第18話 ドッカン!
もう何度も話していることではあるのだけれど、僕は遥か昔に活躍していた伝説の魔法使い、ヴァレンスに憧れを抱いている。
たった一人で国一つをゆうに滅ぼすと言われるURランク冒険者の中でも、群を抜いて高い殲滅力とカリスマ性を備えていた人物で、彼は生前にこんな言葉を残している。
『敵がどんなに強大でも、どんなに数で勝っていても、パーティを勝利に導くのが魔法使いだ』と。
僕はいずれ彼のような魔法使いになりたいと思っている。そうである以上、今回の状況は乗り越えなくてはいけない難関に違いない。だから、これだけ数に差がある戦いの中でも、本当に自分を不幸であるとは思っていない。
冒険者と護衛で雇われた民間兵が合わせて五十人程いるが、きっと敵はその三倍は存在している。
賢者や魔法使い、僧侶が後方から魔法を当てて、前衛の冒険者達が進撃を抑えつつ攻撃するという流れは、ワーウルフの素早い動きによって撹乱され、連携を崩されつつあった。
「きゃああっ!」
「危ない! フリーズアロー!」
気がつけば隣にいた僧侶のお姉さんが巨大カエルにのしかかられていたので、胴体目掛けて氷の矢を飛ばし貫いた。彼女は無事だったからいいけれど、他の仲間達も次々に攻撃を受けている。かくいう僕もさっきからワーウルフにたかられて大変だったんだ。これだけ矢継ぎ早に襲われちゃうと、平原の時みたいに攻撃力を上げる魔法を使う暇がない。あれ使用する時無防備になっちゃうし。
右からも左からも一気に奴らは迫ってくる。僕は片方はスクウェア・ストーンで防ぎ、もう片方の剣は杖で防ぐ。やっぱり接近戦は苦手だったから、ヒヤヒヤしてしまう。
「たぁあっ!」
杖を振り回しつつ、発動させたウインドカッターは杖を噛み付いていたワーウルフを切断し、そのままもう一匹も切り裂いた。勇者パーティに在籍していた時に、ほとんどの場合自分の身は自分で守っていた。だからこのくらいなら何とかなる。
僕はその後もファイアボールやサンダーを使用して、一匹ずつ確実に仕留めていった。そういえば落ちゲーの積み上げについてだけど、この前ルルアから提案された方法を試している。画面の右端にクリスタルを積み上げつつ、左端にも積み上げてる。今までみたいに真ん中には積み上げてないんだ。
さすがは僕よりもランクが上の冒険者が多いせいか、当初押されてはいたものの、徐々に盛り返している。人間側は負傷者は増えているが、今のところ死者はいないように見えた。僧侶が要所要所で回復魔法を使用しているからだろう。
混戦は長く続くことになり、みんなに疲弊の色が見え始める。恐らくそろそろ魔力が尽きる人が続出してくるのではないかと思ったところで、ようやく最後のデストレントが崩れ落ちた。……と、思ってたのだけれど。
「やった。全部仕留めたぞ! 俺達の勝利だ」
一人の戦士が剣を天に上げて喜んでた。僕も一緒になって喜びたかったけど、遠くに何かが見える。
「ハアハア……。お、おい! あれ」
左肩を押さえていた武闘家っぽいお兄さんが平原の向こうを指さしてる。気がつくと、さっきよりも大群になったデストレントとワーウルフ、それからグリズリーの群れまで出てきちゃったんだ。まっずいよねこれは。
「や……やべえ。殺される」
前衛の人から絶望してる感ありありの言葉が聞こえて、僕は急いで駆け出す。今ならまだ距離は離れてる。落ちゲーの青クリスタルを右端の一番したにくっつけて、赤、黄色、緑、そしてもう一度青が消えていった。
『五連鎖! 攻撃力五倍ボーナス! 青オーラ発生! クリアポイント増加』
僕は誰よりも前に出て杖を向ける。側から見ればそれは自殺行為以外の何物でもない上に、今は止められる人もいない。でも大丈夫。このくらい相手と距離が離れているなら、何の気兼ねもなく一撃を見舞うことができるんだ。
「ボム!」
たった二文字しかない名前で、本来爆発系の最下位であり、威力としては心許ない初心者向きの魔法だ。でも、落ちゲーによって攻撃力を遥かに上昇させた今は、上位魔法をも凌ぐシンプルで圧倒的な破壊力となる想定だった。
魔物の大軍の少し手前に発生した小さな玉が、どんどんその大きさを増していく。恐らくは僕ら人間よりずっとずっと大きくなった光は、一瞬の静寂の後に大爆発する。
落雷よりもうるさい豪音と、視界のほとんどを埋めるような爆発が巻き起こり、衝撃がこちらまで飛んできて体を飛ばされそうになってしまう。
爆発によって生じた煙が過ぎ去った後、もう魔物達は影も形も残っていなかった。二百匹を軽く超えるはずの軍勢が、まるで夢だったみたいに消えている。大体想定どおりではあるんだけど……ヤバい! 効果ありすぎ!
っていうか僕、ヴェネディオ様のお屋敷前の土地を滅茶苦茶にしちゃった。冷静に考えるとまずい。まあでも、しょうがないよね。きっと事情を説明すれば解ってくれると思う……多分。
もう増援はなさそうだと安心していたら、今度はどういうわけか冒険者の皆さんに囲まれてしまう。みんな妙に興奮してるんだけど。なんだなんだ?
「な、なんて威力だよ。まるで化け物だ……」
「すげえー! アンタ一体何者だ!?」
「もしかして、SSRの魔法使いなの?」
「君のおかげで助かった! まじで殺されるとことだった」
みんなが一斉に話しかけてきたので、少しばかり面食らっちゃったんだよね。なんて答えたらいいのか分からないなぁ。僕は頭をかきつつ、
「いえ。僕はまだAランクなので」
とか答えて誤魔化そうとした。
「Aランクですって!? じゃあまだ新人ってこと!?」
今度は女賢者さんが口を大きく開けてビックリしてる。ますます居心地が悪くなっていたし、とにかくやるべきことは残っていたので、僕はいそいそと屋敷に駆けて行った。
しかしさっきの黒い影はなんだろう。きっと予告状を送りつけた犯人に違いないと思うけど、もし僕の仮説どおり魔物を操る力を持っていたとしたら、相当な使い手であることは間違いない。
僕は今まで以上に気を引き締めないといけないと思いつつ走る。まだ落ちゲーは左端が連鎖できる状態で積み上げてある。つまり体勢は整っている。
屋敷の中に入った僕は、大広間から奇妙な音がしたことに気がついた。
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