あの頃の私

春嵐

そして今

あの頃の私がいる。


特に何も考えず、なんとなく勉強していた私。塾が面倒で、帰り道に寄っていたゲームセンターのクレーンゲームを楽しみにしていた私。それほど親と仲が良いわけでもなく、早く卒業して一人暮らしがしたいと思っていた頃の私。


懐かしいけど、戻りたくはない。なにひとつ面白いことはない生き方だった。せいぜい、週刊誌の漫画の続きとかドラマの続きが気になる程度の人生。


今は、どうなのだろう。常に違うことをして、追ったり追われたりを繰り返して、漫画やドラマのような人生をしている。今だってそう。


そうだ。


これは。


「走馬灯っ」


走った。銃声。というよりも花火とか号砲とかに近い。爆音。


逃げられない。


爆発。


「え?」


上空。ヘリ。何か撃っている。そして、何か大音量で叫んでいる。


『間に合ったねぇ。大丈夫?』


「大丈夫ぅ」


声をかけてはみるが、ローター音と砲撃音で聞こえないだろう。手を振って、大丈夫だと伝える。


『大丈夫そうだね。よかったよかった。あなたのおかげよぉ』


内偵だった。盗聴機と発信機をつけて、違法組織のところに行くだけ。

地が普通のOLなので、簡単には潜り込める。しかし、抜け出せない。

そして、普通の人間というのは基本的に数日経つと誰かから嫌われはじめるので、普通に撃たれそうになって今に至る。


あの頃の私と同じ。普通なままの人間。


ただひとつ違うといえば、あの頃の私が、あの頃の漫画やドラマのような場所に立っている。


「はぁ疲れた。帰って寝よ」


『おつかれさまぁ。いまロープ下ろすからねぇ』


「よろしくおねがいしますぅ」


聞こえないけど、つい叫んでしまう。そして、余計に疲れる。

ロープ。下りてくる。掴むと、勝手に引き上げられていく。


「なんかクレーンみたいだな」


帰るとき、久々にクレーンゲームでもやりに行くか。

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あの頃の私 春嵐 @aiot3110

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