28話 宴と余興
やたら広い森林部屋を進む俺たちは、ヒドラプラントの不意打ちを受けた。
しかし強化されすぎたパーティーは難なく返り討ちに。
快勝を讃えあったそのとき、目の前に一人のリザードマンが現れる。
俺たちを見て逃げ出したリザードマンを迷わず追跡。
その果てに待ち受けるのは――
「ウェーイ、かんぱーい!」
「シクコココ!」
宴である。
彼らの言語は未履修だが、たぶん乾杯と言ってるんだろう。
両隣のリザードマンと杯を合わせると、一気に酒を流し込んだ。
乾いた体にアルコールが染みる……!
どろりとして癖のある喉ごし。
異世界の飲み物を始めて飲むが、意外といけるな。
森の奥には湖と、それを囲む小さな村があった。
一人の長を中心としたリザードマンたちの住処だ。
族長の家の前で俺たち客人をもてなす宴が開かれていた。
「いい飲みっぷりですな、マミー殿」
唯一言葉の通じるリザードマン――族長とも飲み交わす。
「俺の腹は底無しだからね!」
包帯をまくって腹を見せれば、そこには骨しかない。
酒の力かアンデッドジョークはドッカンドッカン場を沸かしていた。
族長が俺に向き直って頭を下げる。
老いて千切れたトサカが揺れた。
「このたびは、本当にありがとうございました。怪我人も先ほど目を覚ましたようです」
「いいってことよ、あれくらい朝飯前さ」
俺たちが歓待されている経緯はこうだ。
ヒドラプラントを倒した直後、一人のリザードマンと遭遇した。
俺たちから逃げた彼を追ううち、たどり着いたのはなんと二匹目のヒドラプラントだった。
そいつはリザードマンの集団と交戦真っ只中。
どうやら先のリザードマンは、ヒドラプラントにビビって逃げて出したらしい。
言葉も通じないし警戒されていた俺たちだが、加勢して敵を倒すとリザードマンたちの態度が軟化した。
怪我人に『木彫りの女神像』を貸してやったらメチャクチャ喜ばれ、この村に案内されたのである。
「オゥ……いいぞ、実にイイ……」
恍惚とした表情を浮かべているのはユニコーンのホルンだ。
リザードマン美女(?)に撫でられながら草をもしゃもしゃ食べさせてもらっている。
あいつはリザードマンの美醜が分かるらしい。
(みんな同じ顔じゃね……)
ユニコーンのストライクゾーンは相当広いと見える。
「もっとよ! もっと持って来おい!」
邪悪なおっさんのように料理を貪るのはドクンちゃんだ。
魚や果実を焼いただけのシンプルな品々だが、たしかに美味い。
焼き魚を食べるのも異世界じゃ初めての経験だ。
向こうではスケルトンズが水洗浄されている。
リザードマン三人がかりで拭いてもらっているが、みなさん及び腰だ。
俺が命令しない限り直立不動だけど、コカトリスの威圧感は相当だろう。
宴を楽しむメンバーたちを微笑ましく眺めていると、一人のリザードマンが近づいてきた。
多くが暗褐色の鱗をしているなかで、彼は鮮やかな赤みをまとっている。
革鎧と槍を身につけていることから戦士なのだろう。
「紹介します、これはリゼルヴァ。村一番の強者です」
「村一番の強者でた!」
お馴染みというかもはや死語ではなかろうか。
リゼルヴァというリザードマンは族長に一礼すると、俺をぎろりと睨んだ。
表情は読み取りづらいけど、ひょっとして嫌われてます?
「リゼルヴァはあなたに最初に出会った者の身内です。あなたに礼を言っています」
「それはどうもご丁寧に」
会釈する俺。
あれっ、普通に礼儀正しい人?
「ついてはあなたに手合わせを申し込みたいとのこと。いかがでしょう、マミー殿」
「そっちが本題か」
あー、あれだな。
身内が一人ヒドラプラントから逃げ出したことを恥じてるパターンのやつだ。
一族が俺に舐められないために勝負を挑んできたんだろう。
どうしよう、そうなると忖度して負けてあげた方がいいのだろうか。
もてなしにもてなされちゃってるもんなぁ。
迷っている俺にしびれを切らしたのか、リゼルヴァが畳みかけてきた。
それを族長が訳してくれる。
「フィシシュー、レココスルク」
「『私はレココ五匹を飼った、相手として不足はない』」
「レココが分からんて」
「スククレケケグ、ケ」
「『来いよマミー、武器なんか捨ててかかってこい』」
素手ルールなら流血沙汰にはなるまい。
「上等だ、素手で相手してやるよ」
「シエックル……!」
「『骨と皮だけのモヤシ野郎。優しさと迎合主義を履き違えた腰抜けエターナルゴマすり童貞め。あとハゲ』」
「急にアタリ強いね!?」
尺おかしくない?
あと髪がないのはリザードマンも同じだろ。
「マスターかましたれー!」
ドクンちゃんの激励が飛ぶ。
族長の意図がたぶんに含まれている気がしたが、周囲はすっかり盛り上げムードだ。
こんな環境だ、娯楽もないのだろう。
「後悔すんなよ」
俺が腰をあげると、歓声とともに皆がスペースを作った。
リザードマンに囲まれた円形の決闘場。
無数の黄色い瞳が熱い眼差しを浴びせてくる。
「準備はよろしいですかな」
族長が審判をやるようだ。
リゼルヴァを全くたしなめない辺り、この爺さんも喧嘩好きと見える。
謎のマミーこと俺、レベルは27。
対峙するのは村一番の勇者こと、リゼルヴァ。
尻尾を地面に打ちつけて、気合い十分な様子だ。
見た目は赤いだけのリザードマンだが実力はいかに。
<<Lv37 種族:亜人 種別:リザードマン>>
なるほど、他のリザードマンより頭ひとつ抜けたレベルだ。
Lv30を越える者は少数だったからな。
素手で戦うのって初めてだ。
拳を構えた俺はリゼルヴァと向き合った。
「では……はじめっ!」
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