第21話 贈り物ですわ

「プレゼントって修羅場よね?」

「何の話だ」


 昼食過ぎの食休みタイム、シュエリアは急にどうでもいい問いを投げかけてきた。


「プレゼントって何を渡すか迷わないかしら?」

「まあ分からないではないが。誰かにプレゼントするのか?」

「しませんわ?」

「じゃあなぜこの話題が出てきたんだ……」


 久々に意義のある会話かと思いきや、相変わらずの無駄話だったようだ。


「なんとなくですわ」

「さいですか」

「さいですわ」


 まあ、コイツの言葉には意味なんてほとんどないもんな……。


「で、プレゼントって迷いますわよね?」

「一口にプレゼントといっても色々あるだろ、ログボとか、メンテ詫びとか」

「そんなソシャゲ限定なプレゼントじゃなくて、誕生日プレゼントですわ?」

「なんで誕プレ?」

「なんとなくですわ」

「お前そればっかりだな」


 まあ、それでも俺も暇だから付き合うんだけどさ。


「でも誕生を祝うんだから、それこそ、気持ちでいいんじゃないか?」

「いえ、だからこそでしょう?」

「そうか?」


「贈り物は気持ちが大事、それは同意見ですわ。でも、だからこそ。プレゼントは送る側の気持ちを物質化した代弁者ですわ?」

「そんな大げさな……」


 まあ実際、プレゼントを貰うと一瞬とはいえ、値段などが気になる人もいるのではないだろうか。

 俺は貰ったのが全部姉さんからだから気にしたことは無いが。


「例えばですわ? 女性に痩せると噂のサプリとかを贈るのはどうですの?」

「そりゃあ……痩せろとストレートに言ってるようなもんだな」


 送る側は善意だろうが、贈られる側は微妙な気持ちになることだろう。


「もしくは美肌類の化粧品とか」

「それは別に喜ばれるんじゃないのか?」


 俺は女性に送り物したことないし、されても男だから女性の気持ちにはなれないが、美容品は消費物だし、ある分には困らないのではないだろうか。


「深読みすれば、美容に気をつかえ、このブサ面が! ってならないかしら?」

「そんな気持ちでプレゼントする奴いねぇよ!!」

「そうですの?」

「そうですよ……」


 なぜこいつはそこまで穿って物を見るのだろうか。

 極端すぎて発想がおかしなことになってやしないか。


「じゃあダンベルはどうですの?」

「そもそも誕プレにダンベルがセンスなさすぎるが……まあ人によっては嬉しいのかもな」

「相手がもやし野郎でも?」

「ま、まあ……いいんじゃないか?」


 正直もやし君がダンベルもらっても使うかどうかは微妙だが……まあ他の露骨に意図が読めるものより幾何かはマシかもしれない。


「ユウキはないんですの? 何か案は」

「俺か? そうだな……CDとか?」

「萌えアニメの?」

「いや、普通にクラシックとかだよ」

「つまらないですわね」

「せめて無難と言ってくれ」


 というかつまるつまらないでプレゼントっていうのはどうなんだろう。

 サプライズ感があればいいって話だろうか?


