その七 クレア・アージュの天使たち
僕たちは二年生に進学した。
僕的にはついにこの時が来たと言うべきだろう。この時のためにソニアを監視しつつ、色々な人との関係を築いてきたのだからね。
もし、本当にクレアがここに巫女候補として来たのなら、ここはやはりゲームの世界となる。
そうでないのなら、僕はカナードとして自由に過ごせるのかな?
――
――――
やはり、ここはクレア・アージュの天使たちの世界なんだね。
教壇には、少しウェーブのかかった薄い金髪のセミロングのとても奇麗な女の子が立っていた。
改めてみても見惚れてしまうそんな美少女、彼女がゲームの主人公『クレア・アージュ』
「クレア・アージュと申します、クレアと呼んでください。水の巫女候補となったためこちらに編入させていただくことになりました。至らぬこともありますが皆さま宜しくお願いしますね」
そう言ってクレアはにこりとほほ笑んだ。
その笑顔に僕も見とれてしまった。
「凄く綺麗な人ですね王子」
「ああ、兄上の許嫁のメリンダさんも奇麗だけど彼女もとても綺麗だね」
「そ、そうですね……」
おや? ニーナにしては何か元気のない声だったかな?
ニーナだって負けちゃいないんだよ?
そして大半の男はやはりと言うか息をのんでいた、ついでにユリアーナも、あと超高速で前髪をくるくるやってるヤツもいるな、あの指の動きどうなってるんだ? 毎年速度が上がってるのが正直言ってキモイ。
挨拶を終えたクレアが僕の横を通り過ぎ後ろの席に向かう。
ここでカナード王子がクレアに声をかけるんだよね。
「や、やあ、クレアさん。よ、よろしくね」
「こちらこそ、よろしくお願いしますね」
ニコりと微笑む、間近で見るとまつ毛も長く整った顔だと改めて思ってしまい。
カーっと顔が熱くなるのを感じた、おそらく僕の顔もおそらくは赤くなっているだろう。
神の祝福なのか? というくらい吸い込まれそうな子だな。
そして本日の放課後になった。
さあ、思い出せ。ここからが本番だ! 僕は全て丸く収めるために、クレアの行動を把握しないといけない。
彼女が転校してきて最初の選択肢は登校初日の放課後、確か……中庭でアルファス、一階廊下でハインツ、玄関でライネスだったかな? そうすると残った選択肢は『教室』ここでカナードならいいのかな?
とりあえず彼女をここに留めておけばいいって事かな?
僕は後ろの席のクレアの所に向かい、クレアに話しかけてここに留まるように仕向ける。
「あーえーと、ク、クレアさん、す、少しお話をしないかな?」
僕が話しかけたつもりでいたらいつの間にかクレアの周りに人だかりができていた。
あちゃー、転校生のお約束状態になってるしー。
「王子、どもってちゃ駄目ですよ……声も小さいですよ」
「む、むぅ」
しかもダメ出しされてしまった……少し悲しい。
城の人間たちやライネス、ユリアーナで会話は慣れたつもりだったけど。考えが甘かった、僕の大元は人付き合いの苦手なオタク女子だったな。
「ある意味前途多難だな」
僕は呟きながらクレアの席を眺めることにした。
しかしこれ一応教室に留まらせてることには違いないけど、正解なのかなこれ?
おや? ユリアーナがさっそくちょっかいをかけているな。軽いジャブと言ったところか?
そうなると今回の選択肢の分岐は僕でなくユリアーナ? あれ? カナードの選択肢は?
一応、空の選択肢もあったのかと思うことにしよう。
「王子はああいうタイプの女性が好みなんですか? 今日は一日中クレアさんを見ていた気がしますが」
「確かに綺麗な娘だと思うし、気にはなるけど。まだ分からないな」
「そうですか」
ゲームのカナード王子は彼女に一目惚れだったのかな? 僕は元は安住祥子と言う人格だから一目惚れまではしなかったけど。
そもそもゲームはプログラムされたものだし、ここはゲームに良く似た世界。ゲームでは語っていない部分を僕は体験してきているんだ、カナード王子は今は僕自身なんだよね。ならばゲームのカナードも一目惚れまではしなかったのだろう。
「ボバハハハ」
ん? あの吐き気を催す笑い声は……隣の教室からブタのような顔をした女がやってきた、我が許嫁のソニアだ。
「う……」
ニーナが顔をしかめる、分からなくもないな。ニーナは何時まで経ってもソニアの顔に慣れないようだ。
ソニアは僕の方を見るとニターと笑い、すぐにクレアの方へと向かった。
「どきなさい、下級貴族共!」
そういうと行き成りクレアを取り囲んでいた生徒を蹴り飛ばしどかせる。
「……っ!」
「抑えて」
僕はニーナを手で制止する。
「ソニア、何しに来た」
「ボバハハハ、カナード様。私はライバルの顔を見に来ただけです」
「ライバルねぇ、さっさと帰りなよ」
「ボバーハハハ! ええ、すぐ戻りますよ」
はぁ、これが許嫁とか寒気がする。
どうやったらここまで性格まで捻じ曲がるのだろう?
「貴女が私と同じ水の巫女候補ね」
「はい、クレアと申します。よろしくお願いしますね」
「よろしく? ボバハハハ、貴女面白いわね? まあ、いいわ今日は顔を見に来ただけですものね、こちらこそよろしく頼むわね」
ソニアは握手を求め手を出す、ガサガサの汚い手だ。
クレアが握手を返そうと手を伸ばすと、ソニアはその手をはたき握手拒否。
「え?」
驚いた表情のクレア、ソニアのヤツやはりやりやがった。
「ボバーハハハハーハっ……ゲフゲフ!」
むせるソニア、これは毎回思うんだがそこまでして高笑いしたいものなんだろうか? そして、ソニアの行動にユリアーナ達まで固まっていた。
むせたあとソニアのヤツはクレアに一瞥すると戻っていった。
「私、あの方に何かしたのでしょうか?」
クレアの疑問に僕は答えた。
「ソニアは性根が腐ってるから気にしないほうがいいよ」
「そ、そうですか」
一瞬悲しげな顔をして俯くクレア。不謹慎にもその顔に一瞬ドキリとしってしまった。
ソニアのせいでどんよりとした雰囲気になってしまった放課後であった。
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