第6話 ヘルベ歴248年 2月7日 セージ村の面々
王子宮の謁見の間にセージ村の面々がゴルミョに連れられて入室した。年齢順に大工の親方のティルガン、その弟子のサヒット、その友人のノックス、そしてノックスの双子の弟のアヴィン。ティルガンは明らかに引退してもよい年で白髪が多いが、今もがっちりとした体格をして元気そうである。サヒットはシュキア将軍くらいの背の高さで牙も大きい。が顔は丸い。四角い顔のシュキアとはそこが違う。ノックスとアヴィンは双子というがあまり似ていない。アヴィンの方が背も高く牙も立派である。ノックスはどちらかと言うとどこにでもいる普通の人と言う感じだ。そしてみな一様に似た感じのこげ茶の髪に茶色い目だ。
謁見の間の奥には一段高い台座があり、恐らくそこにあったであろう椅子はどかされて、あの宿場から持ってきた粗末な木の椅子が代わりに置いてある。場違いなので存在感を逆に醸し出している。
そしてそこでホサンスの親衛隊が客人の到着を告げると、少しして今度はホサンスの到着が告げられ、奥からホサンスが出てきて木の椅子に座る。それが玉座なのかそうでないのかわからなかった人もこれでこの木の椅子が玉座だとわかった。
このときティルガン達は片膝をつこうとしたが。
「よい、立ったままでよい」
「は、はい」
とちょっとセージ村の人々は驚くもすぐにどうしていいかわからずにいたが、ここでノックスが腰を折って深いお辞儀をした。
「ああ、それもよい。普通にしておれ。我らは自由の民だ」
「ですが大王様に対する礼が」
とティルガンが言うがそれもホサンスが遮り。
「まあ、頭を少し垂れるくらいでよい」
ということに落ち着き、ゴルミョによる紹介も終わり、話が始まった。
ゴルミョがまずはだれが数字を使い始めたかという話を村で聞いたところ、ティルガンが最初に使いだしたと言われ、その証拠にとティルガンが書いた明細書を貰ったと。そしてその明細書を文官に渡した。で、ここでティルガンに話を向けるとティルガンは無言でサヒットの肩を叩き、サヒットも今度はノックスの肩を叩いた。
「おい、喋れ」
木製の椅子を指でトントンとさせながらホサンスが言うと。ノックスが返事した。
「あ、はい」
「お前ら三人が数字を使いだしたってことか」
「それだけじゃないぞ兄上」
と今度は信じられないことにあの村では水車で精米と洗濯をしているとゴルミョが言った。精米は謁見の間にいた人達もすんなりわかった。杵を水車の回転で持ち上げ、自然に落ちる力を利用しているらしい。で、水車でする洗濯の方がいまいち伝わらない。ルテチアのほうでは水車を利用して木材を切っていたので水車の様々な利用方法はこれからも注目されるであろう。
「まあ、俺じゃあ説明できないと思ってな、本物を持ってきた」
と謁見の間にゴルミョの部下が大きな丸い鉄の入れ物を持ってきてホサンスの前に置いた。
「いくつか違う洗濯のやり方があるんだが、こいつが今一番人気だそうだ。で、こいつはアヴィンが作った。おいもう一度説明してくれ」
とゴルミョがその鉄の蓋をスライドして開けると中は空洞だった。アヴィンも前に出て
「わかりました。この空洞に水と洗濯物を入れます。そして蓋を閉めます」
アヴィンが蓋を閉める。
「そして水車が回転するとこっちの取っ手を持ち上がります。そして、回りきるとこの取っ手が下がります」
とアヴィンが鉄の丸い桶に付いてる取っ手を上下させる。これはおそらくルテチアでも使っていたクランクシャフトを使って回転運動を上下運動に変換しているのだろう。
そしてアヴィンがまた蓋を開ける。
「取っ手が上下しますと、この鉄の桶の中に入ってる半円状の棒がこの丸い桶の形状にそって中を行ったり来たりしますので、この中に入ってる水と洗濯物がかき回されて洗濯できます」
とまた取っ手を上下させて、中に入ってる棒が鉄の中をスライドする様を見せる。
「洗濯機だな」
玉座の上から見ているホサンスがつぶやくとアヴィンが言う。
「一つ訂正をさせてください。水車の力を利用して洗濯機を作ったのは俺じゃなくて、ノックスの妻のボウアです。これはただそれらを改良して出来たものにすぎません」
「そうか。その者は?」
「兄上、彼女なら幼い子供達がいるからセージ村に残してきた」
「そうか」
「そしてこのでかいのがロウ板を作ってる」
とゴルミョがサヒットを指す。
「おお、お前が。あの蓋に掘った熊は見事だ」
「あ、ありがとうございます。ですが、あれのもともとの案はこっちのノックスが考えたものです」
「いえ、俺にはあの装飾は無理です、ロウ板はサヒットが作ったものです」
「こっちはお前たち二人で作ったってことか。ふむ」
とここでホサンスが一旦自分のあごを撫でたあと不可解な音を連続で出した。再現するとこのような感じになる。
「ヘローブエノスディアスボンジュ―グーテンターグアッサラームコニチハ」
セージ村の面々も驚いていたようだが、ひときわ大きく動揺したのがノックスだった。そして、ホサンスとノックスは大きく頷き合った。
「皆の者は一旦退出せよ。ノックスはここに残れ」
謁見の間からティルガンとサヒットとアヴィンと供回りが出ていくと、残ったのは書記官とゴルミョと親衛隊になった。
「あ、今回はお前らもだ」
と言ったあと親衛隊も部屋を出ていくが。
「兄上、本当ですか?」
「ああ本当だ、心配するな、こんなやつに俺を害せるわけがないだろ、丸腰なんだし」
と言ってから、手で書記官も部屋から出てけと合図する。
「まあ、そうだが、て言うか書記官もか?」
「ああ、そうだ。お前も書記官もだ」
「わかった」
と渋々ながらもゴルミョは謁見の間を出ていった。
謁見の間に残ったホサンスとノックスが何を話したかはわからない。なにしろ統一事業の全てを記録する係りの三人の書記官も全員部屋から追い出されたからである。そしてほどなくして、皆が謁見の間に呼び戻された。
セージ村の面々は王子港に好きなだけ滞在してもよいと言われ、ティルガンとサヒットは数日滞在することを選んだ。アヴィンとノックスは翌日また船でセージ村へ帰った。
そしてその数日後ノックスはまた王子宮に出頭した。この時にはティルガンとサヒットもセージ村に帰った後だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます