第15話 『妄想』享受?
────放課後 藤田書店
光琳高校の授業が終わり、藤田奈緒は自宅へと戻る。
裏口から入り二階に荷物を置くと、制服の上から彼女はエプロンをつけた。
バックヤードに届いている新刊をチェックし、納品書をファイリング。
段ボールから本を取り出して陳列作業に取り掛かった矢先、藤田奈緒は店内に見かけないバイトがいることに気づく。
否、見かけないというのは誤りであった。
確かにここ数年顔を合わせていないという意味では見かけないという表現が正しいのであろう。
毎夜毎夜、夢の中でであう少年が、店内の棚の埃はたきをしていた。
くりりとした丸い目、綺麗に真っ直ぐ揃えられた前髪。
後ろ髪も耳の下で揃えたいわゆるおぼっちゃまヘアー。
背丈は自分より低く、抱きしめたくなるような弱々しさを感じる。
彼はまさに、彼女が追い求めていた人物そのままだった。
藤田奈緒に気づいた彼は、控えめに手を振る。
「お姉ちゃんおかえりなさい。掃除は大体終わったよ」
「もしかして……レンくん?」
「お姉ちゃん、突然どうしたの? レンだけど……」
返答の途中で藤田奈緒はレンと名乗る少年を抱きしめる。
谷間に顔を埋めた彼は、息継ぎをするために顔を上げる。
目と目があう。
彼女の目には涙がたまっていた。
「ううん! 何でもないよ! お姉ちゃんちょっと今日変みたい! よーしお仕事がんばるゾ♪」
藤田奈緒は二の腕に逆の腕を乗せて力こぶを作るポーズ──任せてポーズでそう言った。
カウンターで本を読む父は、彼女の張り切る姿を見て、表情を引き締めた。
*
────藤田家 リビング
仕事も終わり、食卓を囲む3人。
先に仕事を切り上げた藤田奈緒は、ポテトサラダ、コロッケ、サラダ、茶碗蒸しを手際よく作り、そして昨日の残り物の煮物を温めた。
ほんのり湯気のたつ料理たちは、どれも彼女が腕によりをかけて作った逸品である。
「いただきます」の掛け声とともに、藤田家の夕ご飯の時間が始まった。
藤田奈緒は食事が始まったというのに、自分のご飯には手もつけず、隣に座るレンを幸せそうに眺めていた。
「レンくん、今日のポテトサラダはどうかな? お姉ちゃん、いつもよりいーっぱい愛情込めて作ったんだよ♪」
「うん。美味しいよお姉ちゃん。今までで1番美味しい」
「ん〜〜〜〜!!!! 嬉しいよぉ〜! レンくんはお姉ちゃんを喜ばせる天才だねっ♪」
「ちょっと、お姉ちゃん食事中だから抱きしめるのはやめて……」
ポテトサラダを食べている途中に抱きしめた結果、藤田奈緒のエプロンにはレンの口からこぼれたポテトサラダが付いてしまった。
ついたそれを藤田奈緒は指でちょこんと取ると口に運び「えへへ」と恥ずかしそうに微笑んだ。
焼いたベーコンが入った藤田奈緒特性ポテトサラダの味は絶品で、父も美味しそうに首を縦に振っていた。
「どれどれ……うん! やっぱり今日は上手に作れたかも! これもレンくんのおかげだねっ♪」
「でも僕何もしてないよ?」
「そんなことないんだよ〜? レンくんがいてくれるだけでお姉ちゃんは元気100倍なのだ♪ だから上手に作れたのはレンくんのおかげ♪」
レンは感動してか、俯き涙を流した。
それがおかしくて、藤田奈緒もつられて目を潤ませる。
今日は久しぶりの、家族水入らずの食事なのだ。
藤田奈緒はどうしてかここ数年弟と食事を取らなかったような気がしてならなかった。
それが何故かは分からないが、今この瞬間が彼女にとってかけがえのない時間であることは疑いようがないのであった。
その後も夕食は続く。
テレビで流れる野球の中継を見ながら一喜一憂し、レンはコロッケをかじった。
ポテトサラダのでる日の藤田家のコロッケは、ポテトサラダを揚げたものである。
