野々村 その3

 午前九時過ぎ。野々村とシュンはやっと帝辺学院に到着した。

 のだが――。


「しかし、何というか随分アバンギャルドな学校だな。パトカーみたいな車が大量に駐車してるし、警察官みたいな服装の奴がゴロゴロいやがる。おまけに入り口のゲートはぶっ壊れているし」

「まるで何か事件でもあったみたいだね」

「というか、まあ、あったんだろうな」


 二人はせわしなく動き回る黒山の群れを並んで見つめていた。

 聞こえてくる会話から推測すると、どうやら今から約十分ほど前、凶暴な学校荒らしが出没し、生徒は全員安全のために帰宅してしまったようだった。

 野々村にしてみれば、せっかく集まっていた容疑者が散り散りになってしまったということになる。


「それもこれも、お前が道に迷いまくったせいだぞ。自分から買って出ておいて何だあの有様は」


 シュンの道案内に沿う形で二人は帝辺学院を目指していた。

 しかし、シュンは極度の方向音痴だったらしく、一度入ったことのある道にまた入ろうとしたり、ひどいときには逆に向かったり。

 最終的に、土地勘のない野々村が先導することで目的地にたどり着いたのだった。


「しかも三回も縁石えんせき蹴躓けつまずきやがって」

「それは関係ないでしょ。なんでもかんでも僕のせいにしないでよ」


 言われっぱなしでは治まらないのか、シュンからも反論が挙がる。


「お兄ちゃんだって、中街で交番を見つけたときに時間をロスしてたじゃん。僕はどうせ話なんて聞いてくれるわけないって、ちゃんと言ったのにさ」

「まさか、あそこまで露骨だとは思わなかったんだよ。くそっ」


 どちらに非があるにせよ、終わったことをいつまでも嘆いていては前に進めない。

 野々村は今一度周囲を見渡し、やたら派手な服装をしている女性に目をとめた。小包を手に持っている。

 先の出来事で警察に不信感を持っていた野々村は、彼女から話を聞いてみることにした。


「なあ、ちょっといいか」

「はい? わたくしに何か聞きたいことがありまして?」


 アニメの世界から抜け出してきたかのような女性の口調に、野々村はややたじろぐ。

 どうやらこれが素のようだ。


「実は盗まれた自転車を探しているんだ。赤い自転車で、こいつが言うには、ここの生徒が乗っていくのを見たらしいんだが」


 事情を話すと、女性はしばし考え込んだ後にこう言った。


「……なるほどそういう」

「何か知っているのか?」


 女性の意味深な発言に期待した野々村だが、彼女は優雅に首を横に振った。


「わたくしは何も知りません。ですが、あなた方に協力して差し上げてもよろしくてよ」


 どういうことかよく分からないが、手伝ってくれるということらしい。 

 ありがたいにはありがたいが……手順を端折り過ぎているように、野々村には思えた。


「ん?」


 何やらデジャヴを感じる。

 そういえば、シュンもこんな感じで脈絡もなく協力を申し込んできたのだった。

 やはり多少の違和感を覚えたものの、最終的に野々村は女性の申し出を受けようと思った。


「じゃあお願いする」


 野々村の返事に、女性は気品溢れる笑みをらした。

 そのとき、警官の一人がこちらに向けて駆けてくる。


麗華れいか校長。お話の途中で抜けられては困りますよ」

「ああ、ちょうどいい。わたくしはこれから用事ができましたので、学校荒らしのことはその辺りのものにお聞きになりなさい」

「校長!?」


 驚く野々村とシュン。困った様子の警官。

 三人の事情などにはまるで目もくれず、麗華はマイペースだった。


「それでは、我が校の生徒の無実を晴らしに行きますわよ!!」


 そう言って、威風堂々と帝辺学院から離れていく。

 さっきの警官が何とか留まらせようとするも、麗華はまるで意に介さない。

 野々村とシュンは唖然とした様子で、その場に固まっていた。


「何かやたらテンション高えな」

「いいことでもあったんじゃない」

「いいこと? 自分の学校に学校荒らしがきたのにか?」

「分からないけど」


 二人でひそひそと話していると、すでにかなり遠くにいる麗華が振り返る。


「何をぐずぐずしてますの! 早くついてらっしゃい!!」


 順調と呼べるかはさておき、こうして野々村はまた一人、新たな協力者を得た。

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