第6話 本当に、必要なものは何か?



 定時制高校に通うのは、「時間の無駄」だと、当時の私は思っていた。

 そんなことに時間を割くヒマがあれば、自分で勉強した方が正味だ、と。


 それは確かに、そうだったろう。もっとも当時、定時制高校にいるからといって仕事をしていたわけではない。一時期、足掛け2か月ほどローソンでアルバイトをした(1日4時間程度)ことはあったが、まあ、その程度だ。

 後に私の異父妹がパートに出るにあたり、アドバイスできるきっかけとなったから、これもまた、無駄ではなかった。

 私はなんと、自分が働くわけでもないのにコンビニの面接に30年ぶりに行く羽目となったが、当時とは状況はかなり変わっていた。


 当時の烏城高校は、修業年限が4年。

 学校生活を大事にして云々というなら、大検など受検せず、ここで「みっちり」勉強すれば、といっていた人もいた。そういう人間に限って、「友達ができたか」とか何とか、どうでもいいことを聞いてくる。幼稚園児や小学校の低学年じゃないんだぞ、と思っていたが、それも、適当にやり過ごした。

 残念ながら、当時の定時制高校の授業だけで大学に、それも国立大学に合格できるような学力は身に着けられようがなかった。

 模試を課されるわけでもなければ、補習があるわけでもない。


 そんなところで、「みっちり勉強」?

 片腹痛いわ、この「トーシロ」が・・・。


 私は高校受験に落ちて以降、人間がかなり変わったように思う。

 それまではわりに人のことを素直に聞く方だったが、これ以降、幼少期から潜在的に持っていたであろう「人間不信」が大きく頭をもたげてきた。

 確かに私の周りには、「ヒト」はいたが、私にとって必要な「人間」は、当時ほとんどいなかったと言ってもいい。私自身は精神的にも社会的にも「孤独」を強いられたが、そこで私は、格段に精神的・社会的強さを身につけられたと言えばそうだが、じゃあ、これが必要なものだったのかと言えば、はいそうです、などと軽々しく答えられるようなものでは、決してない。

 周囲の「ヒト」は、私に「ためを思って」接していたつもりだろうが、その内容自体がないようでは、話を聞こうという気も起きない。そんな人たちの中には、少年期からずっとお世話になっていた人たちもいた。

 

 養護施設の子どもたちに限った制度ではないが、「短期里親制度」というものがある。具体的には、数日間、その人の家に泊まらせて、「里親」的なことをすることで、「家庭」を子どもに体験させようという制度である。1度限りで終わることもあるが、何年にもわたり、何度と継続するケースもある。私の場合はまさに、かなりの長期にわたって継続した。そこまでいけば、かなりの大成功例というべきケースであろう。この制度をもとに、小3の夏から10年間にわたってお世話になったわけだから。それも、同じ「家庭」に。

 ただ、その家の人たちの「大検」などに対する理解度は、皆無といってもいいほどだった。その割には、どうでもいいことばかりを言うわけだ。

 この3年間で、その家の人たちに対する単なる「反抗」という次元を通り越して、「不信感」のようなものも頭をもたげた。

 私の「孤独感」を増幅させこそすれ、癒すことなどなかった。

 もちろんその家の人たちには、大いに感謝している。

 長期にわたり、本当に、愛情をもって接してくださった。

 だが、それとこれとは、話が別だ。

 権限もないばかりか、いや、権限以前の問題で、無知を無知とも思わない、憶測さえもない中での「進路」の押しつけごかしの言動には、正直、辟易した。

 これは「短期里親制度」の成功例である反面、その限界も示しているといえよう。


 「愛があればお金なんかなくても・・・」という、恋愛ドラマの定番とでも言うべき言葉がある。「愛情が一番必要だ」だの、「ためを思って言っている」などという言葉も、それと同工異曲である。

 酒に酔うのは構わないが、酒も飲まずにそんな言葉に酔って子どもたちに接する大人にはなりたくないものだと、私はこのときほど思ったことはない。以後、そのような言葉を述べる人間は、それだけで信用しないことにしている。

 

 それはともあれ、高校を「降りる」ことを余儀なくされた者たちにもっとも必要なものは、「愛情」ではない。

 適切かつ正確な情報と、それをもとにした進路の組立て、そしてそれを実行していく上での必要なコーチングと、人とのつながりの確保である。

 その裏付けのない「愛情論」など、屁の突っ張りにもならない。それどころか、有害でさえある。そのことを身をもって知りえたことが、私の「高校」3年間で得た最大の財産かもしれない。

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