オークの大王: ローマ式歩兵で世界を統一する
リチャード江藤
第一章 大王の誕生
第1話 ヘルベ歴248年 1月33日 大王の誕生
猪の紋章が描かれているひときわ大きい旗が戦いの中敵陣の中で倒れる。
「勝ったな。あとはカレドのエイデンだけだな」
しかめっ面で戦場を眺める馬上の猪人が言う。男の牙は小さいが、日に焼けた顔に白髪交じりの黒い髪、そして黒い鎧に赤いマントを羽織る中年の男には威厳を感じられる。
「短かったな」
相槌は隣でくつわを並べている馬上の猪人がした。中年の男と顔の作りは似ていて四角いが、牙は大きく、左目が白く濁っており恐らく失明している。そして鎧も兜も着ていない。猪人特有の小さくとがった耳が見られる。
「いや、長かったよ、俺の知ってる大王は世界を四年で征服した」
「かあ~、また始まった、そいつは兄者の妄想の産物だろ。どの都市の古老もアレキなんとかなんて大王は知らないってたしな」
「まあ、この話は信じなくてもいいぞ。ただこれからどうする? 俺もお前もこの後のことはあんまり考えてなかっただろ」
「大陸を統一するなんて誰もやったことがないからな。はっきし言ってここまで来てもまだ夢なんじゃないかと思ってる自分がいるわ」
と言い終えるころに馬に乗った軽装の兵が猛スピードで二人に近づく。
「ホサンス様!」
「なんだ」
「我が軍の勝利です! 敵の王を討ち取りました!」
「誰だ?」
ホサンスの弟が伝令に聞く。
「は、ゴルミョ将軍麾下の騎馬兵、イアンツと聞いています」
「イアンツか。わかった、行け」
「は!」
ホサンスが答えると伝令がさっき来た方向へ戻る。
「兄者、エイデンはクリーニャに任せるのか」
「そうだな、俺もお前も出る必要はないだろう。あそこは平地じゃないと思うが、俺の騎兵とお前の兵をクリーニャにつけてやればカレドは楽に落とせるだろ」
そしてホサンスとその弟が旗やテントの周りで立ち並ぶ人達の下に行くと一斉に彼らが膝をついた。
「大王ホサンス!」
「ホサンス陛下!」
「アルドリー!」
と口々にホサンスを大王もしくは上王として称える。これにはホサンスもびっくりしたようで急いで馬を降りると。
「何をしてる、我らは猪人。膝をつく必要はない」
「何をおっしゃいます。我が君はもはやただの大将軍ではありませんぞ、この大陸を初めて統一した偉大なお方でございます。これからは王になってもらわないと困ります」
皆の先頭で跪いている初老の男が言う。
「王になるのは構わないが、膝をつくのはよしてくれ」
「わかりました、我が王の頼みならば」
と立ち上がった人々は皆猪人でまちまちの服装をしている。
「おいスアドリ、兄者はまだカレドを支配してないぞ」
「カレドなど小国、王御自ら出馬せずともいずれ降るでしょう。それはシュキア将軍もわかっておられるでしょう」
「ま、違えねえな」
「では大将軍も王となりましたことでこれからは我らは陛下の臣下ということになりますな」
「そうなるな。よし、では王として最初の命を下す。アペルの略奪は許さん。籠城はしなかったのだ、命令を徹底せよ。そうだな、お前が行け」
「は!」
と言い終えるやいなや、指を指された若い鎧姿の男が馬にまたがり雪草の紋章が描かれた旗を持って戦場の方に駆けて行った。
そしてこの時を以て、猪人族最初の統一国家を作ったホサンスが王となった。のちに大王ホサンス、守護王ホサンス、統一王ホサンス、上王ホサンス、そして口の悪いものからは自称大王ホサンスと呼ばれるようになる男である。
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