第20話 予告状の送り主
ルルアの無意識体当たりに吹っ飛ばされつつも、何とか僕は広間に戻ってきた。最後のエルフっぽい人は強そうだったけど、運よく一発で倒せたから良かった。
落ちゲーの効果は発動中の魔法にも適用されるみたいだ。それはいいとして、屋敷を派手に壊しちゃったんだけど、流石にこれはまずそうだ。
「ナジャ! 外は大丈夫だったの? すっごい爆発音が聞こえたんだけど」
「あれは僕の魔法だよ。もう大丈夫。魔物は全滅したと思う」
「窓から拝見させてもらっていましたけど、まさかあれだけの魔物達を相手に、ほとんどお一人でやっつけてしまうなんて。私の期待以上かもしれませんわ」
いつの間にかクラリエルさんがスーッと隣に近づいていたみたい。ホント気配を感じないなぁ。
「うふふ。それともう一つ、ヴェネディオ様。あなたの隠していた宝物庫、つい今しがた拝見させてもらいましたよ」
さっきまでヒイヒイ言いながら腰を抜かしていたヴェネディオ様が、あっと驚いた顔で聖女様を見上げる。そういえばちょっとの間彼女の姿がなかったけど。え?
「な!? それはまさかワシの鍵……き、貴様! 何という無礼を。このままただで済むとでも思うのか!」
「クスクス。ただで済むかどうか、ですって? 心配する必要があるのは私ではなく、あなたではありませんか」
「何だと!?」
うーん。突然何かが始まったみたいだけど、僕としては理解が追いつかない。どうしたんだろう。
「クラリエル。隠していた宝物庫とは何処にあるのだ? 私に案内してもらいたい」
今度はドーラさんがキリリとした顔で言う。お付きの冒険者仲間も三人くっついてきてるけど、なんかさっきまでと空気が違うぞ?
「何を勝手な真似を。貴様ら、この大貴族相手に承諾もなく舐めたことを抜かしおって。どうなるか解っているのか? 全員処すぞオラ!」
この一言にもドーラさんは動じず、ただ涼しい流し目を送るばかり。僕だったら冷や汗ものだけど。
「私には権利があります。あなたの財源を確認する権利が」
そう言いながらドーラさんは首元から一つの紋章入りネックレスを取り出してくる。そして他の三名も同時に同じものを見せてきた。これは僕にも見覚えがある。アロウザルから東に向かった先にある、王都クライテリオンの国王の紋章だ。
強気に言い放っていたヴェネディオ様は、急にあわててガクガク震えだしちゃった。
「ま、まさかそれは国王様の?」
「はい。今の我々は国王より権限をいただいております。元より警備とは建前で、抜き打ちで財源の調査を行うつもりでした。本当に正しい税金を納めているのか、どうにも怪しいと国王はおっしゃっておりました」
クラリエルさんは優雅に広間から廊下へ出ると、舞踏会の続きのようにクルリと振り返る。
「ではドーラさん。場所はすぐそこです。ご案内差し上げますわ」
「ま、待ってくれ! 今はその。見せられるような状態ではないというか、その」
ヴェネディオ様は立ち上がれない状態で苦しい引き止めをするけど、まあ効果はなさそう。
「問答無用です。では行こう」
なんて急展開になってきたんだ。これってヴェネディオ様が捕まったちゃうってことなのかな? ルルアがそわそわしながら僕の隣に来る。
「ねえねえナジャ。もしかして、ヴェネディオ様は牢屋に入っちゃうの?」
「うーん。どうだろうね」
そのあたり僕には想像もつかない話だったけど、結局ヴェネディオ様の栄光は潰えることになる。宝物庫には事前に申告されていた財産とは比べ物にならないほどの額が隠されており、巨額の脱税により彼は投獄され、国王によって処罰を受けることとなってしまう。彼は二度と外の世界に出ることはなかった。
◇
「いつまで床に這いつくばっている! これから城でたっぷり尋問してくれる。キビキビ歩け!」
宝物庫を調べ抜かれた挙句ほぼ罪人と確定されちゃった、大貴族だった男は鎖で縛られてドーラさんに引っ張られちゃってる。
「あ! ちょ、ちょっと待て。痛い痛い。歩く! 歩きますから、ちょっと! やめて!」
なんとも威厳の消え去った声でドーラさん達に連行される姿には哀愁すら感じてしまった。周囲では冒険者や身の回りの世話をしていた人々が集まり、ガヤガヤと騒ぎ声を上げている。
帰り際にドーラさんは僕らの元へやってきて、今までにない優しげな微笑を浮かべる。
「ナジャとルルア。それから聖女クラリエル。私はこれから王都へ戻る。君達がいてくれて本当に助かった。ありがとう。それと今回のことは覚えておく」
「申し訳ございませんドーラさん。私ったら、てっきりあなたが犯人とばかり」
ハンカチで涙を拭う聖女様。麗しいお姿って感じ。
「いいんだ。私もうかつな行動をしていたのだから。それとナジャ、君の魔法には本当に驚かされた。ルルアの勇気にも」
「いえ! 僕はまだまだですから」
「えへへ! まあね! 王都に行った時は宜しくね!」
外の庭には王国からの援軍がやってきて、彼女は去り際に一礼をすると、元大貴族を移動式の牢屋に入れて去って行った。うーん、晒し者感がすごい。まあ、自業自得なのかもしれないね。
今回は依頼主が逮捕されちゃったわけだけれど、報酬とかはどうなっちゃうんだろう。僕らにとって一番の気掛かりだった。
◇
朝になり、騒然としていた屋敷を後にした僕たちは、馬車に乗ってウィズダムへの帰路を進む。あとは報酬を貰えば一段落というわけで、左隣から楽しそうにルルアが話しかけてくる。クラリエルさんはしばらく静かに佇んでいたが、時おり何かを思い出してはクスクス笑っていた。
「ビックリすることばかりだったよねっ。最後に変なエルフと戦うことになるなんて思わなかったし、ヴェネディオ様は捕まっちゃうし」
「うん。しかし隠し部屋まで作っているとは。余程お金を隠しておきたかったんだろうね」
クラリエルさんが少しばかり大きな笑い声を出した。なんか楽しそう。
「うふふふ! あの隠し部屋は傑作でしたわ。ああも分かりやすい浅知恵では、張り合いがないにも程があります。でも今回の冒険は楽しかったですわ。誰も死者が出なかったことも、不幸中の幸いでした」
「そうですね。しかしあのエルフが予告状の犯人だったなんて。本当に意外だったというか、なんというか」
僕は腕を組んで考え事を続ける。あのエルフは泥棒をすると宣言しておきながら、どうして魔剣にしか目がいかなかったんだろうかと。
「本当だよね。どうしてあんな手のこんだ真似をしたのかな? 結局宝物庫目当てには見えなかったし。こわーい顔だったよ、ホント!」
「あら、一つ間違えていますよ。あの予告状をお屋敷に届けていたのは別の人間なのです」
「そうなのー。クラリエルさん犯人のこと知ってるんだ。え!? っていうか、犯人って誰なの?」
ルルアが三角形の華奢な顎に指を当てて思案しつつ、クラリエルさんに質問している。僕も同じく気になることだった。
「うふふふ。私です」
この後、しばらく僕らに不思議な間が訪れてしまった。
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