第19話プロは一流のみ。二流、三流のプロは存在しない。

―おおそうじターン


 俺様は帰宅してすぐいつものように例のベッドに体を放り出し、うそーんさんにDMを送る。

「なんじゃ?今日のわしはネームで忙しいんじゃ。それにしても例の『ドラフト』のことだろう?早速アドバイスのお願いか?」

 俺様はうそーんさんに今日の攻防戦を細かく伝えた。

「www。面白いのうw。大体わしの想像通りの展開じゃが『石ころ帽子』を『デスノート』で封じるのはなかなか思いつかんぞ。しょじょさんもなかなかじゃがアムロ行きます君はかなり手ごわいのう。で?君はすぐに『神龍』を思いついた?」

「いえ、正直考え込んで奇跡的に閃いた感じでした」

 俺様は悔しかったが正直に伝えた。

「えらい!正直でよろしいぞ!それでもその考えに辿り着いたこと自体すごいことじゃぞ。普通ならまあ思いつかんじゃろ。『ドラゴンボール』もどんどん進化しておるみたいだし、わしの知らない『三分前からやり直し』にも驚いたが他にも進化してるのは知ってるぞ。『スーパーサイヤ人』も今は4?5?どこまで進化しておるの?」

「今は『スーパーサイヤ人ブルー』や『スーパーサイヤ人ゴッド』とかたくさんあります」

「そうなの?でもわしの中ではやっぱり『神龍』って『ドラゴンボール』の原点であり、願い事が叶う、しかも神様クラスのことは出来ない設定がすごかったなあ。困った時の『神龍』は基本じゃろ。君が選んだ他の作品もそう。どうせ君は五部の『ゴールドエクスペリエンス・レクイエム』があれば負けないと思ってるだろ?」

「いや、他にもたくさん使える能力は山ほどあると思ってます」

「ここでヒントを言うとフェアじゃないからわしは言わないが『ジョジョ』の能力だけで『石ころ帽子』レベルなら何とか出来るってことじゃ」

 俺様は『ジョジョ』の大ファンで読み尽くしているし、それでも『石ころ帽子』を破る方法は分からない。そしてうそーんさんは見栄やはったりを言う人でもない。マジか!?

「それにしてもうそーん先生は僕以外にもDMでやり取りしてる相手はたくさんいるんですよね?」

「いるよ。漫画家を目指してる子や他にもいろいろ人生相談だったり、面白いこととかね。君、かなり面白い方じゃ。まあ、ネーム作ったりしてる時はあんまり付き合えないけど、今回の君は特別な方じゃよ。だって面白いもんw」

 うそーんさんの描く漫画は面白い。けれどそんなに売れてない。しかも下積みが長い。そんな人を相手にしてサシで会話して感じることが一つだけある。売れていなくても『プロ』の漫画家であり、『プロ』はとてもすごいということだ。DMのやり取りにしても言葉がポンポンとものすごい速さで返ってくる。仕事をしながら、呟きながら、DMも同時に。逆にこっちの方が考えを言葉に置き換えるのに時間がかかるぐらいだ。ネットで情報も探し出す速さも尋常じゃない。

 以前、部活を辞める時にうそーんさんに愚痴を言ったことがあった。うそーんさんは僕が野球部で贔屓のプロ野球チームがあることを知っていた。野球のこともあんまり詳しくなく、プロ野球のマイナーなチームのことなんかほとんど知らないはずなのにその時もすぐに


「君の愚痴、長い。今から君の状況を簡単に君の好きなプロ野球選手に例えて短文にするぞ」


 うそーんさんは一瞬でそれを文章にした。俺様が本当の『プロ』を肌で感じた人生で初めての体験だった。

「まあ、人間観察がわしは好きなんじゃよねw君も面白いし、わしは炎上も平気だし、ネットでのケンカも好きだしねw面白いじゃん」


 俺様はネーム作りで忙しいはずのうそーんさんとそれから長い時間、今後のことを不公平にならないように会話のキャッチボールをした。

「次来るときはネーム終わった時にしてくれよ。面白いから付き合ってあげたけどなwまあ、わしも『ドラフト』に選ばれるような作品をいつか描いてみせるぞい」

 俺様はその言葉を見て胸の中に熱さを感じた。

「うそーん先生は『ドラフト』に選ばれた作品に負けない作品を描いてる」

 俺様はそうDMに打ち込んだが送信ボタンを押す前に少し考えてから、打ち込んだ文章を消した。

「お忙しい中本当にありがとうございました。この『ドラフト』。絶対勝ってみせます」

 既読が付く。

 あんなにすごくて、俺様みたいな子供にちゃんと付き合ってくれて、アイデアとか頭の柔らかさとか明らかに普通じゃないのに、なによりうそーんさんの漫画は本当に面白いのにあんまり売れてなくて。俺様は少しだけセンチメンタルな気持ちになった。部活を辞めた俺様、長い下積みを重ねてめちゃくちゃ面白い作品を世に出している本当の『プロ』。肩を痛めたとか。結局俺様は野球から逃げたんだ。それを自分が一番理解している。もうすぐ母親のいつもの晩御飯の声が聞こえる。俺様はその前に着替えてリビングに降りていった。

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