第28話 『デートプラン』掌握?

 ────遊園地 レストラン


 レストランの中にあるお店を巡りながら、茂木恋たちは昼食の品定めをしていた。


「カレー、パスタ、ピザ……うーん、天丼も美味しそう! 弟くんは何にする?」

「そうですね……今日は少し暑いですし、冷たいものがいいので」

「冷製パスタでしょ!」

「うっ……なぜ食べようとしていたものを」

「弟くんのことならお姉ちゃんなんでも知っているからだよ♪ というのは少し嘘で、弟くんの視線で分かっただけだよ! 弟くんがどこみてるのかなんて、お姉ちゃんにはバレバレなのだ〜」


 そう言って藤田奈緒は茂木恋の頭をワシワシと撫でる。

 身長差もあり、周りからは本当の姉弟に見えていることであろうが、彼らは普通にカップルである。

 彼らの出会いは、愛情は少々歪んでいるため、「普通に」というと語弊があるかもしれないが。


「それじゃあお姉ちゃんもパスタにするねっ! お姉ちゃんパスタは普段から食べてるし、結構好きなんだぞ♪ 安くてお腹にたまるから幸せだね!」

「悲しい理由だ……」

「悲しくなんかないんだゾ♪ 弟くんがうちに来てくれたら光熱費の都合でもっとお得にパスタが作れちゃうね! 弟くんはいつお姉ちゃんと結婚するの?」

「いきなり重くなった!? 結婚……結婚ですか……」

「ごめんね弟くん。弟くんには他にも彼女がいるから、こんなこと言われても困っちゃうよね! ちなみにお姉ちゃんはかえでちゃんが正妻で有紗ちゃんとお姉ちゃんが内縁関係ってことにするのが丸いと思うゾ♪」


 堂々と浮気相手宣言をする藤田奈緒に周りの目を気にする茂木恋。

 幸い、レストランには客も少なく見知らぬ男女の会話に耳を傾けているような人はいなかった。


「それでいいんですか? 奈緒さんだって俺のこと好きなんですよね? 俺も奈緒さんのことは好きですし……」

「もちろんお姉ちゃんも弟くんのことは好きだよ! だけど、お姉ちゃんの『好き』はもう恋人の粋を超えているのだ〜! たぶん、有紗ちゃんもそうだと思うんだゾ♪ それに」

「それに?」

「えっちな身体の愛人を外に作る男の人って多いってお姉ちゃんは聞くよ? 私たち3人だったら、ほら……ね?」

「あっ……言いたいことがわかってしまう自分が憎い……」


 藤田奈緒の胸元を見ながら茂木恋は罰の悪そうな表情になる。

 決して水上かえでに魅力がないとは言っていない。

 彼女は顔も良く、性格も……少し危なっかしい面があるのでハマる人はハマるものであり、茂木恋は彼女の良さをちゃんと認識している。


 しかし、スタイルの話をするならば、水上かえでは他2人のヒロインに比べ……貧相なのである。

 貧乳はステータスであるそうだが、同様に巨乳もステータスであり、後者を備えた人物を「エッチな身体」と形容する者は少なくない。

 つまるところ茂木恋はそっち側の人間なのであった。


 昼食がパスタに決まり注文を済ませる茂木恋たち。

 藤田奈緒が注文したボロネーゼが出来上がり、彼女は一足先に二階へと向かった。


「弟くん、さっきの席で待ってるからねー」

「はい。俺の方は少し長くなりそうなんで先に食べててもいいですよ」

「ありがと。でもお姉ちゃんは待つよ! ご飯はちゃんといただきますしないとダメなんだから♪ それじゃあねー」


 藤田奈緒に手を振り、彼女の姿が見えなくなる。

 見えなくなったのを見計らい、茂木恋はすぐさまスマホをポケットから取り出した。

 暇な時間にスマホゲームを始めるかと思いきや、彼は残念ながら暇ではない。


 彼にはやらねばならぬことが確かにあった。


「白雪さんと水上さん……どちらに連絡を入れるべきか……ここは普通に今日いる予定がなかった水上さんかな? 『水上さん、今日もマックにいる?』……これでよし」


 遊園地を回っているはずであるのに、結構な速さで水上かえでから返信がきた。


「返信早いな。なになに……『うん。茂木くん今日はバイトだったよね。もしかして今日マックこれる?』か。……なんで水上さんは嘘をついているんだ? これはまさか……挑戦されてる?」