「というか、事前にリサーチして相手の好みに合わせたものを贈ればいいんじゃないか?」

「でもそれだと好みに合わせた結果、ほかの友人とプレゼントが被ったり、最悪本人がもうすでに所持している可能性だってありますわ?」

「まあ、確かにな……」

「かといって被らないようにしようとすれば変に深読みされる可能性があるアイテムをプレゼントしてしまう可能性が……」

「誕プレってめんどくさいな……」

「でしょう?」


 実際そこまで気にする人はいないだろうが、それでも渡す側には相応のプレッシャーが生じる。

 値段を明確にせず……もらっても困らない……。

 現金はあからさまに数字が出てしまうから駄目だ……ということは。


「純金が最適解か?」

「どうしてそういう答えになるんですの……」

「比較的に安定した資産として所持できて換金すれば欲しいものに変えることもできるだろ?」

「まあ……そうですわね?」

「だから見た目にも美しいし、非常に合理的なプレゼントだと思うわけだ」

「まあ、現金よりはマシかしらね、価値も多少なりとも上下するから明確な数字で価値を測りにくいし」

「つまり誕プレは純金だな」

「ですわね」


 と、誕プレの話がまとまったと、そう思った時だった。


「駄目ですよ兄さまっ、それはプレゼントとしてダメダメですっ」

「ドン~引き~です~」


 我が家のメンバーがシュエリアの部屋に入って来るなり、酷評してくる。


「でも金なら外れないだろ?」

「センスが並外れてます! 悪い意味でっ」

「わたしなら~いらな~いですね~」


 むむぅ……ならいったいどんなプレゼントならいいのか。


「なら、アイネなら何をプレゼントする?」

「そうですね……手料理でしょうか? 形には残りませんが心はこもっていると思いますっ」

「なるほど……」


 確かに残らないものだが、気持ちは十分に伝わりそうだな……。


「トモリさんはどうですか?」

「そう~ですねぇ~――形に残る手作りのプレゼントでしょう、か~」

「魔王なのにですか?」

「はい?」

「な、なんでもないです」


 まさか魔王から一番乙女チックなプレゼントが出てくるとは思わなかった……。

 スタバの件も合わせると、この魔王、実は一番女子力あるんじゃなかろうか。


「これがシュエリアと女子の差か」

「サラっとわたくしを女子から外しやがりましたわね」

「プレゼントに純金だしな」

「それ貴方の意見ですわよねぇ?!」

「でも乗っただろ?」

「のったけども!!」


 シュエリアは声を荒げると身を乗り出して抗議してきた。


「まあ純金は俺の案でいいとしても、お前さっきまでダンベルとか言ってなかった?」

「……っ、確かに言いましたわね」

「純金よりはアウトだと思う」

「両方無いですねっ」

「ない~ですね~」

『ぐぅっ』


 アイネとトモリさんの集中砲火に唸る俺とシュエリア。


「さ、さっきのはちょっとしたおふざけですわ……わたくしだって、ちゃんと考えれば女子らしいプレゼントの一つや二つ……」

「ほう、なら聞かせてもらおうか、女子らしいプレゼント」

「……そうですわね……わたくしとのデート権とか?」

「マイナーファンには人気あるかもな」

「マイナーキャラ扱いですの?!」

「だって色物だしなぁ」

「ぐぬぬ……」


 マイナー色物キャラ扱いされたシュエリアは、何とか挽回しようと新たな案を考えているようだが、別に、そこまでプレゼントのセンスにこだわる必要もないのでは、とは思う。

 最初から話に出てはいたが、そもそもプレゼントは気持ちの問題だ。

 たとえ誰かと被ろうとも、本人が持っていようとも、それでも、相手のことを考えて送った気持ちは無駄にはならない、ハズだ。


「そんなに無理して考えなくてもいいんじゃないか? どうせ誰かに贈るわけじゃないんだろ?」

「それは……そうですわ? でも矜持というものがありましてよ?」

「現代日本で矜持なんてほぼ死語だけどな……」


 俺の言葉に納得いかないのか、それでも「んーんー」とうなるシュエリアにトモリさんが言葉をかけた。


「シュエリア~さんなら~自虐~ネタ~などどう~でしょう~」

「お笑いですの?」

「シュエリアさん~面白~いですから~」

「その面白いはいい意味ととらえますわよ?」

「はい~」


 トモリさんの笑顔に明らかに裏を感じるが、ここは見守ろう。面白そうだし。


