第22話 強い魔法を覚えたよ

 アロウザルに戻ってから三日後のこと。

 僕はしばらく休んでいたのだけれど、ようやく今日から頑張ろうという気持ちになり、昼過ぎに目を覚ました。


 って、昼過ぎに起きてる時点でまだダラけてるよね。充分休んだことだし、そろそろ気持ちを引き締めないといけない。


 そうそう! ウィズダムのスキルオーブはすっごい冒険者達が列を作っていたので、アロウザルに帰ってからスキル強化をしようとルルアと相談していたんだ。これから彼女はやって来るはずだし、そろそろベッドから降りよう。


「あら、お目覚めでしたか。ご飯はできておりますよ」


「ああ、おはよう」


 台所からまさしく女神という美しき女性が振り返り、陽光すらかすむような笑顔を向けてくる。オレンジのエプロン姿がとても似合っていて、カレーの香りが鼻に届いた。


「今日はあなたの好きなカレーにサラダ、それからデザートも用意しております」


「なんか贅沢な感じだよね。……ってちょっと? クラリエルさん!? どうやって入ってきた?」


 寝ぼけていた頭が急に覚醒する。おかしい、ちゃんとドアに鍵かけていたはずなのに。そもそもどうしてアロウザルに? なんで僕の家までこの人知ってるんだ。突然のホラー展開にびっくりする。


「うふふふ! それはこの針金でちょちょっと」


「今度こそ牢屋に入れるぞ!」


「まあまあ、そうお怒りにならずに。美味しい昼食が冷めてしまいますわ」


「どうしてご飯まで作ってるのさ? っていうか、なんでアロウザルにいるの?」


 テーブルに並べられた豪華な昼食の誘惑に負けた僕は、椅子に腰掛け向かい側の聖女様に聞いてみた。聖女様という名の泥棒に。


「クスクス! あなた達のパーティメンバーとして、同じ街にいるのは当然のことですわ」


「そっかー。確かに当然だよね」


「ええ、ええ。そうですとも」


「いやいやいや! まだ正式にメンバーにしたわけじゃなかったはずだよ」


「あら、そうでしたか?」


「そうだって! 大体、」


 言いかけた時、ドアをノックしてくる音が聞こえる。やめてくれ、それ以上叩かれたら、と思っていたら案の定ドアからベキ! って音が聞こえる。可哀想な僕の家のドア。ごめんねホントに。


「はわわわ!? ごめんなさい。ドアが、ドアが」


「ルルア! とにかくドア開いてるから、入って」


「修理代はちゃんと払うから……って、クラリエルさん!? どうしてここに?」


「うふふ! どうしてって。私とナジャさんはこういう関係じゃありませんか」


「どういう関係なんだよ!」


「ちょ、ちょっと! それってー」ルルアが両手を頬に当てて目を白黒させてる。


「何を勘違いしてるのか知らないけど。この人……起きたら部屋に不法侵入してたんだ」


「ごめんなさい。ドアが開いてしまったので」


「針金で開けたんだよね」


「そんなスキル持ってたの? す、凄い」ルルアはなんだかほっとした顔になった。


「関心するところを間違えている気がするが」


「これから毎日私がご飯を作ってあげますからね」


「ダメだよ! それはあたしが……じゃなくて! 不法侵入なんかしちゃダメ。それよりナジャー。そろそろスキル振ったり、遊びに行ったりしよーよ!」


「あら? 私もご一緒していいです? ダメって言ってもついて行っちゃったりして。うふふ」


「まあ、今日のところはスキルを強化するだけだから、ついてきてもいいよ」


 まさかアロウザルまでやって来ちゃうなんて。聖女様の行動力には驚かされるばかりだ。


 ◇


 ウィズダムと比較すると、アロウザルのギルドはけっこう空いている気がしてきた。今日もほとんど列ができることなく、普通にスキルオーブのところへいけている。


「みてみてー! ナジャ。あたしこんなに強くなったよっ」


 ルルアが金銀財宝みたいにキラキラした目で僕の側にやってきた。でも、言うだけのことはある進化だ。


 ========

 名前:ルルア

 スキル:正拳突きLv99 連続蹴りLv99 闘気Lv41 素早さUP弱Lv40 素早さUP中Lv40 関節技Lv33 背負い投げLv50 破鉄掌Lv50 サンダーキックLv46 トルネードキックLv48 魔神蹴りLv71 会心乱舞Lv68 ヤッタナーLv22

