ある日の、長閑な場所にて

隅田 天美

ある日、長閑な場所にて

「お前、また、泣いているな」

「……もう、嫌だ」

「何が?」

「いつもいつも耳元でギャーギャー騒いで自己満足して……五月蠅いんだ、目障りなんだ。私は、この何もない世界が好きなのに……」

「……お前の大切なものを家族や職場の人間が踏みにじる。隅田は、そんな奴らでも優しくしていた。いや、優しくすることを

「虐めるんだ、みんな、最後には……信じるなんざ、馬鹿がする事なのに……そうしなきゃ、殴られたり暴言を吐かれる。だから、馬鹿のふりをする。都合のいい人間になる」

「全てが全てではないだろ?」

「人の心なんてわからない。分からないから、怖い。だから、ほっといて‼」

「……優しいな、隅田は」

「何で? こんなに酷いことを言っているのに……」

「そんなに泣くまで自分を傷つけてまで一人で全部背負ってみんなを守ろうとする」

「ただのご機嫌取り……ですよ」

「そうかな?」

「そうですよ」

「でも、俺たちを守ってくれた」

「はい?」

「本体のことは知らないが……」

「いや、本体なんて言わないでくださいよ。ディズニーラ○ドのキャラクターがいきなり客の前で顔をさらすようなものです」

「まあ、に対してお前は生きているか、それ以上に大切に思ってくれた。お前みたいなやつ、結構いないものだぜ」

「は? だとすれば、ガンダムとか分かります?」

「……まあ、時々暴走するよね」

「だから……」

、決めた」

「離れますか?」

「逆だ、俺は、ここにいる」

「!?」

「でも、お前が声をかけるまで俺は何もしない。お前に倣って好き勝手にやる。何かあったら声をかけてくれ。すぐに助けるから」

「何考えているんですか!? 何もないんですよ!」

「だから、いいのさ。いや、お前は豊かな人間だ。でも、どこかのアニメキャラみたいに分け与えすぎているんだ。だから、今度はが分けてやる」

「あ……」

「と、いうわけで、俺は寝る。おやすみ」

「……本当に寝ちゃったよ、この先生」

「普段、無口な分だけ思いの丈を話せて疲れたんだろう」

「!……先生」

「おう、お疲れ様」

「あなたも……」

「俺は、先客だぞ」

「だから、なんで……」

「一言、いや、二言言いたいことがあったからさ」

「何ですか?」

「『ありがとう』『これからも、よろしくお願いします』」

「……それ、私の台詞です……」

「また、泣く……隅田、お前の世界は本当にいい世界だなぁ」

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ある日の、長閑な場所にて 隅田 天美 @sumida-amami

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