視差

猫に鬼灯

視差

 新緑の柔い葉の時は過ぎ木々には一層の青さが生い茂る。新たな環境に入った大概の者は、慣れによる堕落に走るか、はたまた初気持ちを忘れぬようにと己に喝を入れるかの二択に翻弄されているだろう。そんな時節、清潔さの目立つ真白な建物の妙に窮屈そうな真白な部屋に、どこか落ち着かなそうに椅子に座る若い男がいた。男の顔は俯き気味で、目の下まで前髪がかかっているため表情を窺い知ることができないが、力無く下がる肩と無意識のうちにだらしなくなっていく座り姿勢から察するに、相当に疲れているのだろう。


 真白な部屋は深閑としており、その時間は長く続きそうに感じられたが存外あっさりと砕かれた。動くことさえも億劫だと言わんばかりだった男が豊かな緑の黒髪を揺らして俯いている顔を上げる。拍子に髪で隠れていた目が隙間からひっそりと姿を見せたが、視線はどこかぼんやりとしていて努めてに一つのものだけをを見ないようにとしているようだった。ぎゅっと結ばれていた口が小さく開き、そこから小さく息を吸い込む音が微かに聞こえる。草臥きった様子とは違い、非常に明瞭な声で男は話を始めた。


「高校一年の丁度このぐらいの時期です。俺の視界がおかしくなったのは。」








 高校一年の丁度このぐらいの時期です。俺の視界がおかしくなったのは。偶に見えるとかそんなレベルではなくて、おかしくなった日からずっと、人が何かを纏わせている幻覚が必ず見えるんです。どういったものか、ですか。黒い色したモヤみたいな、今まさに窓から見えるあの雲に似た感じです、あれの真黒いものと思っていただければ。兎に角それが人に纏わりついているんです。


 最初は霊感みたいなものが目覚めたんじゃないかなんておかしな事を考えたのですが、黒モヤの幻覚以外は生きているものしか見えていない筈なので違うんだと思います。正直変なモノが見えているので、この辺は俺の考えに自信がないのですが。


 黒モヤの幻覚は出会う人全員に見えるのかですか・・・。限定的です、会う人全員にそれがついている様に見える訳ではないみたいです。かと言って何故限定された人に黒モヤがついている様に見えるのかは皆目見当が付きません。あと、昨日までモヤの幻覚が無かった筈の人に突然付きだしたということが偶にあります。はい、人数の変動みたいなのがごく稀なのですが起こります。でもおかしなもので減少はした事ないですね、先にもお話しした通り偶に見えるということも無ければ、一時的に消えるということもありません。高校の頃にいた数少ない友人の一人に黒モヤを付けているものがいましたが、視界がおかしくなった日を境に四六時中ブランケットでも纏ってるみたいにそれがある様に見えましたから。


 そういえば一度だけ、彼の黒いモヤに触ってみたことがありましたよ。・・・いえ好奇心と言うより触れる事で幻覚が何か動きを見せるのではなんて頓痴気な事を考えついてやってみたのですが、結局何も起こらずただ霧でもつかんだような気分でした。まぁそれもそうなんですけどね、モヤはあくまでも俺がみている幻覚ですから。


 黒モヤがついている人たちの様子の変化ですか。俺は彼らのうちの誰でもないので断言は避けますが、ないかと思います。ええ、高校の友人も俺が知らないだけで何かあったのかもしれませんが、特に変わった様子もなく一学生然として日々を送っているようでした。他にも、外出時に道や公共の場ですれ違う黒モヤが付いている人を観察してみたりもしましたが、目立って顔色が悪そうだとか様子がおかしいとかは無かったと思います。・・・えぇ、実は見え始めた時に何度か、もしかしたら悪い兆候の前触れか知らんと疑って注意深く人を観察したことがあるんです。黒いものって悪い意味の方が多かったりしますから。