 瞬間、茂木恋は確信に至る。

 水上かえでは茂木恋が今遊園地にいることを知っている。

 知った上で、探りを入れているのだ。


 ホラーは苦手であるが、こういった駆け引きは茂木恋は得意であった。


『バイトは午後からだから今は家にいるよ。ごめんね、今日はマックいけないや』

『そうなんだね。ところで、茂木くん家にいるなら、数学の課題写真で送ってくれない? 自分の課題が終っちゃってすることないし、明日茂木くんに解説できるかもしれないから』


 実物写真を送れと言われ一瞬ひやっとしたが、ここに来て茂木恋のずぼらな面が幸を奏した。


「くっくっく……水上さん、残念だったな。ラッキーなことに数学の課題も鞄に入れっぱなしだ! 写真を撮って……『今週の学校課題はこれだったよ。いつもごめんね。ところで今日は水上さん何飲んでる? この前マックで白玉ほうじ茶ラテが出たって話をしたじゃん? もしかして飲んでたりしないかなって』……これでよし。どう返すにしても今マックにいない水上さんは写真を送ることなんてできない。俺の勝ちだな」


 なんの勝負をしているのか不明であるが、勝利宣言をする茂木恋のスマホがすぐさま鳴る。

 メールの主はもちろん水上かえで。

 それには本来送ることができるはずもない写真が添付されていた。

 紅茶と一緒に勉強している風景までセットになっているではないか。


『今日は普通に紅茶飲んでるよ。写真を見てね。茂木くんお昼はまだかな? もし良ければ一緒にマックで食べない?』

「あっ、やばいこれは負けかもしれない」


 なぜマックの写真を送ることができたのかはさておき、一気に状況が危うくなった茂木恋。

 確かに今はお昼より少し早めの時間であり、なおかつ水上かえでのいるマックは茂木恋の家からもそこまで離れていないため、彼女の誘いを断る理由は見当たらなかった。

 素直に負けを認め、茂木恋は降参のメールを送った。


『俺の負けかな。水上さん、どうして今日遊園地にいるの? 明日がデートの予定だったよね』

『あっ、もう終わりにする? ううん、有紗ちゃんと相談して今日デートすることにしようかなって。ほら、茂木くん二回も遊園地いくの金銭面的にもいやでしょ? あれ、奈緒さんから聞いてない?』

『えええ!!!! いつの間にみんな仲良くなったの!? 俺できるだけ3人が接触しないように配慮してたつもりなのに!』

『ごめんね。それじゃあ、午後はよろしくね』


 いつの間にか仲良くなっていたヒロインたちに茂木恋は驚きを隠せずにいた。

 普通三股したら、いや三股に普通も何もないのだが、自分以外のヒロインたちとは敵対関係にあるべきであるのに、彼女たちはそう言った感情を抱いてはいないようである。

 何かとうまい具合に茂木恋というヒーローをシェアしているという感覚なのかもしれない。

 今頃の少女の恋愛観は進みすぎて茂木恋には理解が及ばなかった。


 3人がグルになっていた事実を胸に、茂木恋は冷静パスタを受け取って二階へと向かう。


 先ほどの席に藤田奈緒がニコニコ笑顔で座っていた。


「お待たせしました」

「ううん! 全然待ってないんだゾ♪ 待ってる時間に紙ナプキンで白鳥折ってたから!」

「3、4、5……って結構折りましたね……ってこれ箸置きになってる!?」

「パスタだからスプーン置きだね♪ お姉ちゃん手先が器用だから結構こういうの得意なんだゾ?」


 綺麗に並んだ鳥の形をした箸置きを2羽手渡され、茂木恋はとりあえずスプーンを置いてみる。

 箸置きの部分は紙を熱く重ねているためか、スプーンの重さにも余裕で耐える安定感があった。

 席につき、いただきますをする前に、藤田奈緒は思い出したかのように手を合わせる。


「そう言えば弟くん! ハーレムデートはしたことある? 不安だったらお姉ちゃんが付き添って上げてもいいんだゾ♪」


 藤田奈緒という女性の属性を茂木恋はすっかり忘れていた。

 彼女はストーカー系の病みヒロイン。

 3人のヒロインと順番に遊園地デートをするなどという情報はとっくの昔にお見通しであったのだ。

 屈託のないその笑顔を前に、茂木恋は今日一日藤田奈緒に弄ばれていたことを実感するのであった。

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