58話 殲滅 そして
グレムリンの住処を突き止めた俺たち。
弱そうとはいえ、二十匹はいる魔族化モンスターと正面戦闘はしたくない。
そこで一計を案じた。
「オホホホホ! アタシを捕まえてごらぁん!」
けたたまし……魅惑的な美声を放ちながら、白馬に乗った美女が駆け抜ける。
その姿はまさに美の化身。
腰まで伸びたブロンドとバラのように赤い唇。
三日月のような眉毛をバチバチ瞬かせるさまは、オスの本能を否応なく刺激する。
完璧な仕上がりに俺も大満足だ。
「間違いなくグレムリン界一のプリティウーマンだぜ……」
「さすがに通常のグレムリンと
広場の様子を隠れて監視する俺とリゼルヴァ。
なぜだかリゼルヴァは不服そうだ。
こいつは男心を何もわかってない。
初めて見るからこそ心惹かれるのだよ。
『こいつ、今までの普通のオンナとは違う……おもしれぇオンナ』みたいな。
「というかフジミはああいうのが好みなのか……」
「それは断じてない」
「さすがに心配したぞ」
どういう意味だよ。
あくまでグレムリン目線に立って作り出した美女像がアレなのだ。
あれと乳繰り合えって言われたらアンデッドでも死ぬね。
作戦の第一段階。
『幻惑の杖』でフェロモンダダ漏れグレムリンに変身したドクンちゃんを乗せ、ホルンが敵をかく乱する。
言い換えれば陽動だ。
「ギキキィーー!!」
「ケケケキケッ!!」
沸き立つグレムリン雄(推定)たち。
ど派手な登場とビジュアルに男子の視線は釘づけだ。
「ほら大成功じゃん」
「……そうだな」
なぜ複雑な顔?
ともかくこれでグレムリンたちの警戒心は薄くなった。
リゼルヴァと手分けして次の工程を済ませておく。
陽動の目的は第二段階の作業に気づかせないためだ。
幻惑の杖の効果が切れる前に手早く事を済ませなくては。
……第二段階の作業が終わったらいよいよ仕上げだ。
俺、リゼルヴァ、そして『仕込み』が配置についたのを確認し、トリスケへ指令を飛ばす。
グレムリンの住処上空へ羽ばたくトリスケ。
間抜けなことにグレムリンたちは未だ白馬の美女を追いかけまわしている。
「よし、発射」
「ギギグエエエエ!」
そして容赦なく吹きつけられる石化ブレス。
灰色の煙がグレムリンたちを覆っていく。
ホルンは巻き添えになる前にさっさと森へ逃げ込んだ。
元コカトリスのトリスケは強力無比な呪いの息を吐く。
これによりゴブリンなら約10秒で石化する。
石像を砕いて初めて経験値を獲得できたことから、石になっても死亡扱いじゃないらしい。
石化する前なら女神像の効力で無効化できるものの、完全に石化した場合の解除方法は不明。
「つまり事実上の死だな、グッバイ」
進化を重ねるたびに、力をふるうことがどんどん楽しみになっている。
戦うまでは殺したくない気持ちもあったのだが不思議なものだ。
精神構造がアンデッドに寄ってきたのかもしれないな。
「キッ!? キキー!」
ようやく異常に気がついたか。
何匹かが石を上空へ投擲するが効果は薄いぞ。
おっと道具を取り出した奴らがいる。
弓矢と、ひも状の投石器――スリングか。
やはりゴブリンより賢いらしい。
石やら矢やらが当たったところでトリスケに支障はない。
このまま石像展覧会にしてやる。
「ギュルル!」
と、杖を持った数匹が現れひと際おおきく鳴いた。
直後、杖の先端から火球がほとばしりトリスケへ飛翔する。
まさか魔法が使えるのか!?
