ギフト「落ちゲー」がウザいと勇者パーティを追放された魔法使い 〜でも実は最高のギフトだったので、幼馴染みと気楽に成り上がります〜

コータ

第1話 突然の追放

 僕の名前はナジャ。いたって普通の冒険者であり魔法使いだ。


 歳は十七で、冒険者としての活動歴はまだ一年くらい。使える魔法はファイアボールとフリーズとサンダー、それから石魔法のスクウェア・ストーンのみ。今のところ、魔法使いなら誰もが使えるものしかない。


 でも僕にはたった一つだけ、他の人とは違う大きな特徴があった。それはとても風変わりな『ギフト』を持っていること。


 冒険者には魔法やスキルといった特殊能力以外に、その人だけに与えられる恩恵のようなものがある。それこそが『ギフト』と呼ばれていて、誰しもが冒険者ギルドで登録した際にたった一度だけ授けられるワケだけど、文字どおり一回きりなので、変なギフトを与えられてしまってもやり直しはきかない。


 僕の授かったギフトの名前は『落ちゲー』っていうんだ。変な名前じゃないか?


 冒険者になることを夢見て、田舎で農業を営む両親と兄さんを説得し、肩で風を切る勢いで冒険者ギルド『あまかぜ亭』にやってきた。受付でにこやかに待っていたお姉さんに登録してもらった時、魔道具によって一度きりしかない女神の加護を行い、それで手に入れたのがこのギフトだったんだけど。


 僕はこのギフトを得たことで、自分を運のない男だと思い始めた。なぜかと言えば、このギフト『落ちゲー』は冒険者の中でも授かった人間は過去に一人もいないらしく、何一つ使用方法が解らないから。冒険者にはステータスカードっていう、あらゆる情報が載ってる便利なアイテムがあるんだけど、『落ちゲー』の説明欄は『???』という、何の説明にもなっていないものだった。


 でも悪いことばかりじゃない。ちょっとしたレアギフトを授かった僕を目当てに、何と勇者からパーティに誘われたんだ! あの時は胸が躍ったね。しかしながら、気分が高揚していたのはほんの数日しかなかったんだけど。


 僕をパーティメンバーに加えてくれたのは、アドルフっていう銀髪長身のイケメン勇者であり、歳は三つほど上で、最初は気さくなお兄さんだと思っていた。でも、このレアギフトが特に効果を発揮していないことに気がつき始めてから、少しずつ態度が変わっていった。そして決定的な日が訪れることになる。


 僕達はとある依頼を受けて、田舎町近くの洞窟に住み着いてしまったホブゴブリン達を退治することになった。メンバーは勇者アドルフ、女戦士ダクマリー、賢者ゲル、そして魔法使いである僕だ。初めに結論を言うと、戦闘慣れしているメンバーには、ホブゴブリン退治はそこまで苦じゃなかった。


 でも、違う意味で苦痛ではあった。肉体的と言うよりも、精神的に非常につらい一日だったことを覚えてる。洞窟内でホブゴブリン十数匹を相手にしていた時のこと。前衛であるアドルフとダクマリーが果敢に戦い、長髪と髭が似合うダンディー賢者ゲルは二人をサポートしている様子だった。僕はというと荷物持ちやたいまつ係をやりつつ、魔法を使って攻撃にも参加する。前衛に守ってもらうことを期待せず、自分の身は自分で守っていた。


 ダクマリーは肩まである血で染めたような赤い髪を揺らしながら、躍動感あふれる動きでゴブリン達を剣で斬りまくる。パーティで一番身長が高く、女性でありながらもしなやかな筋肉は一級品で、見ようによっては誰よりも強そう。


 僕もいつもどおりにファイアボールやサンダーといった魔法をゴブリン達に浴びせ、わりかしいい感じに戦っていたと思うんだけど、突然アドルフがこちらを振り返り怒鳴ってきた。


「おいナジャ! お前そこに浮かんでる変なもん消せねえのかよ!」


「あ! ごめん。前も言ったけど、消し方も解らなくて」


「いい加減にしろって! 気が散るだろーが」


 僕の少し前方、見上げるくらいの位置には奇妙な画面が表示されている。縦横どちらも人が二人分あるような大きさで、中には光のマスが表示されていた。そして上から、二つセットで色とりどりのクリスタルが落下してくるんだ。最初は、「うわー、綺麗じゃん」って感心したし、アドルフも面白がってくれたんだけど、今では戦うたびに舌打ちされる。


 ちなみにこの画面は僕が戦闘状態になると勝手に上空に浮かんできて、戦いが終わるか、二組で垂直に落下してくるクリスタルが積み上がり、一番上にくるまで消えることはない。落下してくることに何の意味があるのか、いまだに誰も解らない。更には、なんかリズミカルな音楽まで流れ始めるから始末が悪い。勘弁してくれ。僕のせいじゃないんだ。