衣をつけてあげただけだというのに、中身は同じだというのに、2つは全くの別物であった。
レンは茶碗蒸しを開けてみると、それは見慣れた薄い黄色のものだった。
スプーンで崩すようにして一口食べると、レンは驚く。
味がいいのもさながら、茶碗蒸しの味はレンがよく食べ親しんだものであったからである。
レンの好みの味であった。
「茶碗蒸しも美味しい?」
「うん。美味しいよお姉ちゃん。いつもの味」
「でしょでしょ〜レンくんはお姉ちゃんの味で育ったもんね〜♪」
「これからもいっぱい美味しい料理作ってね、お姉ちゃん」
「ん〜〜〜〜!!!! 作る! 作るよぉ〜! レンくんがお嫁に行ってもお姉ちゃん毎日レンくんのご飯作っちゃう! でもそもそもお嫁になんて行かせないゾ♪」
「あはは……いくならお婿さんかもね、お姉ちゃん」
「細かいことは気にしないんだゾ♪」
藤田奈緒はツッコミを入れる弟の口をコロッケで塞いだ。
レンの口に入れた箸を舐めとると、彼女は頬を染めて笑うのだった。
*
────藤田家 お風呂
食事が終わった後、レンは先にお風呂に入ることにした。
身体を洗って、銀色の浴槽に浸かっていると、扉がガラガラと開かれる。
夕食の洗い物を済ませた藤田奈緒が一糸纏わぬ姿で風呂場に入ってきた。
「レンくん一緒にお風呂入ろ♪」
「うん。いいよ」
レンは素直に頷く。
藤田奈緒はシャワーで一度身体を流した後、湯船へと足を入れる。
湯船に入ると、レンの身体を引き寄せて後ろから彼を抱きしめた。
「あー、レンくんの髪の毛良い匂い! もしかしてもう洗っちゃったの!?」
「うん。お姉ちゃんが洗いたかった?」
「そうだよ〜レンくんの髪の毛を洗うのはお姉ちゃんの役目なのに〜! お姉ちゃん悲しい!」
「だったらもう一回洗って、お姉ちゃん」
「えっ、良いの?」
「うん。やっぱりお姉ちゃんに洗ってもらった方が、綺麗になるから」
「もー! レンくんお姉ちゃんをそんなに褒めても何もでないゾ♪ 嬉しいから……ギューってしちゃお♪」
抱きしめる腕が強まる。
お湯の熱さも相まって、2人の身体の境界が曖昧になるのを感じた。
目の前にあった彼女の手を上から握ると、彼女は甘えるようにレンの方に頭をおいた。
しばらくそうしてイチャイチャした後、2人は身体を洗い合うのだった。
*
────藤田家 寝室
1日の日程が全て終わり残るは眠るだけとなった。
藤田奈緒はお姉ちゃんであり、お姉ちゃんは弟と同衾するのが常識であるため、当然寝室に布団は1つだった。
月明かりが差し込む寝室。
藤田奈緒は薄手のピンクのパジャマで、弟を布団へと誘った。
「ほらほら、レンくん一緒に寝よ! 明日の学校も早いから、お姉ちゃんと一緒に寝て疲れを取らないとだゾ♪」
「………………遠慮しておきます」
「ん? レンくんどうしたの? 体調でも悪い? 風邪だからお姉ちゃんにうつさないようにって心配してくれてるの? も〜レンくん大好き! そういう気遣いができるところも、カッコいいゾ♪」
藤田奈緒は立ち上がり、レンの手を取ろうとする。
しかし、それは弾かれた。
顔を上げると、そこにはいつもの可愛らしいレン──藤田蓮はそこにいなかった。
冷ややかな目を向けられ、藤田奈緒は後退りする。
「レンくん、どうして? どうしてそんな怖い目でお姉ちゃんを見るの? お姉ちゃん何か悪いことしちゃったかな? お姉ちゃん謝るから、機嫌直してよレンくん……」
「…………もうやめませんか」
月の光が登っていき、彼の顔が映される。
藤田奈緒がこれまでレンだと思っていたその男は────
藤田蓮の風貌をした、茂木恋を見て藤田奈緒は状況を掴めずにいた。
「藤田蓮くんはもうこの世にはいないんです。それは、奈緒さんが1番よく知っているはずです」
