【企画参加用詩集】歌見月

橙 suzukake

雨と白い蝶と燕




こぬか雨降る今日

葉桜満開の桜の木の下で雨宿りしながら ブロック塀に腰を下ろし

煙草の煙をくゆらせながら休憩時間を過ごしていたときである

一羽の白い蝶が 文字通り ひらひらと空を舞っていた

この辺りには 花も咲いておらず

おまけに 雨も降っていて

なんだか 白い蝶が舞うには不自然なシチュエーションだったけど

それは

何の手立てもなく 悲観に打ちひしがれる主人公の心を

一瞬のうちにハッとさせる ドラマのワンシーンのような光景で

僕も 蝶の飛線を目を細めて眺めていた


その時だ

視界の右から突如 黒いモノが音もなく現れたかと思うと

目の前の白い蝶が一瞬のうちに視界から消えた

慌てて左に目線を動かすと

後姿は 燕 だった

そのあと

燕は おそらく4~5回細かく羽ばたいたあと

急上昇して 姿が見えなくなった


白い蝶の存在を確認してから

わずか 20~30秒の あっけないドラマの結末だった


燕は 鳥の中でも 大好きな鳥だ

その飛行や 子どもにかいがいしく餌を与える様子が好きだった

白い蝶は 特別好きでもなんでもなく さっき久し振りにその姿を見ただけだ

だけど

白い蝶を目を細くして追っていた僕は

なにか やりきれない気持ちになった


人というものは 勝手なものだ

と 自分を納得させようとしている自分に

あとで気がついた





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る