 幻覚のことを他の人にですか。いいえ、家族は勿論友人の誰にも話していません。幻覚が見えるだなんて信じてもらえないでしょうからね。正直申し訳ないのですが、信じてもらっていないと思いながら今もお話しています・・・。最初こそ誰にも言えない辛さというのは少しはありました、でもおかしなもので二ヶ月ぐらい経った時にはこの視界は俺だけの普通であり当たり前なんだって感覚になってました。正体が分からないという恐怖で近寄るのも憚っていましたが、黒モヤ幻覚の見える友人とそうでない友人に大した差もなく接する事ができるようにもなりましたし、外でそういった人にすれ違う時も「ああ、この人ついてるんだな。」ぐらいになっていました。そうですね、あまり重く捉えていませんでした。その時は。








 何とも突飛な話を淡々と話す若い男、髪の隙間から見える目は相変わらず何処か一点を見ようという気が全く無いが、過去の記憶を起こそうとして上を見たり斜め下辺りを見たりと忙しなく動き回っている。途中で男は頭かぶりを振っては目に掛かる前髪を払い、ほんの一瞬だけ顔の全体を窺うことができた。感情がありありとわかる話し声とは違って乏しい表情をしているので、彼の心情がいまいち掴み取れない。


 自分の身に起こる頓珍漢な出来事を話すうちに喉が渇いたのか、頑なに飲もうとしなかった振舞われている熱い緑茶を小鳥みたく小さく口にした。そしてまた、淡々と話を続けていく。


「本格的に幻覚の恐ろしさを感じたのは高校二年の頃でした。」








 本格的に幻覚の恐ろしさを感じたのは高校二年の頃でした。二年といっても学年が上がるちょっと前なのですが、黒モヤの容姿が変化したんです。モヤに模様みたいなのができて、歪み一つない黄緑色の綺麗な真丸の円が一体につき二つずつ横並びになって現れたんです。例えるなら・・・双子の目玉焼きですかね、白身を真黒にして黄身を黄緑色にした。ここまできたらモヤというか決まった形のない生き物みたいでした。


 俺自体の変化ですか、いえ俺に黒モヤが付いている幻覚は無かったです・・・すみません生活の変化でしたか。これといって特筆すべき出来事は何も、黒モヤの変化の方が気掛かりでしたので正確には覚えていないと言った方が良いかもしれません。ええ、二年の頃は幻覚にまつわる大きな出来事が容姿の変化以外にもありました、確かあと二つぐらいあったと記憶しています。なので頭の中がそっちに支配されることがよくありましたが、それのせいで日常生活に支障が出たとかはない筈です。


 一つ目は二年生の夏休み前ぐらいです。高校一年の時と同様に模様がついた黒モヤ幻覚にすっかり慣れた頃、級友の男子生徒と女子生徒がそれぞれ一人ずつ黒モヤを付けて登校してきた事です。 


 ・・・嗚呼そう言えば、モヤの幻覚がどのぐらいの人に付いて見えているか説明していませんでしたね。高校では最終的に全校生徒だけで十人ぐらいに幻覚が見えました。今では街中とか大学とか兎に角人が多くいるところも、男女問わずに大体十人とちょっとぐらいに黒モヤ幻覚が付いているように見えてしまいます。増加は俺が知った顔だけと、とても限定的にはなるんですけど一年間のうちに一人起こるか起こらないか程度です。はい、結構少ないです。なので日常を過ごす上ではあまり支障はありません、ただ視界に入るとちょっと疲れみたいな感覚を覚えるのですけど。


 すみません話が逸れてしまいました。そうですそのお話。滅多に増加しない幻覚の対象が短い期間で二人一気に増えたんです。


 最初に見え出したのは女子生徒の方で、二日後には男子生徒の方にも現れました。それぞれに黒モヤが付いているのに気付いたのは、朝に教室に入ってすぐです。夏場は男女共に白いシャツの制服指定があったので、黒い違和感は簡単に俺の視界に飛び込んできました。えっと・・・、前日に兆候みたいなものは無かったと思います。すみません、その級友二人には用事でも無い限りあまり関わったことがなく、モヤが見えるまではあまり気に留めたことがなかったのでそれ以前のことはあまり覚えていないんです。


