未来を暗示する者

律斗

第1話

 就職を機に地元を離れてしまった私は、ここ数年、お盆と年末年始だけ実家に帰省していた。


 今年のお盆休み。

 いつものように実家に戻った私は、外で隣の家のおばあちゃんとすれ違いざまに挨拶を交わす。

「久しぶりだねぇ。元気かい」

「はい。おばあちゃんも元気そうでなによりです」

 大した会話は無いけれど、地元に帰って来たことを実感する。

 かわいらしいおばあちゃんで、見かければ必ず挨拶してくれた。

 いつものこと。

 ただ、この日はなにか違った。

 私と言葉を交わしすれ違った後。

 背後でおばあちゃんが、また誰かに挨拶している声が聞こえてきたのだ。

「あらあらぁ。迷子なの?」

 その言葉を耳にし、振り返る。

 けれどそこにいるのは、おばあちゃんただ1人。

 いったい誰に声をかけているのだろう。


 家に戻って母に尋ねてみた所、最近、おばあちゃんが1人で話している姿をよく見かけるらしい。

「少し前からなにか見えないものにまで、話しかけてるみたいで。ちょっと気味が悪いのよね」

「それってまさか霊とか……」

「ボケが始まっちゃったのかしら。歳だしねぇ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る