「お、弟くん!? ど、どうしてここにいるのかな? それに冗談はやめてよ〜レンくんは生きてるんだよ? ほらさっきまでお姉ちゃんと一緒に……」
「それは俺ですよ。今日学校早退して、美容院でカットしてきました」
「どうしてそんな嘘をいうの! レンくんは生きてるんだよ! あれ〜どこにいったのかなレンくん? お姉ちゃんと一緒にお布団はいろうよ」
朦朧とした意識で、覚束ない足取りで、彼女は藤田蓮を探す。
そして、部屋の隅に置いてあったドラゴン柄の抱き枕に抱きついた。
「ほら、レンくんを捕まえちゃったよ♪ 突然いなくなるんだからお姉ちゃん心配しちゃった!」
「…………やめてください」
「レンくん、ご挨拶は? この子は茂木恋くん。うちのバイトに来てくれてる子だゾ♪ レンくんと名前が一緒だね! それに歳も一緒なんだゾ♪」
「………………」
「だよね、だよね! すごい偶然だよね! お姉ちゃんもそう思うよ! だから絶対仲良くなれるってお姉ちゃん思うゾ♪ レンくんの友達第一号は君に決めたっ♪」
「…………奈緒さん、それは抱き枕です」
「弟くん変なこと言わないでよ〜! ほら、レンくんからも言ってあげてよ」
「だからそれは……」
「弟くん、せっかくレンくんがご挨拶してるのに『こんにちは』も言えないのはお姉ちゃん感心しないゾ。ほら、弟くんもご挨拶♪」
「俺は奈緒さんの弟ですか?」
「もちろん! だって弟くんは私の弟だから弟くんなんだよ♪ なになに、もしかして寂しくなっちゃった?」
「奈緒さんの抱いているそれは、奈緒さんの弟なんですよね」
「うん! レンくんはお姉ちゃんの弟だよ♪ お姉ちゃんの可愛い可愛い弟なの♪」
「じゃあ俺は何なんですか」
「だから弟くんはお姉ちゃんの弟…………あれっ?」
藤田奈緒の腕から抱き枕が溢れる。
痛々しい彼女の姿を見ていられない茂木恋は、歯を食いしばり堪えていた。
不意に、藤田奈緒の表情が青ざめる。
身体が小刻みに震え始め、両目の焦点が合っていないようだった。
「あれっ……レンくん? どこ行っちゃったの? レンくん……? もしかしてかくれんぼかな♪ お姉ちゃん負けないゾ♪」
「奈緒さん! いい加減にしてください! レンくんはもうこの世にはいないんです! 奈緒さんが抱きしめているそれは……レンくんの作った抱き枕です……!」
「……どうして……どうしてそんな酷いこと……酷いよ弟くん………!」
「奈緒さん……」
「………あっ! レンくん見つけた〜! もう、どこに行ってたの? お姉ちゃん心配したんだゾ♪」
藤田奈緒は顔色を変えると、今度は
「もう、急にいなくなるなんて酷いゾ♪ レンくんはいつでもお姉ちゃんと一緒なんだよ♪」
今の彼女の行動で茂木恋は事の全てを悟った。
何故、藤田奈緒が茂木恋をストーカーするに至ったのか、その謎への回答を彼は手に入れたのだ。
「そういう事だったんですね。俺がストーキングされていた理由がわかりましたよ。奈緒さん……あなたは俺をストーカーしてたんじゃない。レンくんをストーカーしてたんだ」
「レンくん? 何を言ってるの? でもお姉ちゃんはいつでもレンくんのことを見守ってるゾ♪ だって……お姉ちゃんだから♪」
「奈緒さんはバイト先に現れた年齢も名前も同じ弟の代用品を見つけて、彼をレンくんと重ねるようになった。そうした結果、普段妄想の中にいた弟が時折見つけられなくなったんです。だから、弟を追って、俺をストーカーするようになった。違いますか?」
「もー、レンくんったらそういうお話を考えたのかな? お姉ちゃんが昔から絵本を読み聞かせしてたからかなぁ? とっても面白いお話だと思うゾ♪ レンくんってば才能ある! お姉ちゃんも鼻が高いよ♪」
何を言われても彼女の耳には届かない。
都合の悪い話は聞き流し、あるいはいいように解釈し、藤田奈緒は己の心を防御した。