 何だかんだで僕達は四人だけで、もしかしたら百匹近くはいたかもしれないホブゴブリン達をやっつけた。嫌な顔はされてるけど、魔法使いとしての役目は果たしていたと思う。多分一番敵を倒した数が多いのはダクマリーで、僕はその次くらいだろう。だから、決して悪いようにはならないと内心ホッとしていた。


 ◇


「なあ、冒険者ギルドで報告する前に話があるんだけどよ。いいか?」


 依頼をクリアしてギルド近くまで戻ってきた時、不意に先頭を歩いていたアドルフが提案してきた。何の話があるのか知らないけど、まあ気にすることもないだろうと思っていたんだ。だって今回の戦果は上々だったわけだし。


 向かった先は人気のない公園で、年季の入った木製のテーブルと椅子がある。僕とアドルフとゲルはそこに腰を下ろした。夕陽が嫌に眩しかった。でもなぜかダクマリーは近くにある砂場にしゃがみこんで、子供達が作った城をボーッと眺めている。無口な彼女は本当に何を考えているのか予想できない。多分僕は一生、彼女の考えを読むことはできない気がする。


「ナジャよお。今回のお前の働きっぷり、ぶっちゃけ自分でどう思う?」


「え? どうって……」


 開口一番に話を振られるとは思っていなかったので、この時はちょっと戸惑った。


「正直に言ってみ。別に怒らねえからよ」


 そう言いながら、何でそんなに顔をしかめてる? と聞きたかったが、軽口を言える雰囲気じゃなかったんだ。


「いや、特には。ホブゴブリンは沢山倒せたし、普通の成果かなーって……」


 賢者ゲルはアドルフの隣で黙ったまま腕を組み、じっとこっちを見て何か思案していた。もう三十代中盤くらいだけどかなり若作りしている。


「ふ・つ・う……だぁ? お前どう考えたって足りてねえじゃねえかよ!」


「え? あの。何がダメだったのかな」


 アドルフはホブゴブリンと戦っていた時よりも闘志を剥き出しにして、親の敵みたいに睨んでくる。焦りというか、なんだか不快な感覚が頭に充満してくるようだった。


「お前のあのワケわかんねえギフト! あれがうっぜえせいで、俺は戦いに身が入らねえ。本来ならもっと雑魚を殺していたはずなのによ。魔法使いの癖に、足引っ張ってばかりじゃねえか」


「ちょ、ちょっと待った! 僕は今回の戦いでもゴブリン達を沢山倒したじゃないか。どうして足を引っ張、」


「あのくらいの数であれば、他の魔法使いでも余裕でこなせるレベルだと思うがね」


 急にゲルが話に割って入ってくる。あなたはほとんど何もしてなかったじゃないかと、喉まで声がでかかったけど、言ったところでどうなることでもない。何だかどんどん劣勢になっている気がするんだけど、でもだからと言って、一体何処に話が向かっているのか見当がつかない。嫌な予感だけが膨らんでくる。


「そうだ! お前は現時点で、魔法使いとしては並だがギフトは全く役に立たねえ。どういうことか解るか?」


「……」


 ギフトについては僕も気にしていた。返す言葉が見つからない。悔しい気持ちが湧き上がってくる。


「それも説明しなくちゃいけねーなんてな。お前は本当に、頭の悪い馬鹿だよなあ!」


 約一年間も一緒に頑張ってきて、それなりに役に立ってきたっていうのに、こんなに思いきり罵倒してくるなんて。心の中に湧き上がってくる怒りを我慢できず、気がつけば僕も口を開いていた。


「馬鹿とは何だ! 今のは発言はあまりにも酷いじゃないか。一体さっきから何が言いたんだ」


「あ? なんだ? 逆ギレか? しょーもねーガキが。仕方ねーから教えてやるかぁ。お前はさ、役に立たないギフトのせいで将来性はゼロ。そして人一倍ウザってえだけ。お前は今回ホブゴブリンを沢山倒したとか抜かしてるけどな、あんなもん普通はもっとできるんだぜ。魔法使いの癖にあんなもんかよ。なあゲル、そう思うよな?」


「ああ、そうとも。私はあえて君に役割を持たせてあげたが、期待していたほどではなかったよ」


「ちょっと待ってくれ! アンタこそほとんど何もしてなかったじゃないか! 僕は、」


「あーハイハイ。もういいから。何をどう言っても、俺から見たお前への評価は変わることはない。自分が役立たずだってことも認識してなかったとはな。想像以上に無能な魔法使いだよ、お前は」


「いい加減にしてくれ。僕は無能なんかじゃない。確かにギフトは謎だらけだけど」


「そのギフトが一番気に入らねえんだって、さっきから言ってんだろうが! 謎だらけだけど、じゃねーよ! もうそれ以上ふざけたことを抜かすな。消えろ。お前を今日この場で、俺のバーティから追放する」

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