神授童

晴れ時々雨

🐟

今年の夜祭はなんだか特別楽しいから門限を決められなかったのは嬉しかった。金魚すくい屋の前にしゃがむとおじさんがポイをくれた。財布を探るとおじさんは僕の手を止め笑顔で首をふる。「1匹だけ」そう言われたので青い金魚に狙いをつけた。青く光る金魚はポイの上で跳ねた。

帰り道、人だかりが僕をよけ参道に道ができる。それは真っ直ぐお社に繋がり、本殿への階段の下に紫色の神官装束の男の人が二人、深く頭を垂れている。それは僕を待っているようだった。恐ろしくも胸が高鳴り、知らず知らず近寄ると本殿の扉が開いて風が吹いた。甘い花の匂いがした。あそこへ行くとどうなるのだろう。母さんに帰りの時間を聞かれなかったのは、僕がこうなることを知っていたからだ。

手に握る金魚の袋がぶるぶると震えた。見ると金魚は袋いっぱいに大きくなり、そのうち袋を破って飛沫を上げながら空中を泳いだ。金魚は青い錦鯉になって僕を本殿の奥へと導く。魚の鱗に松明が反射して僕の視界は金色に霞んだ。神官たちが僕の手をとる。雲を踏んでいるような道を歩き、金色の注連縄をくぐる。

ただいま。

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神授童 晴れ時々雨 @rio11ruiagent

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