第41話 その後2: 遠い未来での会話
アペルの高等女学院の教室で二人の学生が話している。
「ねえねえ、ちょっと聞いてよ。私、今度のレポートは五賢人に関して書いてるじゃない」
「そうだったわね」
「で、この前あなたが守護王ホサンスが数字を発明したって言ってたけどさ」
「そうよ、レポート対象を自称大王にしたのを今じゃちょっと後悔してるけどね」
「え? なんで?」
「晩年の女性関係がひどいのよ、それより何を聞いて欲しいの?」
「ああ、そうだった。えっとね、私の調べた限りでは賢者ティルガンが最初に数字を発明したと思うの。だってここに書いてあるのよアペルドナル王国歴183年に彼が最初に使いだしたって。そして、私も一応この王歴と今のトルク歴を照らし合わせたらホサンスがカプロス王朝を開く数年前から使ってるのよ。しかもアペルドナルって最後まで抵抗した国でしょ。なんだか辻褄があわないのよ」
「あら、それは初耳ね。でも『大王記』には記述が所々抜けている所もあるけど、ホサンスのひどいところもちゃんと書かれてるから数字を発明したのを捏造したとは思えないわね」
「うーん、でもこんなに離れてるところでこんなに似た数字が別々にほぼ同時に発明される? 見てよ、4と5と7しか違わないのよ」
「へー、こっちはなんか丸っこいね。あれ、これ全部一筆で書けるようになってない? うーん、似てるけど。でも昔使ってた数字を見れば、わかるわよ。あれで複雑な計算しようと思ったら絶望するしかないわよ。だから似たようなものができてもある意味不思議ではないと思うな」
「それで説明つくのかなあ。あ、それでね、私今まではさあボウア様が一番の賢者だと思ってたの知ってるでしょ」
「そうよね、私もそれに賛成よ。だって子育てする女性には時間を無駄にすることが出来ないって言って、機織り関係全般とか洗濯機とか、今の我々の生活に計り知れない功績をもたらしたじゃない。それに娘たちの一人は競馬の初代チャンピオンのテメシスだし、もうひとりは農学者のセヴリナよ。男でも五賢人の中でも彼女の功績が一番だって言ってる学者は多いわよ」
「知ってるって。でもね、彼らのことを調べたら、やっぱり賢者ティルガンが筆頭で間違いないって思うようになってきたの」
「なんでよ」
「だって、みんな賢者村の出身でしょ」
「まあ、名前からして凄いよね。いったいだれがあんな名前の村にしようと思ったのかしら」
「なんか当時のアペルドナル王国ではセージって賢者って意味じゃなくて、五賢人がでたから、セージって名前が賢者って意味になったみたいよ」
「へー、逆だったのかあ」
「それはどうでもいいのよ。いい、ティルガン様は賢者村の大工の棟梁だったのよ。そしてその弟子がサヒット様だったの。そして彼の双子の妹がボウア様よ。ボウアとサヒットよ!」
「あ、古文で「弓」と「矢」か! なんで気が付かなかったんだろう」
「今は基本的に意味じゃなくて音で子供の名前をそろえるからでしょ。で、ボウア様の夫がノックスで彼の双子の弟がアヴィン、「丘」と「川」よ」
「あー、なるほど。本当に近い関係にあった五人なのね、そして彼らのリーダーが賢者ティルガンと。一番年上だったからで筆頭ってことじゃないのね。ちなみにティルガンって名前にも意味があるの?」
「あるわよ、「強固な意志」って意味よ。だから私は雨水を飲料水にしたことやため池など水関係をシステムとして構築した功績はすごいとは思うけど、もっとすごいのは、もしかしたら、数字を発明してそれを彼が全員に教えたからじゃない? もしこれが本当なら実質彼が全員の師匠分だったってことにならない?」
「うーん、でも正式なお弟子さんは賢者サヒットだけだよね」
「まあ、工芸とかの分野では彼はピカ一だったもんね。サヒット様の作ったロウ板なんかもう完全に芸術品だし、あと大工として植林の大切さを広めたし、今の緑豊かな国土は彼のおかげでしょ? それに晩年には賢者村の村長になったしね」
「じゃあ、ノックスとアヴィンはおまけ?」
「それがわかんないのよ。だってアヴィンは生涯独身を貫いた天才って知られてるけど、彼は十五歳で早死にしてるのよね」
「え、そうなの? 確か成人後に鍛冶職人のところに弟子入りして、わずか一年で一人前になった天才って事は皆知ってるでしょ。九歳で活動開始したとして、たった六年でなんであんなに蛇口とか水車を使った高炉とか複滑車を利用したペリカンとか、色々発明できるのよ」
「まあそこが賢者の賢者ってところじゃないかなあ。そしてノックスもノックスで統一後は守護王に付いて国中を回った話とボウア様と田舎でゆうゆうと生きたって話は有名だけど、彼は賢者村じゃなくて、その北にある村で過ごしてたのよね。なんだかわけわからないけど賢者っだってイメージでしょ」
「まあ酒の賢者って言われるだけあるわね。行動パターンが読めないのは酔っぱらっていたからではないの?」
「まあ、彼は若いころに清酒を発明して広めたし、晩年のホサンス守護王の精力を高めたって功績があるから確かに変なイメージが強いけど、調べたらほかの賢者と同等ってことがわかったわ。工部大臣で、海水から塩を作ったのと、三和土を発明したのよ」
「ああ、だから建築科の子たちが『一に賢者ティルガン、二にノックス様』って言ってるのね。いつも「ふざけんな! ボウア様が一番じゃ、しかもなんだってノックスが二番なんだ」って思ってたけど、彼女たちの気持ちも今わかったわ」
「まあ三和土はすごいわよね、あれで昔の下水道や上水道もできたし。でも普通は清酒と精力薬のほうを思いだすから、ノックスはやっぱり酒の賢者って呼ばれちゃうよね」
「精力薬っていうけど、言っておくけど私が調べた限りでは、だれもそれを見てないよ。私が調べた自称大王ホサンスの記録にもノックスが来て以降なにか特別な薬を飲んだって記述はないんだよね」
「変よね、だって守護王ホサンスは最初の妻との間に子供が出来てからすぐに離婚し、それ以来長年にわたり子供を作らなかったでしょ。で、ノックスが大王の所に来てから急に何人も側室を取って子供を何人も作ってるでしょ。ノックスの伝記にも大王の乱れた女性関係は俺のせいだって言って嘆いてる話があったわよ」
「そこよ、側室ってとこよ。私もなんで新しく正室を娶らなかったのかなって思って調べたんだけど、ホサンスって離婚してなかったのよ。ただ疎遠だっただけ。で、彼の側室って全員平民なのよ。旧王族の子はひとりもいないのよ。それにそろってみんな牙が見えないくらい小さいって記述があるのよ」
「えっ、ロリコンだったの。うわあ」
「わかるでしょ。まったくなんでこの人について調べようと思ったのかなあ」
「まあ頑張れ」
彼女たちのリポートの成績はそれぞれ優であった。
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