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「どんどん強くなってるね! これならもう実質SSRランクじゃないかな」


「えへへ。もっと褒めてー。ナジャはどうなったの?」


 ========

 名前:ナジャ

 スキル:ファイアボールLv99 フリーズLv99 サンダーLv75 スクウェア・ストーンLv70 ウインドカッター Lv41 フレイムLv37 フリージングアローLv44 ウォーターボールLv40 ライト・アローLv51 ボムLv60 アップ・オフェンスLv20 トルネードLv21 サンダーボルトLv25 ダークボールLv31 フォトンLv28 ライト・ガトリングLv15 フレアLv15 ヘブンズ・シャワーLv10 ダイヤ・キュートLv10 アイス・ストームLv10

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 なんだろう。ダイヤ・キュートとアイス・ストームは習得した時の音が全然違った。カジノで大当たりしたような盛大な音だったんだけど、きっと相当上位の魔法なのかもしれない。スキル強化に必要なポイントも段違いに多かったし。


「わあああ! 滅茶苦茶強くなってる。もうエキスパートだよ。魔法使い極めてるじゃん!」


「いや。極めたというには程遠いよ。まだまだ上には上がいるんだから、気を引き締めていかないとね」


「素晴らしいですわお二人とも。流石は私が見込んだだけのことはあります」


「クラリエルさんはどのくらい上がった?」


「クラリエル……でいいですわ。旦那様」


「じゃあクラ、ってちょっと! なんで僕が旦那様なんだ」


「うふふふ。でも、クラリエルと呼んで欲しいのは本当ですよ」


 失礼しちゃうなー。意外と聖女様は冗談がお好きみたいだけど、珍しくルルアは笑ってなかった。というか、ちょっと眉が吊り上ってて怖い。


「私のも見てみますか? お二人と比べると、もう全然低レベルですけれど」


 そう言いつつスキルを見せてくれたが、なんか変だったんだよね。


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 名前:クラリエル

 スキル:ヒールLv1 キュアーLv1 セイントビームLv6

 

 ▶︎

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 うーん。レベルの割にはスキルが弱すぎる。どうしてだろうと考えていると、スキル表の▶︎マークが気になった。これってスキル一ページ目がいっぱいな時に表示される場合があるんだけど、これだけのスキルで何で▶︎マークがあるんだろ。


「あれれ? ねえねえ! ちょっとオーブ触っていい?」


「あ! ちょっとお待ちくださ、」


 珍しく焦るクラリエルさんを気にせず、ルルアが▶︎マークに指を触れた。そしてもう一つのページが現れる。


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 名前:クラリエル

 スキル:スリLv91 盗むLv84 フェイントLv10 騙し討ちLv18 惑わすLv20 ぶん盗るLv55 忍び寄るLv40 宝を見つけるLv47 鍵解除Lv30 罠解除Lv30 宝箱解除Lv30 逃走成功率アップLv22 隠れるLv28 ナイフ攻撃力UP小Lv35 死んだふりLv40 ステータスチェックLv1 バタン・キューLv49

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「ひゃああー!? 何これ」


 これは凄い! 盗賊スキルにほぼ全振りされている。聖女スキルなんて目もくれないって感じじゃん。


「バレてしまいましたのね。そうです。私……盗賊スキルを極めようと思っておりますの」


「その方向性は盛大に間違えている気がするぞ」


「うふふふ。シーフスキルを極めていった先に何があるのか、ワクワクが止まりません!」


「お願いだから聖女スキルも上げてくれ!」


「凄いね……クラリエルさん。ウィズダムで頑張ってね」


 ルルアがしれっと突き放しにかかってる。これはかなりのレアパターンだ。


「いいえー。しばらくはこちらでお世話になります。ナジャさんのお家で」


「何で僕の家なんだ!?」


「えええ! 絶対ダメだよー!」ルルアが反対してくれてる。


「クスクス。冗談ですよ……きっと」


「もー。とにかくナジャ! 早く遊びに行こっ。今日はお洋服買いたい! ナジャも買おーよ」


「ちょ、ちょっと待って。うわわわ!」


 僕はルルアに引っ張られて外に駆け出した。なんだかんだ言って、最近ちょっとだけ毎日が楽しいかもしれない。

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