「どんなネタがいいかしら?」

「そうです~ね~……。まな板をプレゼントするといいのではないでしょう、か

~?」

「あぁ……ふふふ、そういうことですのね?」

「はい~」

「戦争ですわね」

「待て待て待て!」


 トモリさんの貧乳いじりにキレかけるシュエリアを俺は必死に止めた。


「まな板はどうかと思うが、ネタを披露するのはシュエリアらしいんじゃないか? 面白いこと好きらしさが出てると思うぞ?」

「……うーん……そうかしら?」

「そうそう。宴会芸レベルで」

「それ下らない奴じゃない……」


 そういって不満そうな顔をするシュエリア。

 むしろその下らなさがコイツらしさだと思うんだけどなぁ。


「そういう意味で言うならユウキも同じですわよね。わたくしとこれだけ波長が合うんだもの」

「つまり……コンビ結成?」

「ですわ?」

「わ、わたしもやりたいですっ」

「トリオ~ですか~」

「トモリさんはやらないんですかっ?」

「下らないので~」

「さらっと毒吐きやがりますわね……」

「さすが魔王」

「お笑いに厳しいですっ?」


 まあ正直、コンビ結成は冗談なのだが。

 アイネはとりあえず俺と一緒がいいようだ、かわいい妹である。


「冗談はさておき、プレゼントは気持ちってことでいいと思うぞ」

「急に話まとめに入りましたわね」

「でも実際、万人受けするプレゼントってないだろ? やっぱ気持ちだよ」

「気持ちねぇ……肩叩き券?」

「小学生か」

「難しいですわね?」

「詰んだな」

「あらぁ~」


 俺とシュエリアがプレゼント案に難航している間、トモリさんはシュエリアの隣であらあら言っている。

 アイネは俺の膝の上でごろごろしている。

 うーん、ここは二人にももう一度案を聞いてみるか。


「そうだ、アイネなら俺相手になら何をプレゼントする?」

「う?」


 俺は一旦万人受けするプレゼントはやめて特定の誰かに絞った場合の意見を聞くことにした。

 シュエリアもそれには文句はないようで興味深そうに聞いている。


「うーん。10分間もふもふし放題券でしょうかっ」

「神対応かよ」

「相変わらずアイネに激アマですわね……」


 俺の評価に納得いかなかった様子のシュエリア。

 でも実際10分もふもふはかなり魅力的だと思う。


「じゃあシュエリアなら何くれるんだよ」

「新発売のゲームかしら」

「案外悪くないな」

「でしょう?」


 そういって胸を張るシュエリア。

 いや、別にそこまでドヤるほどでもないんだけど。


「トモリさんは……」

「そうです~ね~、わたしは~手料理~でしょうか~」

「一番女子ですね」

「そう~ですか~?」

「えぇ、魔王とは思えないです」

「あらぁ~」


 トモリさん天然だし、実は飯マズ属性かもしれないけど。でも内容だけ聞けば一番女子力高そうではある。


「で、ここまで聞いたからにはユウキ? どのプレゼントが一番いいんですの?」

「ん? そうだなぁ……」


 アイネをもふれる権利は確実に有用でお得感はあるが実際のところいつもしている気もするので実は特別感は余りない。

 新作ゲームのシュエリアはおそらくマルチプレイゲームを買って一緒にプレイ込みのプレゼント内容だろう。

 これに関しては若干ゲームの当たりハズレもあるが楽しそうではある。

 最後にトモリさんの手料理、これはさっきも言ったが飯マズの可能性もあるわけで……。


「一番とかないな。プレゼンとはどんな形であれ嬉しいし」

「出ましたわね、無難かつ面白くない答え」

「ここでも面白さ重視ですか」

「ですわ」


 プレゼントで面白さって言ったら、じゃあ、やはり……。


「シュエリアの一芸を見せてもらうとか?」

「どうしてそうなるんですの?」

「面白そうじゃん」

「それ絶対違う意味で言ってますわよね!?」

「滑稽的な?」

「よし、締めますわね」

「話を?」

「そうね、話と、ユウキもですわ?」


 そう言って俺を締め転がそうとして来るシュエリア。


 そして、後日。


 プレゼントは気持ちが大事と決めたシュエリアから大量に「一緒にやりたいゲーム」を贈られ、しばらくはそれに付き合わされることになった。

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