4 初依頼 ①




 __まわりが、生暖かい。


 なんだか……息苦しくもある。


 ぼやける視界。

 天井のうっすらとぼやけた照明。

 水?の中?


 なんだ?

……なんか体も、言う事がきかない……


 あ…これ、ヤバいやつだ……


 ……い、きが、げん、かい……




「………っっ…っは……っ」


 気がつくと俺はベットの上にいた。

 夢?なんだよ、今の。


「っはぁ…はぁ…っ……はぁ…はぁ」


 夢で息ができなかったせいか、呼吸が乱れ、肩が上下に大きく揺れる。


 コンコンコン


 部屋のドアからノックの音が鳴る。


「……っあ、はい!大丈夫です」


 俺は慌てて、起き上がり布団から抜け出した。


 ドアの扉を開けると、そこにはモーニングコールをしにきてくれた酒屋のマスターが立っていた。


「よー、おはよーさーん。どーだー?昨日はよく眠れたかって……どーうしたんだ?その顔色は?なんか調子悪いのか?」


「……大丈夫です。なんか変な夢見ちゃって」


「そーだったんか。まあ、疲れも出たんだろうよ。下で朝食の準備ができてるぜ。顔洗って食いにきな」


 マスターはそう言って、タバコの煙をふーっと口から吐き出した。た、タバコくせぇ。


「ま、栄養つけりゃ、また元気になるさ」


 マスターはそう言って、ひげを生やしたデカい口をニカっとさせ、俺の頭をくしゃくしゃっと撫でてからそのまま下に降りて行った。


 俺は一度背伸びをして、部屋の壁についている鏡で自分の顔をみた。そこにはボサボサ頭の青白い顔をした俺が映っている。うっわ、ほんとに顔色悪いじゃないか。元々、大して良くない顔がもっと酷くなっている。もう一度鏡をまじまじと見ては、大きなため息を漏らした。


 昨晩、俺は酒屋の「アリーナ」に無事たどり着くことができた。事情を聞いていたマスターがすでに部屋を用意してくれていたおかげで、疲れていた俺は即効ベッドにダイブして眠りについた。


 俺は部屋を出て、頭を掻いてあくびをしながら、階段で下へと降りていく。結局昨日はこれからのことを何も考えずに、寝ちまったな。なんか変な夢も見るし……


 あれ……?あれって本当に夢なのか?あれってもしかして……



「……シンタ?」


 突然名前を呼ばれて、俺は体がビクッとさせた。顔をあげると、そこにはリリィが立っていた。


「どうしたの!?その顔色。真っ青だよ!」


 大きな声を出して、心配した表情を浮かべた美女が俺の元へ駆け寄ってくる。……あぁ、朝からこんな天使がお出迎えしてくれるなんて……俺ほんとに死ぬかもしれない。


「……ぇっと……心配かけて、ごめん。ただちょっと変な夢を見ただけだから、大丈夫」


 俺はぎこちなく片側の口角を上げて、無理矢理笑顔を作った。リリィは思案顔で俺の顔をじっと見つめた。そして、今度は俺の右手に視線を移し、自身の細い両手で俺の右手をぎゅっと握った。


「え~えっと……?」


 リリィはそのまま右手をぎゅーと握ったまま離してくれない。


「……無理しないでね」


 と、右手を見つめたままリリィは小さく呟いた。


「……う、うん」


 俺はぎこちなく、そう答えた。本当は「心配しなくても大丈夫だよ」とか、もっと気の効いた返事ができればよかったんだが、右手から伝わるリリィの手の温もりや柔らかさばかりに気を取られ、それどころではなかった。なんだかほのかにいい匂いもする気がするし……俺のり、理性が、やばい。


「おーい、そこのいちゃついてるおふたりさ~ん。飯食ったのかー?」


 一部始終を見ていたマスターは、白い目でこちらを見ながら声を掛けた。


「……っは!すんません!まだです!食べます!頂きます!!」


 俺は慌ててリリィの手をほどき、朝食が待っているカウンターへ席についた。


「まあ、飯食いながらでもいいから、聞いてくれや」


 マスターはカウンター越しにグラスを拭きながら話し始めた。マスターの話はこれからのことについてだ。部屋は当分タダで貸してもらい、今日から酒屋の依頼を受けながら生活をすることとなった。さらに、三食飯付きデザート付きのハッピーセットだ。


「今日はとりあえず……そうだな、簡単な依頼からやっていくか。お前武器も持ってねぇんだもんな?」


「あ、はい……そうなんです」


「じゃあ今日は『ファルマシアンの森』でポポっていう緑色の薬草と、ラムっていう紅い実のついた茶色の薬草を取ってきてくれねぇか」


「ファルマシアンの森、ですか」


 ファルマシアンの森は色々なアイテムの採取ポイントだったはずだ。確かモンスターも滅多に遭遇しなかったはずだな。


「わかりました。俺、いってきます!」


「おう!まあ、最初だし場所もわかんねえだろうからな、その姉ちゃんと一緒に行くといいだろ」


 マスターが親指でリリィの方を指差した。


「うん!もちろん!その為に来たんだしね!」


 リリィはそう言いながら、にっこりと微笑んだ。


「おう、じゃあ二人とも頼んだぜ。あ、探すのに夢中になって、奥の森の方にはあんまり入るんじゃねえぞ。奥の方はモンスターがうじゃうじゃ出てくるからな。気を付けてな」


「はい。わかりました」

 

 俺はそう返事を返し、急いで朝食のフレンチトーストを頬張った。うめぇ。






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