例え強い武器を持ってしても、彼女の牙城を崩すことは叶わない。
外からは決して侵害することのできない絶対無敵の妄想の砦。
今の彼女は、強固な壁で精神を覆う無敵の人だった。
しかし、茂木恋は諦めない。
彼は、藤田奈緒の抱擁の上から、さらに強い力で彼女を抱きしめた。
突然のことで、藤田奈緒は動揺し、その隙に耳元で囁いた。
「奈緒さん。俺は、奈緒さんに見てもらいたいです。レンくんとしてではなく、茂木恋という1人の男として」
「レンくん何を言って……」
「俺はレンくんじゃないですよ。俺の名前は茂木恋。藤田書店でバイトをしてる、聖心高校1年の茂木恋です」
「違う……違うよ! 君はレンくん! レンくんなの! どうしてお姉ちゃんを困らせるこというの! レンくん……レンくん……お姉ちゃんを置いて行かないで……どこにも行かないでよ……レンくん……うっ……ぐっ……」
嗚咽混じりに藤田奈緒は茂木恋の胸に顔を擦り付ける。
鼻水と涙が止めどなく溢れ、茂木恋のシャツを濡らした。
グシャグシャになった顔を上げる。
その目は、彼に弟の役を続けるように懇願する目だった。
茂木恋は彼女の頭を撫で、優しい目を向けた。
「レンくんはどこにも行きませんよ。ずっとこの家にいます。いつだって、奈緒さんのそばにいますよ」
「お姉ちゃんの……近くに?」
「はい。さっきの奈緒さんの言葉をここで持ち出しますけど、俺もレンくんに挨拶していいですか」
「レンくんに挨拶……?」
「はい。そして奈緒さんも……ちゃんとレンくんと向き合いましょう」
茂木恋は彼女の手を引くと、リビングへとやってきた。
そして、仏壇の扉へと手をかけた。
扉の中には、男の子の写真が飾られていた。
おかっぱで弱々しいその男の子は、藤色髪の快活そうな少女に頬擦りされていた。
その写真を目の当たりにし、藤田奈緒は後退りをする。
目を伏せる。踵を返す。
しかし、茂木恋は彼女をそうさせない。
肩を掴み、現実を直視させた。
「奈緒さん。お父さんから聞きましたよ。レンくんにお線香あげてないんですってね」
「それは……だってレンくんは死んでないから……」
「いえ、レンくんは死んでいます」
「そんなの嘘だよ! お姉ちゃんはそんなの知らない! 受け入れない! だってお姉ちゃんには見えるんだもん! レンくんはまだ死んでなんかいないんだから!」
受け入れられない現実を拒絶するように、藤田奈緒は茂木恋を突き飛ばす。
両手で目を伏せてしゃがみ込む。
都合の悪い言葉を拒絶する絶対防御の藤田奈緒の牙城を崩すのは、茂木恋の都合の良いセリフだった。
「俺は……それでもいいと思います。奈緒さんの目にレンくんが見えていたとしても、それでいい。それで奈緒さんの心が守られるなら、それでいい」
「弟くん……じゃあお姉ちゃんはどうしたら」
「レンくんが死んだ事実と、レンくんが見えると妄想……それを両立したっていいんです。だからレンくんと……ちゃんと向き合いましょう。お線香の1つもあげないのは、レンくんが可哀想だと思います」
そう言って茂木恋は蝋燭に火を灯す。
線香を1本取り、先端が赤くなるまで火につけた。
白い煙が立ち昇るそれをお香立てに立てると、合掌する。
「レンくんはなんって言ってますか?」
「えっ……?」
「お線香をあげなかったこと、怒ってませんか?」
「…………うん。……怒ってはないみたい。でも……あげて欲しいって」
「ではあげましょう。ちゃんと生前のレンくんの顔を見てあげてください」
茂木恋は仏壇の前から身を引く。
藤田奈緒は恐る恐る仏壇に近づき、顔を上げる。
写真を視認すると、彼女の瞳に涙が溢れ、こぼれ落ちる。
嗚咽混じりの鳴き声をあげながら、震える指で線香を取った。
ゆっくり、ゆっくりとそれを火に近づける。
