地獄に祈れ。天に堕ちろ。:第1巻特別一挙掲載
九岡 望/電撃文庫・電撃の新文芸
プロローグA 死神
『──さあ今夜も始まりました
十月二十四日、
別に夢遊病くらいで刈りゃしねぇよと思いながら、ミソギは車を運転している。
月が二つとも出ているから、今夜は明るい。
「確かこの辺なんだが……お、こっちか」
無料案内所、写真見学無料、コンパニオン募集、生死不問。ギラギラ光る看板の向こう、通りのどん詰まりに目的地はあった。
うわめんどくせ。
どうもそれなりの警備体制を敷いているらしい。入る
ミソギはスマホにインストールされている「
名指しのターゲットは一人。もたもたしている時間は無いわけで、軽くため息をついた。
「──しょぉがねえなっ!!」
一転、ぶち抜く勢いでアクセルを踏んだ。
急加速。レイスのツインターボV型12気筒エンジンが
立ち込める煙の中、ミソギは下車して店内を見渡した。
「ちーっす。お届けものに来ました~」
中にいるのは三十人ほど、うち半分が屈強な用心棒、あとは客だ。全員
「困るよお兄さん。ちゃんと順番守ってくれなきゃあ」
そんな中、奥のボックス席の男が、わざとらしいほど温和に声をかけてきた。
ミソギは深く
「
「そうだよ。そういうお兄さんはどこの誰様?」
「の前に、見せときたいもんがあってさ。これあんたんとこの道具だろ?」
ポケットから取り出したものを床に投げる。空っぽになった、ハンディサイズの吸引機である。
「路地裏に転がってたガキのだ。慈善事業ってのは、子どもまでヤク
麻薬である。それも新型の。
集まる客は全員これ目当てだった。
「ガキったってどうせ死んでるでしょ? 現代社会に居場所がない
「ものは言いようってか、
「あはは、かもねぇ。──んじゃさ、暴走運転とお節介は何回死んだら治るのかな?」
狙いは容赦なく眉間。問答無用でまず脳みそをぶち
がぎんっ! ──と甲高い金属音が重なり、ミソギが顔の前に掲げた右手を開くと、握り潰された弾丸が落ちた。彼の
「さぁな。お前らみてぇなのが一人残らず消えたら、治るのかもな」
ミソギはコートのフードを取り、顔をあらわにした。
意外なほどに若い。せいぜい十代の後半というところだろう。何より目立つのは、右が真っ白・左が真っ黒という特異な髪色。右側の目には眼帯を着けており、残った左目が自分以外全員敵のレストランを
相手もとっくに動いている。黒服どもが銃を構え刃物を抜き、客のヤク中は泡を食って逃げ惑う。
「……待てよ。お前、その姿は……」
半分白髪の眼帯男。真っ黒い車を乗り回し、異様な両手両足を持つ──金属質で、しかし生物的で、まるでそれ自体が武器であるかのような。
死者の裏社会でまことしやかに
「お前、『死神ミソギ』か!?」
「……いやその呼び方やめろよ」
ちなみに当人は、そのあだ名が心底嫌いである。
数分後、店内には黒い灰が漂っていた。
立っているのはミソギと
「は、はは……まさか本当に死神なんてもんがいたとはな……」
胸倉を
「そ、そうだ、取引をしよう。俺が仕切ってるシマの半分をあんたに任せる! もちろん上には内緒だ。アガリも結構なもんなんだぜ? どうせあんたも金の
「神も仏もいやしねぇよ。地獄に祈りな!」
ずんっ!!
瞬間、
ミソギはスマホのSNSアプリを起動、デフォルメされた
▼ミソギ:お疲れさんです。こっちは済みました。
▼えんま:写真をくれ。現場の状況を確かめたい。自撮りで。
現場はともかく自撮りは面白がってるだろ。雇い主の要請とあらば嫌とも言えず、ぐちぐち文句を垂れながら従った。果たして地獄絵図が撮れた。
と、もう一人。
「……げっ心霊写真」
隣で薄ぼんやりした女がピースしている。こんな
慌てて振り返ると、いつの間にかいた幽霊がぶわっと逃げた。
空には白と赤の二色の満月。壁の穴から飛び出した幽霊は、
ここは日本、
死神・
好きなものはカネ、嫌いなものは聖職者。飯の種は地上をそぞろ歩く犯罪者どもで、中でもとびきりイキのいい死者を探している。
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