「ギグエ!?」
<<スケルトンコカトリス HP72%>>
よけそこねた一発がトリスケに直撃し、態勢が崩れた。
致命傷にはならないが、あまり悠長にやってられないダメージだ。
魔法を使ってくるのは想定外だった、フォローに入らねば。
「”シャドースピア”!」
「”ファイアボルト”!」
俺とリゼルヴァが遠距離攻撃でちょっかいをかけ、標的を分散させる。
トリスケはブレス続行だ。
飛んでくる火球をさばきながら、タイムリミットを待つ。
「イキキッー!?」
「はじまったか」
ついに数匹のグレムリンが石像と化した。
石を投げつけるポーズのまま、自らが石になるとは。
仲間の変貌に他のグレムリンたちはようやく煙の正体を悟ったようだ。
大半のグレムリンが逃げ出すように広場から散っていく。
途中で石造と化すものもいるが、少ないない数が森へ逃げてしまう。
「さあ、働きぶりをみせてみろ」
「ギャン!?」
茂みへ駆け込んだ一匹が弾かれたように広場に戻ってきた。
続いてあちこちで同じ現象が起きる。
グレムリンに続いて広場へ現れたのは大柄な土人形、クレイゴーレム。
その正体は第二段階で仕込んだ助っ人だ。
以前に族長からもらった『ゴレーム作成のスクロール』を使ったのである。
身長180センチのずんぐりしたゴーレムたちが壁となり、グレムリンたちを石化ブレスから逃さない。
俺、リゼルヴァ、ドクンちゃんも同じく包囲する役割を担っている。
「”アイスエッジ”!」
おっ、やってるやってる。
いま聞こえてきたのはドクンちゃんの氷魔法だ。
『統率』スキルで『氷魔法Lv1』をシェアして使わせているのである。
『アイスエッジ』は基本的な氷の攻撃魔法で、ツララを飛ばすシンプルな呪文。
最近あの子影薄かったからね、戦闘手段が増えて何よりです。
パニックに陥ったグレムリンたちを押し戻し次々に石化させていく。
魔法を唱える奴らも、すぐに口を開けなくなった。
少しの打ち漏らしはあったかもしれないが、ほとんどのグレムリンはポーズの多様な石像へ姿を変えたのである。
石像から例の魔族化黒スライムが生えてくる気配はない。
試しにひとつ蹴り砕いたところ、破片と一緒に黒い霧が立ち昇って消えた。
魔族化オーガを倒した時の現象と似ている。
もしかしたら肉体が停止されると、魔族化部分も活動できなくなるのかも。
すべてが終わったころ、ゴーレムたちは音もなく土に戻った。
ギリムのウッドゴーレムと違い、永続的に仲間にできるわけじゃないようだ。
帰ったら詳しく聞いてみよう。
俺たちは広場の異様な光景を前に一息ついた。
「マスターおつかれー」
「おぅ、おつかれ。ナイスアイスエッジ」
ホルンに乗ったドクンちゃんが合流した。
変身はとっくに切れ、元の心臓丸出しフォームだ。
「不死者らしい実に汚い策だったな、うまくいくとは意外だったぞ」
「……誰かさんも似たような手にひっかかった実績あるからね」
「なんだと?」
鼻息荒くするホルン。
ドクンちゃんを美女にして隙をつく、ってまんま同じ作戦で捕まえたからね君のこと。
騙されるほうが悪いのだよ……くくく。
「まあ上手くいったのだから良いだろう。フジミもあまり聖獣を粗末にすると女神の罰が下るぞ」
仲裁に入るリゼルヴァも安心した様子だ。
これで心おきなく一族の宝を探せるというもの。
「女神の罰ならもう喰らってまーす」
転生して使い捨てられた結果ここにいる俺です。
さあ、いよいよ本題のお宝探しだ。
宝が見つかればリザードマンのみんなは大喜びだ。
俺の像が建つかもしれんね。
そんなことを考えた矢先。
石畳の一つが音を立ててスライドした。
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