第52話 引きこもり

 本書のテーマからは、幾分飛躍したところにある問題であるかもしれない。

 しかし、この「引きこもり」という問題は、今や、青少年たちだけでなく、中高年者にも発生している。真鍋氏と私とともに、1998年に創刊した(現在は廃刊)高校中退通信というミニコミ誌を編集していた札幌市のNPO法人理事長・田中敦氏は、現在、この問題に精力的に取組んでおられる。

 以前は「引きこもり」というのは若者、それこそ不登校や高校中退者あたりで見られる事例の一つと思われていたが、現在では中高年の引きこもりも増えている。

 私がこれまで述べてきた問題の根は、すでに大人へも波及しているのである。


苦労を分かち合い希望を見出すひきこもり支援

~ ひきこもり経験値を活かすピア・サポート

田中 敦 著 学苑社 2014年5月刊行


生き抜く力を見直そう


 昨今より問題となっている「ひきこもり」。

 それは10代か20代の若者の、それも学生のことだろうなどと思っていたら大きな間違いである。

 きょうび、40代、50代という中高年の「ひきこもり」もいるという。

 「ひきこもり」になる理由としては、個々それぞれの事情もあるから、一概なことは言えない。しかしながら、そうなる可能性は、実際には老若男女を問わず誰もが持っている。そのことを、本書を読み進めていくうちに痛感させられてならない。


 さて、本書は支援をする立場の学者が執筆したものである。一般的な傾向ではあるが、学者の執筆した本というのは、どんなテーマであれ、もとが学術論文だったような文章によく見られがちな傾向だが、読みにくい文章が存外多い。

 ところが本書はどうであろう。非常に読みやすく、すいすいと読める。しかも、「ひきこもり」の当事者の手記もほどよく掲載されている。そうであるがゆえに本書は、どんな読者に対してもおおむねすいすいと読める平易な文章でありながらも、「ひきこもり」という状況の実像を過不足なく世の人々に示しえているのだ。


 「ひきこもり」になっている本人やその親族、あるいはその支援をしている人たちだけでなく、もっと広く読まれるべき本ではないだろうか。本書は、「ひきこもり」という状況を通じて、単に生きる力ではなく、生きぬくための力を引き出す力を持ちえている。


 2014年7月6日記事

 

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