煙が昇るそれを見た後、彼女は斜め上の何もない空間を見つめた。
「……ごめんね、レンくん。お姉ちゃんこれまでレンくんに冷たくしちゃって……これからは、毎日お線香あげるから……お姉ちゃんを許してね……」
虚空を抱く藤田奈緒。
お線香を立てて、合掌。
それは長い合掌だった。
これまでの時間を埋めていくように、彼女は深く、深く思いを念じるのだった。
祈りが終わり、藤田奈緒は充血した目で振り向く。
表情はまだ、悲しそうだった。
「弟くん……」
「奈緒さん。頑張りましたね」
茂木恋は彼女の髪を撫でた。
彼の手は温かく、優しく、藤田奈緒は思わず涙が溢れる。
「うん……お姉ちゃん……頑張った……頑張ったの…………ううっ……」
「今まで大変でしたね。たぶん、これからも頑張らないといけないと思います。だけど、奈緒さんはもう大丈夫ですよ。レンくんはいつでも、奈緒さんの近くにいますから」
「……ねえ、弟くん。今日は一緒に寝てもいい……?」
「いいですよ。今日は特別ですから。3人で寝ましょう」
「う……うん!」
こうして藤田奈緒は救われた。
弟の死を拒絶した彼女は、茂木恋の助けもあって、彼の死を受け入れた。
未だ、彼女の目には弟──藤田蓮が見えている。
しかし『死』そのものを受け入れた分、一歩前進したといったところであろう。
今後は、弟を追い求めて茂木恋を代償的にストーカーするようなことは起きないだろう。
茂木恋の日常が脅かされることもこれで終わりということである。
名残惜しいストーカーの温もりを全身に感じながら、茂木恋は瞳を閉じるのであった。
*
────早朝 茂木恋の自室
「おーい、もう朝だよー! 起きて起きて♪」
日曜日の朝は、大抵の高校生にとって重要な時間である。
一つはなんとか、二つはなんとか。
とにかく重要なものは重要なのだ。
茂木恋は月曜から始まる学校に向けて英気を養うべく、今日も今日とて11時までのおやすみコースに乗っていたところ、身体が何者かに揺すられる。
「……うーん、鈴。今日は日曜だぞ……」
「鈴ちゃんじゃないゾ♪ お姉ちゃんでした〜!」
「えええ!? 奈緒さん!? どうしてうちに!」
「お寝坊な弟くんを起こすのはお姉ちゃんの仕事だからだゾ♪ ほらほら、早く起きて!」
「起きます! 起きますから! 窒息する!!!!」
寝起きドッキリを仕掛けるお姉ちゃんこと藤田奈緒。
あいも変わらずグラマラスな彼女は、茂木恋の顔をその豊かな胸に埋めた。
朝一で酸素の供給を断たれた茂木恋は、抵抗しようとするがうまく力が入らない。
お姉ちゃんのハグから解放された後、茂木恋は彼女を見上げる。
今日の彼女はこれまで以上に、生き生きと、お姉ちゃんお姉ちゃんとしていた。
具体的にはお姉ちゃん力が高まっていた。お姉ちゃん力ってなんだ。
「奈緒さん、もうレンくんの一件には決着がついたんじゃないんですか!? どうしてまだ俺を」
「そんなの決まってるよ〜! 弟くんはお姉ちゃんの弟だからだよっ♪ レンくんはもちろん私の弟だけど、弟くんもお姉ちゃんの弟だもん!」
「えええええ! そんなのありなの!?」
「お姉ちゃん的にはありだゾ♪ いうならばレンくんはマイフェイバリットブラザーで、弟くんはマイスイートブラザーだねっ♪ 弟が2人に増えちゃって、お姉ちゃんこれまで以上にお姉ちゃんパワーで溢れちゃうよ! これからもよろしくね、弟くん♪」
茂木恋は背中を押されてベッドから起こされる。
せっかくの日曜日がこれでは台無しだ、などとそんな無粋な考えは茂木恋の頭からは吹き飛んでいた。
これまで以上に魅力的になったエセお姉ちゃんの満面の笑顔につられ、茂木恋も思わず笑みを浮かべるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます