気付いた
律斗
第1話
仕事で、私は毎日様々な施設へと荷物を運んでいました。
男しかいない職場で、かれこれ3年目になりますが、三十路の私はまだ若手の部類です。
届け先はだいたい近場で、30分もかからない地域なのですが、1週間に3回ほど、少し離れた地域を担当することもありました。
1時間弱ほどかかります。
ですが、近場を数件回るよりはラクなので嫌いではありません。
この場所が担当の日は、決まって帰りが遅くなります。
夜9時頃でしょうか。
施設へと向かい、職場に戻って来るのは夜11時近く。
その施設というのは少し山奥にあるため、多少不気味さもありました。
職場から約30分、トンネルを抜けた後、山沿いの道路を走らなくてはならないのですが、そこは毎回、霧がかかっておりました。
霧が発生しやすい地域なのでしょう。
頭ではそう割り切るのですが、気味が悪いことには違いありません。
だいたい視界も悪く運転もしにくいため、霧を抜ける10分ほど、私はいつも体を強張らせていました。
そんなある日のこと。
バイトで若い男が入ってきました。
私が業務を教える担当となり、しばらく2人で行動することになったのです。
偶然にも、今日は遠くの施設へと向かう日でした。
「初日から、遅くまで付き合わせて悪いな」
「平気っす! 毎日遅いわけじゃないんすよね?」
「ああ、こんな遅くなるのは週に3回くらいだ。お前が入ったから、これからは週2に減るかもな」
私は彼を助手席に乗せ、雑談しながら施設へ向かいました。
いつも1人でラジオを聞きながら運転するのとは違い、その時点では、楽しかったのを覚えています。
問題は、トンネルを抜けた後でした。
「ここから先は、よく霧が出るから注意して運転してくれ」
助手席の後輩に伝えます。
「そうなんすか。じゃあ、今日は晴れててよかったっすね」
彼は、なんでもないことのように私にそう言ったのです。
私も同意出来たらよかったのですが、どう見ても目の前は霧です。
なにを言っているのかと、指摘しようとした矢先のこと。
「気付いた」
どこからともなく第三者の声が聞こえてきました。
後輩の彼ではありません。
女性の声です。
声の出どころはよくわかりませんでした。
いまは運転中、それも霧の中。
山奥へと続くうねった道路は、少し目を逸らせば事故もありえます。
ただ私はその声には気付かなかったフリをして、10分間耐えることにしました。
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