 二人を俺がどう思っていたかですか・・・。・・・紙よりも薄い関係で言ってしまうのもなんですが、俺からみた二人の印象はあまり良いとは言えませんでした。男子生徒の方は好きだから一人でいるというのを通り越して人間嫌いだから一人でいるって感じの子でした。彼のパーソナルスペースに少し近寄り過ぎただけでも睨ねめてきたり、用事があって声かけたとして、愛想がないのは別に良いのですが、返答が態とらしく大きく鳴らした舌打ちだったりと、人を避ける為の行動が明後日の方にすっ飛んでいて随分と難儀な奴だなと思ってました。女子生徒の方は、男子生徒とは真逆で誰にでも人当たりが良く、いつも周りに人がいたので好印象を抱かれるような感じの子でした。そこだけ見れば男子生徒よりかはいくらか良いのかもしれません。ですが俺からしてみると、彼女の取る行動の一つに男性教師に対する態度に妙な違和感があって気味悪く思っていました。具体的に・・・、言葉として表すのなら人当たりが良いというよりも馴れ馴れしい感じですかね、距離感を見誤っているというか。何故そう感じたのかは未だに分からないのですけど。


 えっ、モヤが付いている友人ですか。・・・、彼は特段嫌だなと思ったことはないですね、友人として接するぐらいならですが。先の二人のように引っ掛かる点を挙げるなら、異性間の交友に目に余るものがありました。本気でも無いのに女性と簡単に付き合っては別れをよく繰り返していて月単位で恋人が違っていたので、いつか何かの弾みで刺されるんじゃないだろうかなんて思ったこともあります。彼も彼ではあるのですが、それを良しとしている相手も相手なんですけど。


 ・・・あぁもう一つのお話ですね。幻覚の黒モヤを間近で観察した時のことなんですが・・・。いいえ、触ったのではなくじっくりと見てみました。幻覚そのものと、一つ歳を重ねていきなり出現した模様がとても気になってしまって。えぇ、勿論深く後悔しました。


 観察をしたのは一つ目のお話と同じ夏休み前の時で、短期間で二人の級友が幻覚対象になって更に数日後の授業を受けている最中です。集中力が完全に切れてしまった俺は教師の話を一つだって聞く気にならなくて、こっそりと別教科の課題でもやってしまおうかと考えていました。それで視線を黒板から机に向けた瞬間、目の前に座る生徒の黒モヤ幻覚が目に入ったのです。因みに目の前の生徒というのは先にお話した女子生徒でした。彼女の黒モヤ幻覚が揺れ動いてるのを見て、「しっかりと見た事ないなぁ」なんて心底間抜けな考えが頭を過ぎってしまったのです。若い好奇心と集中力の切れたふやけた脳味噌は実に危険な事を犯すものです。その二つが重なった俺は、暇潰しに丁度良いだなんて馬鹿な事を思いながら、近いようで若干遠い席に座る彼女の黒モヤ幻覚を眺めました。


 黒モヤの幻覚自体は花嫁さんが被る面紗みたいに少し透けいて、遅いのですが観察をして初めて纏う位置は人それぞれ違うことに気付きました。友人は肩にブランケットを羽織る様にあって、男子生徒は腰に巻いている様に、観察した女子生徒はそれこそ黒衣の花嫁さんみたく後頭部から肩にかけてふんわりと被っている様にありました。そして二年の頃に現れた二つの円は全員同じ黄緑色、パッと見ただけではペンキ一色だけを使って綺麗にクルンっと描いたみたいな歪みの無いただの円です。しかし二つの円に違和感を感じて穴が空くんじゃないかってぐらい目を凝らして見ると、定規を使って描いたみたいな真っ直ぐな黒い線が、円の中縦に一本だけ薄らとあるのが見えました。しかもその黒い線は、何かを探すかの様に右に左に忙しなくチロチロと動いていたんです。そうですね動物の目みたいな感じです。


 見えた瞬間は授業中ということを忘れてアッと声を上げそうになりました。まぁ声こそは出なかったのですが、それでもただの模様だろうと思っていた円がよく見たら目の様なものだったという恐怖を抑えようにも抑えきれず、落ち着くまでは震えと冷や汗が止まりませんでしたけど。








 乏しかった表情に困惑の色を見せた若い男、疑問を抱きつつも彼は級友と友人の話を変わらず淡々と進める。ある程度の時間を真白な部屋で過ごし自身の話を長々と話すことで、先程よりも一段と慣れたのか態と合わそうとしなかった視線が徐々に定まり、ある一点を短い時間ではあるが見続ける様になった。しっかり見ようとしているのか、目に掛かっている前髪を片手で横に流すと隠れていた目の片方だけがようやく姿を現した。ゆっくりと冷えていく緑茶を先程よりも多めに口にする、屹度彼の口に合う適温になったのだろう。緑茶の入ったカップを置いて、彼はまた話を始める。


「高校三年に上がるとまた幻覚は容姿を変えました。」








 高校三年に上がるとまた幻覚は容姿を変えました。黒いモヤの部分は相変わらず薄い面紗みたいで決まった形のないままでした。ですが二年の頃に現れた黄緑色の円の中にあった薄らとした黒い線が太くハッキリと見えるようになり、最早目の役割を果たしているといっても過言では無いぐらいなったんです。そして三日月みたいな形をした犀利な牙を二本携えて、大袈裟に口角を上げてニタリと笑う口までも現れたんです。ただの幻覚ですし、触った感覚も無ければ危害を加えないのは分かってはいるので怯えることは全く無いのですが、ギョロリとした目に鋭い牙のある獣みたいな見た目があんまりにも恐ろしくて、一年や二年の時のようにすぐには慣れませんでした。


 俺自体の変化ですね。高校三年生らしく数字と勉強に振り回されていました。あとは、愚かなことなのですが友人達と距離を取ろうとました、黒モヤ付きの友人だけではなく全員とです。俺だけが黒モヤ付きの友人一人を露骨に蔑ろにすると色々と混乱が起こりそうですし、最悪この頓痴気な幻覚のことを話さなければいけない状況にまでなるかもしれない。それならいっそ数少ない友人全員から何も言わずに離れて、素っ気なくなってしまったと後ろ指を指された方が幾らかマシだと考えたのです。悪いのは妙な幻覚が見える視界を持っている俺なのですから。でも最終的に離れることはしませんでした、友人という存在はどうしても手放し難かったというのと、恐ろしく変化してしまった黒モヤ幻覚にも慣れてしまったので。


 そういえば、彼らとは一度だって言い合いや物理的な喧嘩に発展したことはないのですが、この三年生の時に一度だけ喧嘩と言えるのか分かりませんが、少しだけ妙な空気感になったことはあります。


 妙な空気感になった時のお話の詳細ですか・・・確か、学校の夏季課外期間中に忙しい学業と恐ろしい幻覚の両方に疲れていて、友人達に少しずつ距離を取るような態度をしていた時です。休憩時間に一人で何も考えずに自席に座っていたら、友人たちが様子を伺いながらといった具合で話しかけてきました。訳も話さずに急に距離を取り始めたんです、そうされてもおかしくはありません。一人の友人に纏わりつく恐ろしく育っている黒モヤ幻覚から少しでも離れたいとは思いはするものの、俺の身勝手な態度に直接文句一つも投げつけてこない友人達の存在が嬉しくて、行動とは真逆に俺はすんなりと彼らの輪に加わりました。


 黒モヤ幻覚を纏った友人一人と特に何もついていない友人二人、妙な幻覚に振り回される俺、すぐ以前のように記憶に残りもしないくだらない話をすることができました。まぁ、目をギラつかせてニタニタ牙をみせて笑う幻覚の黒モヤはどうしたって視界に入ってしまうのですが、努めて見ないようにし危害はないのだと自分に言い聞かせて談笑を続けました。


 休憩時間も終盤に差し掛かった頃だったと思います。モヤ付きの友人が何かを思い出したかのように意地の悪い顔で笑ったんです。そして他の二人に目配せをすると彼らも何か合点がいったらしく、一人は呆れ、一人は苦く笑って彼に話すように促しました。黒モヤが付いている友人はどうも俺に聞きたいことがあったようです。その光景を見ていた俺は、夏であるのに背中に太い氷柱が滑り込んできたような気分になり彼に対して初めて畏縮しました。どういうわけか意地悪く笑った彼の表情が纏わりついている黒モヤ幻覚の笑顔とそっくりな顔をしているように見えてしまったんです。とは言え何か尋ねることがあるのなら答えなければと思って、何かあったのかと俺の方から彼に尋ねました。暫し待てと言って、彼はスマホを取り出して手際良く操作し目的の画面を開くと


「こういったものの話聞いたことないけど、君はどんなのが好みなんだい。」


 と言って、何かを表示させたスマホの画面を俺に見せてきました。


 気付いたら彼は黒モヤ幻覚と共に教室の床に机を巻き込んで倒れていて、スマホは彼の手から離れて側にポツンと転がっていました。椅子に座っていた筈の俺も立っていて、他の友人二人は豆鉄砲喰らったような顔で俺を見ていました。机が倒れたことで相当派手な音が出たと思うので、教室にいた級友も一斉にこちらを見ていたと思います。状況から見てすぐに俺がやったんだと、宿主の様子を気にすることなくずっと笑っている黒モヤ幻覚には気にも留めず、彼に近づき助け起こしに行きました。幻覚に触れることになったのですがやはり感触はありません。彼の手を取って起こして相当な回数を謝ったのですが


「悪いのはこっちだから気にしないでくれ。一瞬で顔色が悪くなってしまったなぁ、先生には俺から言っておくから休んだらどうだい。」


 と、俺以上に申し訳なさそうにしながら、何故か俺の体調の心配までもして許してくれた。ということがあったんです。


 何を見せられたのかですか、それが全く覚えていないんです。何かを見たっていうのは感覚的にわかるのですが、それが一体何だったのかまでは。実は突き飛ばした罪悪感で事ある毎に当時の記憶が頭を過るのですが、何を見たのかだけは欠片も思い出さないんです。スマホ画面に表示された物を見た事で黒モヤ付きの友人に危害を加えたんでしょうけど。


 幻覚の形態の変化ですか。高校三年以降はありません、高校三年を最後にずっと面紗みたいなモヤと縦長の瞳孔のある黄緑色の目、犀利な牙を見せるようにニヤリと笑う口がある決まった形のない獣みたいな感じのままです。ただ、未だに限定された人にしか見えないのは分からないままなのですが。








 若い男が一通り自分の視界についてを話終えると、穏やかな静けさが部屋を包んだ。ようやく定まった彼の視線は、机を挟んで目の前に座っている白衣を着た中年の男を縋るように見つめている。若い男の様子から察するに、彼の前にいる中年の男には彼が見えてしまう幻覚が付いていないのだろう。


 頓珍漢な話全てを一言も漏らさず聞き取ったらしい中年の男は、若い男に一言断りを入れると少し考えこんでしまう。


 考えが纏まったのか安心させるような声音で、柔らかく視線を送りながら若い男に向かって緩やかに話しだした中年の男。若い男もまた真剣に話に耳を傾ける。しかし話が進むうちに不安と恐怖で頭がいっぱいになったのか若い男は次第に落ち着きが無くなっていく。彼の様子にすぐに気づいた中年の男が宥めようとすると、乏しかった筈の表情を苦しそうに歪めてポツポツと目から涙を零しながら若い男は力無く言った。


「先生、俺は一体どっちがおかしいのでしょうか。」

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視差 猫に鬼灯 @NekoOni

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