覚悟しなさい!」

 ペルセウスは強い口調で言い放つ。

「ふん。いいだろう。さあ、バルーンエビルよ! あの邪魔な小娘どもを倒せ!!!」

 バルーンエビルと呼ばれた巨大な姿の敵が女の子たちに向かって突進してくる。女の子たちは一転して真剣な瞳でバルーンエビルを見つめ、臨戦態勢をとる。先程までの和やかな雰囲気は、もう失われていた。

 戦いは、最初は敵が優勢だったが、女の子たちは強力な新技を出して一気に敵を追い込んだ。予想外の展開に、敵も狼狽える。

「クソッ……余裕でられるのもそこまでだ! 立てバルーンエビル!」

 バルーンエビルが慌てて立ち上がる。そうだ。まだ戦いは終わっていない。

「敵さんはまだやれるみたいだね……よーし、みんな! 気を取り直していくよ!」

「は~い。頑張るよお~」

「わ、わたしも、頑張ってみんなを援護するね……!」

「敵がその気なら、本気を出さないとだね」

 女の子たちはバルーンエビルに走って近付き、それぞれの持つ武器でバルーンエビルを攻撃していく。大剣で、弓で、魔法で、拳と脚で。もう戦いには慣れているのか、上手く連携攻撃をして着実にバルーンエビルにダメージを与える女の子たち。時にはバルーンエビルからの攻撃に顔を歪めながらも、すぐに顔を上げて、再びバルーンエビルへと果敢に挑んでいく。

 私とあまり歳の変わらない中学生くらいの女の子たちが、普通の人ならば座り込んで怯えてしまうような大きな存在と戦っている。傷付き、苦しみ、それでもなお大きな存在に背を向ける事無く戦っている。

「かっこいい……」

 自分でも無意識に、そんな言葉を口にしていた。私は、あの四人の女の子たちを見て、初めて理解した。これが──自由ということなのだと。

 あの瞬間から、『英雄少女ペルセウス』の四人の女の子たちは、私の《自由の象徴》となった。



(プロローグ完)

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